表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

青を秘匿する

作者: 結鷺ことり

 私には幼馴染がいる。容姿も良くて、おまけに頭もいい。早朝、そんな彼女が私に話しかけてきた。

「おはよう夏紀!登校中に会うなんて久しぶりだね」

「おはよう…」

「大丈夫?気分悪そうだけど」

 朝からあんたに会ったからだよ。という言葉を飲み込んで、作り笑いをする。

 正直なところ私は彼女が嫌いなのだ。

「そうだあんた、先週告白してきた男子はどうしたの」

「あれ、言ってなかったっけ?断ったよ」

 知ってた。毎回そうだもんね。

「羨ましい限りだよ」

「そんなことないよ〜」

 私に対する皮肉か?私は好きな人に想いを伝えることも躊躇うというのに。

「私には夏紀がいればいいから」

 ほら、すぐそういうことを言う。その、特に意味を持たない言葉が私を傷つけるとも知らないで。

 少し肌寒くなってきた季節、ドロドロとした感情を秘めて、私は今日も学校に行く。



 彼女が登校すると男子達がソワソワとした態度に変わる。少なくとも彼女は1週間に一回は告白されているだろう。

 その度に彼女が断ると、少しだけ、ホッとする。

 まだ、私を置いていかないと思うことができたから。ただそれもいつまで続くかわからない。


 そんな彼女に比べて私は容姿も頭も、性格も悪く、良くて彼女の側近のようなものだろう。私に話しかける人は基本的に、彼女に伝えて欲しいといった伝言がほとんどだ。

 もちろん伝えたことなんてないけれど。



 放課後、彼女がこちらに走ってきた。

「ねえ、今日ショッピングいかない?」

「私お金ないからパス」

 冗談じゃない。学校外まで一緒にいないといけないなんて。

「そこをなんとか〜。スタバ奢るから」

「……はあ、いいよ」

「やったー!」

 ここで断ったらあまりにも嫌なやつに見えるから、仕方なく。



「わー!これ可愛い!!」

 高そうな洋服屋で、淡いピンクのスカートを見ながらそう彼女は言った。

「そうだね。似合うんじゃない?」

「私じゃなくて、夏紀に似合うと思ったんだけど…」

 私が?それはない。と笑って誤魔化す。彼女は不服そうな顔をしていたが、急に閃いたような顔をして提案をした。

「じゃあ、私が買うから、夏紀がこれを着てよ!」

 どうしてそうなるんだろう。

「まあ…、それなら着ないことも、ない、けど」

「ふふ、じゃあそうしよ!」

 彼女は心底嬉しそうな顔をしていた。



「そうだ、クリスマスって予定空いてる?」

「……そんな先の予定なんてわからないよ」

「じゃあさ、よければ予定空けといて欲しい」

「男子からの誘いを断る理由?」

 私は愛想笑いをしながら適当に話を合わせた。

「……夏紀と遊びに行きたくて」

 真剣な彼女の顔を見て、私は少しだけ、罪悪感を持った。


 それだけ。他に理由なんてない。


「……いいよ」

「やった!約束ね」

 ああ、感情を表に出すな。落ち着いて、いつも通りに。

「じゃあ、私もう帰らなきゃいけないから」

「うん!じゃあ、また明日ね」

 彼女はにっこりと笑って去っていく。

 夕日に照らされながら帰る様子は、さながらドラマのワンシーンのようで。


 なんて、綺麗なんだろうと思った。


 でもその感情は、私なんかが持ってはいけない。


 彼女の声が嫌い。顔が嫌い。私に向ける、あの瞳が嫌い。

 その目を向けないでよ。どうして私は私なんだろうと苦しくなる。


 ほら、私はあんたのことがこんなにも嫌いなんだから。

 私はあんたの友達なんかじゃない。私なんかがあんたの友達じゃいけない。

 あんたにはもっと素敵な人がいる。私に優しくしないで。



 駄目だとわかっていても、少しだけ、希望を持ってしまうじゃない。


 傷つくだけのものなら、捨ててしまえればいいのに。


 だから私は、彼女にずっと嫌悪と嫉妬を持ち続けるのだ。

 この気持ちを隠して、隠し通して。

 そうあることが、彼女のためであり私のためだ。



 そうすればきっと、私の気持ちは美しい青のまま、大事に抱えていける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ