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契約できない!?

『お前たちの言う【召喚】とやらは我らを呼び寄せ、魔法を代行するものだ』


「知ってます」


『お前の魔法には我らを呼び寄せる力が無いと見える』


「どういうことですか?」


『そうだな……』


 リコの質問に風の精霊は腕を組んでその場をウロウロと歩き回る。

 説明がつかないのか、中々答えを出さない精霊に対してリコは一歩前に出て跪く。


「説明が難しいのであれば、先ずは正規の手順で契約させてもらっていいですか?」


『いや……お前の魔法にはだな――』


「やってみるんです」


『……』


 結論を求めるリコの圧力に精霊は一瞬怯む。

 リコの誰に対しても物怖じせずにやり遂げようとする性格はヒトに対しては嫌われるものだったのかもしれない。

 しかし、精霊相手では話が違い、リコの性格が良い方へと転んでいく。

 契約とは対等であることが前提条件であり、遠慮や恐怖を抱く相手に対して精霊は契約を結ばない。

 リコの発言に怯んだのは精霊に対して対等であると行動で示したからだ。

 渋々リコの提案を受け入れ、リコの左手を取り、手のひらに魔力を集める。


「我、汝と契約を乞い願う。暴風を操り大気を司る風の精霊の恩寵を我に授けよ。我が名は……リコ」


『……汝との契約を結ぼ――』


 契約が結ばれようとした瞬間、手のひらに集まった魔力が弾け、二人は反動で吹き飛ぶ。


「リコさん大丈夫!?」


「は、はい……私は大丈夫です。……やはり、私には資格が無いノーマジなのでしょうか……」


「そんな事……!」


 契約が出来ずに落ち込むリコに励ましの言葉を考えるが、喉の奥がつっかえたような感じがし、言葉が出なかった。

 ――ノーマジじゃないなんて、軽い気持ちで言えない……。その辛さはオレだってよく知ってるから……。

 レンはリコの左手をギュッと握ると硬い感触を思い出す。

 父親のレシピを元に作った魔道具の指輪。

 レンの魔法と一級品の設備と素材、そして【召喚】の使い手である王族の助言によって生まれた魔道具。

 ――もしかしたら……!?

 レンはリコの手を取りながら立ち上がり、精霊の方へと振り向く。


「風の精霊様。この魔道具に紋章を付与することはできますか?」


『マドウグ?』


「はい。これには紋章を保存する力があるんです。玉藻様という妖狐の召喚士が精霊の助言を与えてくれて作ったものなんですが……」


 精霊は興味深そうにリコの指輪を眺め、形を確かめる。

 徐に左手を掲げると上空に紋章が展開される。

 その大きさはリコの今まで放ってきた紋章を遥かに凌駕し、山を覆う程の規模だった。

 レンはあまりの大きさの紋章に開いた口が塞がらず、目を点にする。


『我ら精霊が扱う紋章は一番小さくともこの大きさだ。お前の小さき魔道具とやらに封じ込めることは出来るのか?』


「そ、それは……!」


「できます。私とレン君の力を合わせればきっと」


 リコの自信はどこから来るものかレンにはわからない。

 だが、その言葉はレンにとって勇気が与えられる言葉だった。


「やってみせます……!」


「……!」


『ふむ。良い顔だ』


 精霊は腕を組んでその場に座り込む。

 紋章の維持をするための体勢のようにも、レンたちの様子を伺うようにも見える。

 リコの手を取り、魔力を【共鳴】させる。


「あの紋章はかなり複雑です。私たちが使うものとは根本が違って見えます」


「そうだね……。でも、使えないわけでもなさそう……。色んな人の力を受けて作り上げた指輪は、あの紋章の力にだって耐え切れるはず。【結合】の上級魔法を組もう……!」


 リコが【結合】の紋章を描くと、それをレンが増やし、重ね合わせる。

 指輪を風の精霊の紋章に向け、その間に【結合】の上級魔法の紋章を挟み込む。

 深呼吸し、二つの紋章を睨みつける。


「『神々の恩寵を受けし素材と想い達よ、皆が手を取り合い、強大な力を器へと注ぎ込め!』」


 魔法が発動し、精霊魔法の紋章がリコの指輪に向かって移動を始める。

 しかし、その強大さ故にレンの腕が引きちぎれそうなほどの反発力を生み出していた。

 これはレンの魔法がオクトの魔道具に入らなかった現象と同じであり、紋章が封じ込められることを拒絶していたという証明である。

 レンの足元に赤い点が描かれる。


「レン君……!?大丈夫ですか!?」


「う……ん!……まだ……まだやれる……!」


 リコは何も出来ないことに焦りを覚える。

 運動が苦手で頼みの魔法も精霊と契約すらできなかった。

 得意の知識も精霊の魔法と獣人の魔法では全く構造が違う。

 悔しさのあまり涙を溜めて、己の力の無さに恨みを込めると、耳元から歌声が微かに聞こえる。

 声の主を探そうとあたりを見渡すがどこにもいない。

 瞼を閉じて耳に意識を集中させると、耳元――髪飾りから聞こえていた。

 壊れてしまっていた髪飾りの魔道具を紐で無理やり髪留めとして使えるようにしていたリコ。

 どういう訳かただの残骸であるはずの魔道具から声が発せられていた。

 そこから聞こえる歌声はリコがよく知っている音程を奏でており、不思議と心が安らぐ。

 ――母様の……子守唄……。役に立たないかもしれません。それでも、貴方の力になりたいのです……!

 大きく息を吸い込み、魔力をのせて、レンの心の支えになるように静かに唄う。

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