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あなたに届け

「風の精霊……」


『ふむ、やはりお前たちの作った依り代は儂の体を具現化できるようだな』


「レン君のおかげです」


『お前はこの扉を開けたいのか?』


 その問いに頷く。

 風の精霊は自身の依り代である剣を地面に刺し、その大きな翼を広げる。


『ならば唄え。お前の精霊の唄をこの地に響かせ、儂以外の四大精霊を集めるのだ』


「四大精霊を……ここに?無理です!契約も結べない私は――」


『唄うのだ。残された道はそれしかない』


 鋭い風を受け、肌が切れたような錯覚を覚える。

 拒否をするというのならば、二度とレンに出会うことは叶わないだろうと心臓が警鐘を鳴らす。

 【精霊唄】の準備を始めるリコを見て、クスリと笑うと腕を組むような体勢で唄を聴く。

 大きく息を吸い込み、震える声を押さえるようにして喉を絞る。


 ――――――――

 青き羽音は空を渡り 幾千の波を揺らす

 鶴は雲間を縫い 日の光を纏うだろう

 その刃のごとき吹き荒れる風は 道を切り拓き

 炎の舞台へと 命を送り出す

 ――――――――


 心地よい風がリコを包み込む。

 リコははっとした表情を浮かべると風の精霊は翼を大きく広げた。


『気が付いたか?その唄はまだ――』


「はい、お母様の子守歌はきちんと一つの唄になっていました」


『ならば、唄いきってみせよ』


 子守歌。

 幼き頃に何度も母に強請った唄。

 風の精霊はこの歌詞を一部だという。

 リコはその意味を理解し懐かしむような表情を浮かべる。

 ――私は、お母様に近づけたのでしょうか……?お母様はこの唄をなぜ私に唄ってくれたのですか?いえ……お母様は私の魔法に気づいていたから託したのですね。

 母から子へ。

 リコからレンに向けて【精霊唄】を届けるために、黒き妖狐の力を開放させた。


「届いてください……。私はあなたに届くまで、唄い続けます!」


 レンの作った指揮棒型の魔道具を取り出し、祈るように唄う。


 ――――――――


 黒き沃野は 芽吹く夢を育み

 根は岩を穿ち 雄大な身をもって命を守る

 その胸に抱かれし種子は 温もりを持ち

 清き水を求めて 穴熊は目を醒ますだろう


 月影を抱く流れ 白糸のごとく解けるだろう

 獺は水を掴み 雲をつかみ やがては空の門をくぐる

 清き滴は大地を潤し 命が花開いていく

 心地よき風は若葉を空へと誘うのだ


 青き羽音は空を渡り 幾千の波を揺らす

 鶴は雲間を縫い 日の光を纏うだろう

 その刃のごとき吹き荒れる風は 道を切り拓き

 炎の舞台へと 命を送り出す


 紅蓮の華は点を焦がし 朱に染める

 竜の咆哮は空を割り やがてはその身を燃やし尽くす

 灰の中より 大いなる実りの種が光を放ち

 再び黒き沃野へ 廻り還すのである


 ――――――――


 リコの唄に呼応するよう青、黄、赤の魔力がリコを囲むように現れたのだった。

 しかし、この唄はまだ完成ではない。

 それはリコが一番よく知っているのだから。


 §


 レンが目を覚ますとそこは獣人探偵事務所のソファの上だった。


「新人類は!?」


「びっくりした」


「あ、アドラさん!オレ……」


「君はよく頑張った。おかげで帰り道の手掛かりは見つかったよ」


 まだ何も話していないはずだったがすべての状況を知っているといわんばかりの発言に首を傾げる。


「大変だったんですよ?あんな恥ずかしい仕事はもう御免です」


「そうだね。しかし、中々様になっていたようじゃないか」


「……何で知ってるんですか?」


 アドラはにこやかな顔をしつつレンの穿いているスカートに指を差す。

 スカートの裾をたくし上げるも何もない。


「尻尾の留め具のところだよ」


 そう言われ、スカートを脱ぎ、留め具を確認すると小さな穴がいくつか密集して空いていた。


「これは……?」


「つまりこういうこと」


 アドラは光る板の画面を触る。


『これは……?――つまりこういうこと』


 先ほどの会話が光る板から流れる。

 大変便利なものだと実感していると、思い出したかのように顔を押さえる。


「も、もしかして……あのサービス、聴いてたのですか……?」


「だから言っているだろう?中々様になっていたと」


 レンは探偵事務所を駆け回り、ソファに何度も頭を打ち付ける。

 今でも鮮明の覚えているあの出来事を忘れたかった。

 ――喉ゴロゴロなんて、もう使うもんか……っ!

 心の中でそう誓うのだった。

 

「さて、本題だ。今は午前八時で今日の正午に実験は開始される。つまり、どういうことかわかるかな?」


「……帰るチャンスがそこしかない……ですね」


「よろしい。私とクインは君を元の世界に帰すために全力でサポートする。これを逃したらあと十年は帰られないと見込んでいい」


 自然と握る拳の力が強くなる。

 これ以上はこの世界にいるのは危険であり、昨日の新人類との対面で本能的に自覚していた。

 一番はリコの元へ早く帰りたいというのが本心だ。

 

「ただし、一つだけ要注意事項がある」


 アドラの真剣な眼差しに固いつばを飲み込む。

 

「怪物……君たちで言うところの魔物との戦闘が避けられないということ。こちらの世界で運良く切り抜けられたとしても、君たちの世界には確実に彼らが侵攻を開始しているだろう」


 こちらの世界にはアドラがいる。

 彼は記憶を失ってでもこちらの世界で魔物を処理する。

 しかし、扉をくぐった先にはアドラの魔法は届かない。

 自身で処理しろということをレンは理解する。

 元素魔法を持たないレンに倒す手段はないが、頷いて作戦を進めることにした。

 ――オレのために、これ以上迷惑はかけられないのだから……!

 お世話になった人々の顔を思い浮かべ、レンは足早にこの世界を去るという選択肢を取ったのである。

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