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取り調べ

 アドラは手に持っていた袋から箱に入った何かをレンに手渡す。


「君の状況を見て思った。しばらく何も食べていないのだろう?」


 アドラが手渡したものは食べ物だと勘が働く。

 目を輝かせて箱を開けようとするとアドラの手が上に乗る。


「はじめに言っておく。それは美味しくない。いやがらせでもなんでもなく、非常においしくない」


「え……」


 レンはなんでそんなものを提供するのかと思うが、本能が食事を欲する。


「それは高栄養価で飢餓に陥っている人のための病院食だ。おいしかったら肉まんじゅうだらけにな――食べてら」


 説明を聞く前に食べてしまい、レンは後悔する。

 本当においしくないのだ。

 苦みとえぐみのハーモニーが口内で奏でられ、胃袋が沸き立つ。

 ――は、吐きそう……!

 ここから先は意地だった。

 無理やり水で流し込み、食べきる。

 空腹はある意味吹き飛んでしまい、しばらくの間食事をするのが嫌になる。


「よく食べきったね。あれを食べられたなら、しばらくは大丈夫だろう。さて、本題に入りたいところだが、いいかな?」


 いまだに残る苦みを水でごまかしながら頷く。


「まず君は、ここに侵略をするために来たわけではない。これは間違いないね?」


「はい」


「君はこれから帰る手段を見つけるためにこの街へ来た」


「はい」


 アドラはレンの返事に大きく頷くとコートを羽織り、帽子をかぶる。

 手枷を取り出すとレンの手に嵌めていく。


「君はまだお尋ね者。これから登録証を作って自由に動き回れるようにしてあげよう」


「それって……大丈夫なんですか?」


「大丈夫、私は探偵だからね。君を助手として雇うと言えば案外通るのだよ。憲兵にも顔が利くしね」


 レンはクインと呼ばれていた憲兵を思い出し、納得する。

 ――探偵ってなんだろ?


「探偵は探し物や失せ物を探す職業だよ」


 心を見透かされたのか全身の毛が一斉に逆立ち、心臓の鼓動が速くなる。


「人の心を読み切って動かす。探偵はこういう技術も必要だからね。大丈夫、何となくそう思っただけだから」


 あまりにも正確な読心術にアドラに対して警戒網は解けることなく、事務所を出る。

 すると目の前にはクインとパトカーが待機していた。


「それじゃあ、行こうか」


 レンは用意周到なアドラを見て憧れるが、同時に恐るべき先読み力に心が落ち着かないのであった。

 

 パトカーに乗り込み、クインがハンドルを握って発車する。

 丁寧な運転でほとんど揺られることなく車は進んでいく。


「アドラ」


「何だい?」


「何か分かったのか?」


「まあね。取り敢えずこの子はお家に帰してやらないとね」


「迷子さんか」


「そういうこと」


 たったそれだけの会話だったが、クインは事情を悟ったのだろう。

 二人の不思議な会話にレンは羨ましさを感じる。

 ――何だかパートナーのような仲なのかな?リコさん……。心配してるだろうなぁ……。すぐに帰らなくちゃ……!

 リコの心配をしていると、甲高い音を立てながらパトカーが横滑りし、回転を始める。


「アドラ!怪物だ!出るぞ!」


 クインの掛け声が車内に響き、アドラは扉を蹴り開け、レンの腰を掴んで外に放り投げる。

 着地したものの慣性が働いたままで二人ともゴロゴロと熱せられたアスファルトに叩きつけられる。

 横滑りしながら進むパトカーは怪物の大きな掌を叩きつけられ、爆風が巻き起こり、顔の体毛を少し焦がす。

 堅牢だと思われたパトカーは平たい鉄板にされ、アドラの判断で抜け出していなければ――背筋の毛が逆立つ思いだった。

 レンはアドラを起こし、目の前の怪物に立ち向かう。


「君!下がっていたまえ!」


「大丈夫です!オレ、戦えます!」


 腰に下げていた杖を取り出し、怪物と呼ばれる生き物へ先端を向ける。

 クルッと杖で円を描きながら先端を怪物に向けて突き出す。

 不可視の弾丸が怪物の頭を吹き飛ばし、音と地響きを立てながら倒れる。


「このくらいの魔獣ならオレでも倒せるんだ……!」


「レン!後ろ!」


 吹き飛ばしたはずの怪物の頭はすでに再生しており、レンの目の前に顎が迫っていた。

 レンの動体視力と反応スピードでも回避する事は絶望的で身体が硬直する。


「ボサっとすんじゃねぇ!」


 クインがレンの首を掴みつつ紙一重で怪物の攻撃を躱していく。

 肺が酸素を貪り、呼吸をしていなかったことに気がつく。

 暴れ回る怪物から距離を取り、半壊した建物の影で気配を殺し、三人は次の手段を考える。


「レン。君は随分と強い個体のようだね」


「オレなんてまだまだです……!もっと強いヒトがオレの国にいますから」


「そうなると新人類は面白くないだろうな」


「?」


 レンはその意味を理解できなかった。

 自身が強くなるという事は国に貢献できる。

 国のため。王のため。

 その力を使うのがレンたちの世界だったから。


「強いのは新人類だけでいい世界だからな」


「俺たち獣人は新人類の成り損ない。新人類以外はゴミ同然さ」


「そんな――!」


 人や物の区別ついていないのだろう。

 目に映るものに対し、力任せに振り回される腕が周りの建物を吹き飛ばす。

 攻撃と攻撃の間、僅かな魔力の違和感を怪物から感じ取ったレンは目に魔力を宿し、怪物の中で駆け巡る魔力を目でとらえる。

 一箇所に過集中する魔力。

 悍ましい気配を放つそれはレンがよく知っている物だった。

 魔障石。


「魔物だ……!魔障石が腹部に埋め込んである!」


「おや、あの石がわかるのかい?」


 レンは右手を挙げて合図すると、左にジャンプして攻撃を躱す。

 ――タネがわかったからといって、リコがいなくちゃ……。

 魔法に大きな制約のあるレンは魔障石を破壊する手段がない。

 おそらく肉体強化系の魔法を扱っているだろうクインと非戦闘員と思われるアドラ。

 レンは足止めさせることしかできない現状を恨む。

 クインに向かって腕を振り上げた魔物の肘部分をレンは打ち抜くと肩に手が置かれる。


「よく耐えきってみせた。あとは私に任せるといい」


「え……?」


 アドラは帽子を取り、銀色の髪が風に揺られる。

 王族の証である金色の瞳と頬に紅い文様。


「ふく様とヴォルフ様……。それにリコと同じ……」


 ゆっくりと魔物へと歩みを進めるその後ろ姿は魔物ですら狼狽える圧倒的な王者の風貌を表す魔力を昂らせていたのだった。

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