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精霊と対峙する

 山頂にたどり着いた二人は吹き荒れる風に耐えていた。

 この風は山を登ってきたときのものより濃密な魔力が込められている。


「先生が言ってた……!精霊は魔法そのものだって……!」


「という事はこの風はもしかすると精霊かもしれないという事ですか?」


「きっと……。でも、俺の目には何も感じられない……!」


「……では、いっその事あの綺麗な石を破壊しましょうか?」


 リコは風に煽られながらも杖を構え、魔法を放つ準備に取り掛かる。

 すると風の中に色の混ざったものがレンの瞳に捉えられ、リコを抱き抱えてその場を離れる。

 リコの立っていた場所に風の刃が叩きつけられ、岩を砕いた。


「レン君、よく分かりましたね……?」


「リコが敵意を見せた瞬間、色のついた何かがリコに向かって飛んでいったんだ……。きっと精霊だよ……!」


 その言葉を受けて杖をホルダーへ戻し、ゆっくりと翡翠色に輝く石のそばに向かって歩いていく。

 レンはリコの手を取り、魔力を【共鳴】させてより強い魔力纏いで対抗する。

 風の出どころである石の前に立ち、リコは魔力を集中させる。


「風の精霊よ、我が呼び声に応えよ」


 翡翠色の魔力が四方八方から集まり、石を依代としてその姿を現す。


『我を風の精霊と知って、呼び出したか?』


「はい」


『何が目的だ?』


「風の精霊である貴女と契約を結びに参りました」


『……そうか。我と会話できるという事は、その素質を持っているという事だったな。永い時を過ごしたおかげで理解が遅れたわ』


 少しずつ、魔力の塊から姿が見え始める。

 それは白い羽毛を羽織り、リコや王族と同じように顔に紋様を浮かべたヒト――鳥人族と同じ見た目をしていた。

 レンは口を一文字にして威圧感に耐える。

 遥か格上の生き物。

 まるでヴォルフを相手にしているものと同じだった。

 風の精霊はリコからレンへと視線を移す。


『ほう……?狼族の末裔か?何とも奇怪な魔法を持っているな……』


「お、狼族のこと……知っているんですか?!」


『知っているも何も――いや、知りたければそこの娘同様に力を見せよ』


 突然レンも試練に参加することになり、慌てふためく。

 そんな恋を落ち着かせるようにリコは握りしめる手を強くする。

 彼女の横顔は不安や緊張が大きく占めていたものの、レンと共に戦えるということで安心が混ざっていた。

 そんなリコを見てレンは嬉しそうに握り返す。


「やろう……!オレたちはそのために来たんだ!」


「はい!私たちの未来のために……!」


 風の精霊の魔力に抗うように【共鳴】させた魔力を発散させ、戦いの火蓋が切って落とされた。


 レンは普通のツルハシの魔道具を取り出し、魔力を込めた打撃を精霊に目掛けて振り下ろす。

 力任せに振り下ろした先は精霊を捉えておらず、地面を砕いていく。

 魔法そのものである存在で、物理的な攻撃はまったく効果が無いようだった。

 構えを整えようとつるはしを持ち上げると背後に刺さるような威圧感を感じ急いで前転する。

 不可視の砲弾がレンの立っていた場所に着弾し、暴風が吹き溢れ、宙に放り投げられる。


「ぐっ――!?」


「レン君!『我が想いビトを守る大楯を与えよ!』」


 レンの背後に魔法でできた半透明の大楯が現れ、身をクルっと回転させて盾に着地する。

 それを足場に再び精霊に向かって飛び込む。

 魔力をつるはしに凝縮させて振り抜くと精霊に届かず、密度の高い空気の塊に阻まれる。

 頭上から重たいものを感じ取ったレンはつるはし放り、退避すると、大気の槌が振り下ろされた。

 レンは吹き飛ばされないよう、岩にしがみつくと、リコの声が風に乗ってくる。


「『大地を揺るがす怒れる咆哮よ、我に仇なす者を無慈悲なる地竜の咢で嚙み砕かれよ』」


 戦っている舞台が変形する勢いで大気の槌を打ち砕き、龍の頭を模した岩槍が風の精霊を閉じ込めた。

 リコの魔法は【土】の魔法の限界の出力であり、レンの作った魔道具はリコが使うことで何故か最大出力まで増幅できる。

 今、その理由を知った。


「オレとリコさんの魔法が共鳴してる……!?」


「私の……魔法ですか?」


「うん。本当にリコさんの魔法は【召喚】なんだろうか……?」


『やれやれ……お前たちは何も知らずにここまで来たのか?』


 閉じ込めたはずの風の精霊が二人の背後に浮かんでおり、血の気が引いた表情を浮かべる。

 風の精霊はそれ以上の攻撃をする様子がなく、翼を畳んで目の前にしゃがむ。

 普通の生き物と違うその存在に二人は息をのむ。


『お前たちは儂を使役しに来たのではないのか?』


「はじめはそのつもりでした。ただ……」


『ただ?』


「あなたは私たちに殺意を持って攻撃をしませんでした。レン君も攻撃されるとき、何かを感じましたよね?」


 その問いにレンは頷く。

 魔力を共鳴させることで感覚が研ぎ澄まされたのではなく、明らかな手加減による気配だったことに落胆する。


『そこのネコオオカミ。お前は落胆することはないぞ。魔力を使って気配を感じ取るという行為は戦闘において非常に有効な手段だ。感覚をさらに研ぎ澄まし、真偽を図れるように精進せよ』


「は、はい!」


 決してその感覚が無駄になっていないことを知り、それを磨けという激励にレンの表情が明るくなり、尻尾がピンと立ち上がり、ゆっくりと左右に振られた。

 精霊はリコの方へ向くと、浮かない表情を浮かべる。

 それに対して、首を傾げるのだった。

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