最強同士の戦い
突然の轟音に振り向くと、顔面を何かに掴まれ、地面に叩きつけられる。
肺の中の空気を押し出され、全身が痺れた影響で酸素を貪るが息が吸えず悶えると右腕を踏みつけられる。
乾いた細い物が折れる音が鳴り響き、声にならない声で悲鳴をあげる。
「人間ベースで実験が進まないのなら、ケモノベース……なるべく強い個体で試してみるか」
涙を堪え、痛みで視界が霞む中、レンを襲った者の顔を見る。
金髪金眼、頬には紅い紋様。
白装束に黒のローブを羽織った非常に整った顔の人間の男だった。
「にん……げ……ん……!?」
「生物学的にはな。だが、構造は違う。新人類だからな」
新人類と名乗る男が魔力を展開すると、あまりにも悍ましく悪意に満ちた殺意にレンの意識が一瞬で暗転した。
「レンを離せ!」
砂埃から不意をつくように迫ったサム。
筋骨隆々なヘビー級のサムに対し、華奢な肉体の男。
男は避ける素振りを見せず、指一つでサムの拳を止める。
「な……!?」
「……お前は、まだ弱い。私の邪魔はできもしない」
指でサムの拳を弾くと、魔道具ごとサムの右腕をへし折りながら岩山に叩きつける。
「サム!!」
「先生!?」
メリルとサクラが駆けつけると、余りのダメージに息を呑む。
メリルの胸ポケットからビンに詰められた青い液体と黄色の液体を取り出し、一つに混ぜ合わせる。
「サム、霊薬だ。ゆっくり休むんだ」
霊薬と呼ばれるものを受け取り、一気に飲み干す。
【太陽】を見つめ、残りの力を振り絞って状況を話す。
「レンが……ヤベェ……!新人類に……」
その言葉を聴いたメリルは鎌型の魔道具を展開し、一振りで砂埃を振り払う。
そこには顔面を掴まれ、意識を失っているレンと碧い石を手に持った金髪金眼の男が立っていた。
メリルが一歩踏み出すよりも早く、碧い石をレンの腹部を貫きながら埋め込んだ。
鈍く、確実に肉を抉る音が響き渡る。
その光景を見た三人は時が止まったかのように微動だにしない。
何も言葉にもできず、動くことさえ出来ない。
レンはピクリとも動かず、男は眉を顰める。
「なんだ。やはり失敗か。本物を作るにはこれではないということか」
ひどく残念そうに地面に向けて手を翳す。
「『貫け』」
短く言葉を発すると、光の柱が地面を穿ち、大穴が顔を出す。
レンを穴へと放り投げ、奈落の底へと飲み込まれた。
一息吐き、嵐のような憤怒の魔力を巻き起こす者へと目を向ける。
リコは落ちていくレンを見つめることしかできなかった。
周囲の空気を取り込んだ瞬間――爆風と共にリコの魔力が暴れ出す。
「あぁ……っ!ぐるあ゙ぁぁぁぁッ!」
恐怖。憤怒。憎悪。
全身を取り巻く魔力の奔流は若干の黒みを帯びる。
四本の尾を放射状に広げ、牙を剥き出しにし、いつもの落ち着いた表情はそこにはない。
緋色に輝く杖を手に取り、振りかぶった瞬間――リコの身体は凍りつき、身動きが取れなくなる。
男は首を傾げると目の前に狼に乗った九尾の白狐が現れるのだった。
意識が凍る中、言葉が漏れ出す。
「レン……く……ん」
狼に跨がる九尾の白狐。
それはこの国の女王ふくだった。
顎を上げ、男を見下して口を開く。
「久しぶりじゃの……」
「あの時の女狐か。まだくたばっていなかったか?」
「わしはそこまでか弱く見えたのかの?」
「まさか。さっさと死んでくれれば良いのにと思っていたよ」
「相変わらず可愛げのないニンゲンじゃの」
「新人類と呼べ」
「知らんの。姿形はニンゲンそのものじゃ。魔法が使えるだけしか変わらぬじゃろう?」
「普通に魔法が使えるだけじゃない。私たちは神の領域に踏み込んだ選ばれし種族なんだ。下等な旧人類と一緒にしないでもらいたい」
「わしら獣人だって、お前達の思っているように野蛮ではないがの?」
二人の口撃は流れる水のようにスラスラと並べられ、お互い詰まることなく繰り広げられた。
二人は棘のある言葉を発し、満足したのか、大きく息を吐く。
「やはり、お前達とは相容れられないな。どうする?戦うか?」
「奇遇じゃの。わしはお前を殺しとうてたまらんの」
「殺す?私を?」
肩を振るわせ、笑いを我慢するが代わりに禍々しいほど真っ黒な魔力を放出させる。
サクラはその一端に触れただけで意識を魔力の奔流と共に流れ出る。
ふくは男の魔力に対し、白く煌めく魔力で押し返す。
そして、それを支えるように氷のように冷たい魔力が男とふくの魔力を包み込む。
「わしとぼるふでお前を斃さねばならぬ。わしの子を穴に放った罪での」
「たかが一国民を殺したくらいで?」
「わしにすれば家族同然じゃ。覚悟は良いの?」
左手の親指と人差し指を立て、男に向けると和弓が掌に収まる。
ふくは上空に向け、渾身の一矢を放つ。
「私に撃たず、どこに向けて撃っているんだ?」
「減らず口じゃの。れん、お前の魔法を借りるとしよう。『数多の魔法の根源よ、我が梓弓より放たれし魔を穿つ光の矢を、其方の魔法により重ね合わせ、強大な力へと昇華せよ』」
上空で失速した矢は百を超える数に増え、雨の如き降り注ぐ。
男は顔色を一つ変えず、迎撃する態勢に入る。
――その油断が命取りじゃ。れんの魔法はその程度ではないのじゃ。
矢は男に目掛け、一点集中の連撃――全ての矢が一つになった強力な一撃へと変わる。
初見の魔法に男は顔を強張らせ、その身で矢を受け取るが、穴へと押し込まれる。
穴から立ち昇る光の柱を睨みつけ、尾を一つにまとめる。
「そのまま死んでくれると、わしはありがたいのじゃ」
そう告げると同時にリコを凍らせていた氷が溶け、黒いモヤがリコに忍び寄るのだった。




