第5話「『飛龍のいる異世界』その後」
「やったのか・・・・」
飛龍は黒い炎に包まれながら、もがいている。
油断はできない。
黒煙魔法を成功させたとはいえ、まだ生きている。
シリナはその場に倒れそうに、杖で支えて立っている。
(やばいな・・・こちらにはもう打つ手はない)
飛龍は長い首をシリナの方に伸ばして来た。
シリナは立っているのでやっとだ。
このままでは危ない。
「シリっ・・・」
「待って」
シンバルが引き留めた。
「様子がおかしいですわ・・・」
飛龍はシリナの顔を覗き込む様に見ている。
まるで顔色を伺うみたいに。
「・・お、お母さん・・・・私、は、お母さんから守って貰って・・ばっかりだった・・・」
シリナは、震える声で飛龍に話しかける。
「お母さんが・・・いなくなって、色々・・・あったよ。気づいたら・・・異世界に飛ばされて・・・・」
シリナはその場に倒れ込む。
「私・・・これなら、お母さんみたいな魔法使いに・・なれるのかな・・・・」
シリナは手で止まらない涙を拭う。
(大丈夫だよ。シリナ・・・)
どこからか声が聞こえる。
シリナだけじゃない。俺たちにもはっきりと聞こえる。
(貴方は強い子。私みたいな魔法使いではなく、感情に飲み込まれない強い心を持っている、自分らしい魔法使いになれるよ・・・・)
飛龍は最後の力を絞って、顎をシリナの頭に乗せた。
まるで母が子の頭を撫でてるようだ。
「うっ、お母さんぅッ!!ありがとゔ!!ありがとうございます!!」
シリナは赤子の様に泣き叫ぶ。
飛龍は暖かい光に包まれ、天に昇るかの様に息を引き取った。
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「ありがとうございます。皆様」
穂波の家に着き、玄関でシリナがおじぎをした。
夜も暗く、シリナもシンバルも疲れている為、今晩一泊してから、転移魔法で帰るらしい。
「いいって、いいって。それに俺もなんだか、ほら、ごめんな・・・・」
「何がですか?」
「いや・・親の形見を投げてしまったりしてさ・・」
「??ネックレスならほらここにありますよ?」
シリナはポケットからボロボロのネックレスを取り出した。
「わたくしが拾ったんですわ!まぁ、魔導石は、壮大な魔力を込めてあるだけのもの。それを解き放っただけに過ぎません!」
猫の姿のままのシンバルが誇らしげに言う。
「お前、拾ったのはいいけど、シリナの母親の形見を『だけのもの』って・・・」
「いいんですよ古都。シンバルさんは私のために拾ってくれたのですから」
シリナがクスッと笑う。
「・・・もう明日には帰るんだもんな」
「あれ?ひょっとして寂しいんですか??」
「べっ、別に〜!やっといつも通りの日常が戻るんだなぁと精々するぜ!!」
まーたなんかやってるとボソっと呟く穂波。
「そこは寂しいとはっきり言ってください!」
「うーん、『寂しい』」
「なんですかその感情が籠ってない言い方は」
正直、いなくなるのは寂しい。
けれどシリナ達には、『帰る場所』がある。
「シリナ、あっちに帰っても頑張れよ」
「古都、本当にありがとうございました」
シリナはもう一度深くお辞儀をした。
「母ではなく、『自分らしい魔法使い』になれるよう頑張ります!」
「あぁ、きっとなれるさ」
穂波の家へ3人が入っていった。
彼女は母を超えることができた。
これから様々な困難がシリナを待ち受けているだろう。
だけど、全て乗り越えられる。
今はそう信じてる。
静かな街中を歩きながら、俺はゆっくりと空を見上げた。
月明かりが満ちていた。
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「初めまして!」
翌朝、俺のクラスに転校生が来た。
妙に聞き覚えがある声をしている。
「名前はシリナと申します!異世界からやってきました!分からない事だらけなので、色々教えて頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します!!」
「えっーと、シリナさんは異世界という海外から」
「ちょっとまてええええええええ」
俺は立ち上がった。
「あ、おはようございます古都!」
「おはようございますじゃねぇだろ!なんでまだいるんだよ!!」
あの流れだと、自分の世界に帰る展開だろ。
てかてっきり帰ったものだと思ってた。
「よくよく考えてみたら、『転移魔法』って必ず指定された場所に行けるわけでもないし、何より私、まだ『転移魔法』の成功率低いんでよね〜。
変に唱えて、帰れないのも困るし。
という事で、しばらくこちらの世界に住む事にしました!
あ、シンバルさんもいますよ!」
シリナの肩からひょいと見覚えのある猫が顔を出した。
「朝から騒がしい殿方ですこと。時間を考えなさいまし」
「な、な、な、な、」
「ねぇ!シリナさんって外人さんなの!?どこの国の人!?」
「シリナさんってこないだ学校の校庭にいなかった!?」
彼女の近くにクラスメイト達が集まってきた。
興味津々で話しかけまくっている。
どうやら、俺の何気ない日常は、
また遠くなったみたいだ。
「やれやれ、どうしてだ・・・・」
穂波が俺の方を見て、笑っている。
「俺の日常を返してくれぇーーーー!!」
俺は心から叫んだ。




