祠づくり
二人は風の精霊の頼み事『祠を建て直す』事にした。
しかし、建築の技術は皆無に等しく、魔力樹の集成材を作ったところで頭を抱える。
「どうやって建物は繋ぎ止めてるのかなぁ……。ただ組むだけじゃ隙間だらけだし……」
「そうですね……。釘や楔を使って固定することはあっても、私たちではどこに入れるべきか分かりません……」
「「うーん……」」
悩んでいる二人を遠くから眺める風の精霊は楽しそうにしていた。
――お前たちはあれだけの事を成し遂げているのだ。自信を持って挑むといい。
二人が努力をしてきたことを指輪や魔法から読み取り、助言はせずに見守ることに徹する。
何も言わずひたすら見守る精霊に対して苦笑いを浮かべ、レンは魔力を通してリコに話しかける。
「これも試練なのかな……?」
「というと?」
「ほら、父さんが魔道具で姿を維持させるための物を作ったでしょ?」
リコが頷くと口に手を当て、精霊が別の試練を与えているのか疑い深く考察する。
そして、レンは一つの結論に辿り着き、目がキラリと輝く。
「これさ……ごにょごにょ……」
「!?」
レンの回答にリコは目をまん丸にして驚く。
こういう時のレンは鋭いところを突くものだとリコは感じ、尻尾が大きく膨らむ。
「ね?」
「一理……あるかもしれません……!早速取りかかりましょう!」
方針が決まった二人の集中力は異常だ。
先ほどまで戸惑い、作り方を知らないが故の迷いは無くなり、魔力樹やミスリル、そして紅い鉱石を利用して祠製作が進んでいく。
魔力樹は【圧縮】や【変形】の魔法によって多少の自由な形に変えられる。
ミスリルは魔力を流せば変形させやすい材質であり、コーティング材や補強材として扱える。
リコは膨大な魔力を持ち合わせており、細かい作業が得意だ。
川のせせらぎの様に魔力を流し込み、ゆっくりと千切らない様に薄く伸ばしていく。
それは箔の様な薄さとなり、魔力樹に巻き付けることで耐水、耐候性を向上させることができる。
「レン君。紋章を組んでいった方が良いかと思いますが、私がやりましょうか?」
集中しているレンは一息吐くとリコの顔を見ながら頷く。
任せた。
リコにはそう聞こえ、胸の奥がジンワリと熱を帯び、口角がキュッと上がる。
金色の瞳を爛々と輝かせ、紋章を組んでいく。
特別な魔法ではなく、【風】の紋章を組んでいく。
風の精霊が好む風を吹かせられるようにと祈りながらミスリルに刻んでいく。
一方レンはミスリルと紅い鉱石を使った骨組みを組んでいた。
リコのために作った魔道具は最大出力を発揮していたが、亀裂やひずみが起きておらず見事に耐えきっていた。
当初の目的である『リコでも扱える魔道具をつくる』という目的は達成した。
レンの今の目標は【魔法技術士】一つである。
魔道具制作が一流の証。
この資格を手に入れることでレンは最終目標である【調査隊へ入隊】が可能になるからだった。
――ただ魔道具を作るんじゃダメなんだ……。オクトさんでもやらないようなことをしなくちゃ……!
レンの瞳の奥にはこの国最高峰の魔法技術士オクトと非公認魔法技術士でありながらオクトよりも難易度の高い魔道具を製作した父親のアルの姿が映していた。
リコと共鳴させた魔力であれば他人への魔法や魔道具を作ることができる。
レンは今、作っているものに対してあるものを付与しようとしていた。
ふう――と一息吐くと空が暗がりになっていることに気が付く。
二人の集中力で時間は忘れられ、一呼吸で夜になってしまったのかと錯覚する。
同じころ、リコもレン同様に一息吐くと二人の目が合う。
リコは困ったように眉を下げて微笑むと、レンはくしゃっとした笑顔を返す。
「こっちは準備オッケーだよ。リコさんは?」
「私も大丈夫です。完成はもうすぐ……。やりましょうか……!」
「うん!」
一部詩集を見ていた精霊は二人の作っているものが想像できなかった。
頼んだものは祠なのだが、精霊の知っているものとは大きく違い、組み立てられる前のパーツが転がっている状況で「もうすぐ完成」らしいのだ。
まったくと言っていいほど状況が呑み込めず、うろたえ、自信を構成している風が不安を表しているように渦巻いていく。
そんな精霊の事などそっちのけで二人の世界は進んでいく。
両手を繋ぎ、互いの唇を重ね合わせ、互いの体をめぐる別々の魔力を二人で循環させていく。
二人の合わせた魔力は精霊の持つ魔力よりも強く輝き、【夜】を跳ね返す。
唇を離し、微笑み合う。
レンの暖かい春の陽気を感じさせる魔力とリコの凛として月のように静かな魔力が二人の体をめぐり、想いを確かめ合う。
「リコさんの魔力はとても心が落ち着く……」
「レン君の魔力はとても暖かくて安心します」
レンの左手、リコの右手が繋がれたまま材料と向かい合う。
そしてその上には風の精霊がふわふわと浮いている。
初めて出会った時の威圧感や恐怖といった感情は二人から出て行っており、改めて精霊に対して敬意を払うように深々と頭を下げる。
「風の精霊よ!」
レンの叫びにも似た大声に体を縦に震わせると、翼を広げて精霊らしく威厳のあるような振る舞いを見せる。
翼はまるで天女のごとく月明かりによって白く光り輝き、透き通るような羽の隙間から月明かりが零れ落ちてくる。
「われらが贈る社に住まうことを願う!」
「われの唄を」
「われの器を」
「「その目と耳でしかと見届けよ!」」




