クリスマス
「ほらほら、お義母さま、こっちですよ」
「はいはい、そんなに急かしてどうしたの?」
「どうしたのって、もう。今日はクリスマスじゃないですか」
「あら、そうだったかしたら……。気がつかなかったわ」
「みんな待ってますからね。ほらあ」
「おー、母さん、元気?」
「おばーちゃーん!」
「あたしの隣に座って!」
「えー、おばあちゃんはぼくの隣だよ!」
「はいはい、うふふ。まあ、素敵な飾りつけね」
「あたしがやったんだよ!」
「ぼくもだよ!」
「うふふ。あら、あれは何かしら……?」
「何って、クリスマスツリーじゃん!」
「すごいでしょ! おとーさんが大きいのを用意したんだよ」
「ははは、なかなか豪華だろう?」
「そうなの……でも、真っ白で、なんだか……」
「素敵ですよね。見てるだけで、うっとりしちゃう……」
「え、ええ……でも、クリスマスツリーといえば、やっぱり緑のモミの木ってイメージがあるから……」
「ははは、母さん、それはもう古いよ。それに本物の木なんて、さすがに無理だよ」
「そうですよ、うふふ」
「あはははは!」
「はははは!」
「え、ええ、そうよね……」
「さあ、お祈りしよう。この先、私たち“月人”がずっと幸せに暮らせますように」
あるとき、人類は月に居住区を築き、移住を開始した。
最初はほんの一握りだった移住者も、年月を重ねるごとに施設は整い、人口が増えていった。地球からの供給に頼らなくても、自給自足が可能になった。すると次第に、彼らの中にある思想が芽生え始めた。
月に住む者こそが新たな人類であり、地球に残された者たちは劣った存在である――と。
一方、地球では環境破壊が加速し、限られた資源を巡る争いが激化していた。やがて、大戦争が勃発し、核が落とされた。
それは、あまりにもあっけない終焉だった。
大地は焼かれ、海は濁り、空は厚い灰に覆われた。長い歴史を紡いできた地球の人類は、静かに滅び去ったのだ。
ただし、月に住む彼らを除いて。
彼らは自らを『月人』と名乗り、地球人が滅亡したその日を『クリスマス』と呼び、毎年盛大に祝うようになった。
滅びの象徴たる、真っ白なキノコ型のクリスマスツリーの前で……。