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狐猫の重奏唄  作者: わんころ餅
入学編
1/59

入学テスト

「次のヒト」


「は、はいっ!」


 緊張しつつも元気よく返事をした少年は前に出る。

 青い髪の羊族の女性が少年の前に立ち、名簿を確認する。


「名前と種族を」


「レンです!猫族のオスです!」


「性別まで言わなくていい。では入学時のテストを行う。ついて来なさい」


 レンと名乗った少年は羊族の女性の後ろをついていき、広い空間へと案内された。

 大きな競技場であり、レンと同じく数人がテストを受けていた。


「よそ見はしないことだな。では試験の内容を決めたいので、使える魔法を教えてくれ」


「えっと……」


「??」


 中々自身の魔法を伝えようとしないレンに女性は首を傾げて疑問を感じるが、すぐに答えが出る。


「そうか、お前は魔法が未発達なんだな。では、私の言う通りに発動手順を行なってくれ」


「わ、わかりました……!」


 レンは姿勢良く立ち、指示を待つ。


「まずは魔力を昂らせる」


 女性がオーラのように見える魔力を立ち上らせると、レンもそれに倣って魔力を放出する。


「その魔力を額に集める」


 中々魔力が額に集まらず苦戦していると、女性がレンの額に指を当てると意識が触れられた額に集中して魔力が集まってくる。

 すると、段々と頭の中に膨張感が芽生え、平衡感覚を失い、フラフラしてくる感覚に陥る。


「どうだ?なにか聞こえてこないか?」


「な、なにも……ちょっとフラフラします……」


「魔法なし……とは。珍しいな」


 女性が拍手を一度打つ。

 すると集まっていた魔力が弾け飛んだのか元の平衡感覚を取り戻す。

 

「魔法なし、ですか……?」


 レンが女性に聞き返すと、頷き、魔法がないという事実が確定した。

 膝から崩れ落ち、ショックで言葉が出なくなった。

 女性は淡々と記録を残し、レンに一枚の紙を渡す。


「これを持って中等級の教室へ向かうと良い」


「ま、魔法がないのに、中等級ですか……?」


「その魔力の量があれば、魔道具によって戦闘経験だって積むことができる。生まれ持った魔法が全てではないのだよ」


 納得のいかない表情をしているレンに対し、女性は退出を促す。

 競技場を出ようとした瞬間、レンとすれ違った女の子に目が移る。

 野狐族の女の子であり、藤色の髪色をし、ポニーテールがとても可愛らしく見え、同時に種族独特の雰囲気に釘付けとなる。

 視線に気づいた女の子はレンの顔を見ると半分だけ瞼を閉じ、心底嫌そうな顔をされた。


「ふんっ」


「あっ……」


 風に靡くポニーテールが小さくなるまで見届け、胸に手を当てる。


(可愛い子だったなぁ……)

 

 競技場をあとにし、教室のある城のような建物へと足を向ける。

 カバンから入学の案内を知らせる上を取り出し、教室の場所を調べる。

 魔法がないという現実を突きつけられ非常に重たい足取りで教室へと向かう。

 レンは戦災孤児であり、孤児院の出身である。

 身寄りのない子供たちはこの国の教育システムとして成人となる年齢に達したレンは強制的に一年間の学園と寮生活を過ごすこととなる。

 もちろん孤児院出身でなくとも入学は許可されており、学園で受けられる教育を求めるヒトは多い。

 先輩というべきか今年卒業するであろう学園の生徒たちが運動場で魔法を放ち、魔法競技の練習をしていた。

 

(いいなぁ……。オレも、あんなふうに魔法が使えたら、もっと楽しかったのかなぁ……)


 羨ましそうにその光景を眺めているといつの間にか中等級の教室の前に到着していた。

 レンはそっと教室を覗くとすでに人が集まっており、そろそろホームルームが始まろうとしていた。

 既に仲の良い者同士のグループの輪ができており、入るのをためらっていると肩に手を置かれ、声がかかる。


「何してんだ?」


 レンはびっくりして飛び上がると、教師の制服を着た熊族の大柄な男性教師だった。

 持っていた紙を見た男性教師はレンの首根っこを掴んで教室の中にいれる。

 そんなふうに教室に入るものだから全注目を浴びてしまう。


「さーて、お前たち席につけよー。ほれ、空いている席に座りな」


 雑に降ろされ、恥ずかしさ顔を隠しながら空いている席に座る。

 全身が沸騰しそうな程の恥ずかしさで、もう既に家に帰りたい気分だった。

 全員が着席した事を確認し、男性教師が口を開く。


「よし、今年一年間担当をさせてもらう【サム】だ。見ての通りクマ族で肉弾戦が得意だ。まぁ、中等級の君たちは魔法がボチボチでフィジカルが強い子が多いから、戦闘訓練に悩んだならいつでも相談しに来ると良いぞ」


(あの先生が言っていた事ってそういう事だったんだ……。それなら魔法がなくても大丈夫……かな?)


 サムの説明にレンは少し安心したような表情をしていると、サムに見透かされていたのかウインクを受ける。

 若干引き気味のレンはカバンで顔を隠し、隙間からサムを覗く。


「それじゃあ自己紹介と行こうか!そうだなあ……一番最後に入ってきたキミから自己紹介していこうかな?」


「えぇ~っ!?」


 事実と理不尽を感じながら渋々教室前方にある壇上へと上がる。

 再びクラスメイトの注目を浴び、顔が熱くあるが、覚悟を決めて口を開く。


「お、オレは猫族のレンです……!魔法がありませんが、調査隊に入ることを目標にしてます……。よろしくお願いします……!」


 自己紹介が終わり、頭を下げると異様な空気感にレンは気づく。

 すると大柄な犬の獣人のクラスメイトが机をたたきながら笑い出す。


「アーハッハッハッハ……!!魔法ねぇのに調査隊に入れるわけないじゃねえか!あれは特級クラスだけが志願できるんだよ!面白ぇものみたわ~!なぁ、お前もそう思うだろ?」


 犬の男子はクラスメイトを巻き込んでレンを笑い者にした。

 レンは大真面目であり、茶化したりしたわけではなく馬鹿にされ、拳を握りしめる。


「オ゙ッホンッ!!」


 サムがわざとらしい咳を入れ、賑やかになった教室を静めさせる。

 レンの肩を大きな手でボンと叩き、再びあのウインクを炸裂させる。


「夢を持つことは、立派だ!決して楽な道ではないが、努力をしようとするヤツは嫌いじゃないぞ!さ、勇気を持ってくれたレンに拍手!」


 サムに促され、まばらだが拍手が沸き起こり、レンは自席へと戻ると敵意むき出しの視線を隣から受ける。

 横目で見るとサムに止められたことが余程悔しかったのだろう、今にも噛みついてきそうであり、レンは思わず窓の外へと視線を向けた。


(お父さん、お母さん。オレ……最後までやっていけるか心配になったよ……)


 特大の不安材料を抱えたレンは、幸先の悪いスタートを決めたのだった。

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― 新着の感想 ―
これはなかなかですね。
魔法は使えないが魔力はある。 という事はいずれ魔法を使える様にもなるのかなと予想しながら読ませて頂きます。
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