第3話「魔法使いシリナの決意」
あの飛竜ーシリナの『母』を助ける。
それがシリナが元居た世界に帰る条件だとしたら。
その場合、二つの選択が迫る。
『母』を元に戻すか、あるいは『飛竜』を殺すか。
無論、殺すなんてそんなひどいことはさせない。
母娘共々救うのだ。
きっとこれこそが俺がシリナと出会った使命だ。
古都は深く深呼吸をした。
「ブッパネコ。飛竜の弱点はないのか?」
「そうですね・・・『黒煙魔法』は効果バツグンです。」
「かっこいいな、それ」
「でもこの魔法はS級魔術の一つです。わたくしもまだ鍛錬の身。ましてや今の状況では魔法は使えないんですよ?」
「たしかになぁ」
そうなると考えられるのは・・・・・
「シリナ、その『黒煙魔法』とやらは」
シリナの方を見る。
「えぇ、私も身に付けていませんが・・・」
「・・・・・・」
「え!!ちょっと待ってください!!!!」
どうやら状況を理解したようだ。
「無理です無理無理!!私に『黒煙魔法』を覚えさせようとしてますよね!?」
彼女はおおきく首を横に振った。
「シンバルさんも使えない魔法を短期間で習得なんて至難の業です!!不可能!ふかふか!」
「いやいけるよ俺も全力で手伝うよ」
「そんなの口だけです!こっちの身にもなってください!!」
「シリナ」
「私、本魔導資格取ったばかりですよ!?そんなぺーぺーがとれるわけ」
「シリナ」
古都は優しくシリナの肩に手を置いた。
「今、ここにいる魔法使いは君だけだ。君がやる気を出さないでどうする」
「・・・・他にも、他の世界からも、魔法使いが転移してきてるかもじゃないですか・・・」
「他人を頼るな。シリナは立派な魔法使いだ。だから自分を信じろ」
「そんな都合のいいこと言われても。私、自分が信じられません・・・・」
彼女は肩をすくめ、目に涙を溜めていた。
「・・・さっきの戦いで分かったんです。『あの時、もっと効果的な魔法を使えたら?』『魔法を二つ同時に使用出来たら?』と。たくさんのことをかんがえちゃいました・・・・。
私は優柔不断で不器用です。その結果、母を飛竜に変えてしまったのなら、きっとそれは私の選ぶ道がいつも『だめな道』を歩き続ける私への『罪』なんだと思います・・・・」
「シリナ・・・それは」
「それは間違えだ、シリナ」
「古都・・・・・」
「俺はお前に『人は誰かに頼ってこそ強くなれる』と言ったよな。そして一瞬でも俺を頼ろうとしてくれた。その結果なんとかなった」
「でもあの時は古都は何もしてないんじゃ・・・」
「それでもだ。きっと俺はあの瞬間、『だめな道』に進んだんだ。俺が一番何もできないのを知っているさ。でもなんとかなったんだ。
『だめな道』ってのは失敗を意味するんじゃない。『その道を歩き続けなさい』って意味だ」
「歩き続ける・・・・・」
「あぁそうだ。歩き続けていけばその努力は実る。道ってのはそのためにあるものだ」
古都はにこっと笑顔を向けた。
(あぁそうだ。きっと古都の言う通りだ・・・。)
実際にはったりだとしても、古都は私に証明してくれた。
私に笑顔を向けてくれるこの人を見ると、あの人の姿が重なる。
私を守ってくた、あの人が。私のあこがれの、あの人が。
「大丈夫。シリナならできるわよ」
母の懐かしい声が聞こえた気がした。
「古都・・・私は決めました。どんなに辛い選択肢を選ぼうとも、どんなに酷い結果になろうとも!!
私は歩くのをやめません!!古都が私を信じてくれるのなら、私は『黒煙魔法』を扱えるようになります!!」
「おうっ!俺は古都を信じてるぜ!」
気づいた頃には外はもう真っ暗になっていた。
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夜は穂波に事情を話し、シリナを家に泊めてもらった。
俺の体質を知っているのは穂波だけだ。
彼女は「またか~仕方ないわね」とあっさり受け入れてくれた。
さすが幼馴染。幸いにも穂波は一人暮らしだ。生活面でも工面してくれるはずだ。
シリナに明日公園での待ち合わせをし、穂波の家を後にした。
外はまだ少し寒い。心化かし一人で外を歩いていると背伸びしてみたいもんだ。
俺は帰路につきながら自販機で缶コーヒーを購入した。
味はブラック。
「にがっ」
甘党の俺にはまだ早かった。
「ほーう。女の子に大人ぶったセリフを吐いときながら、味覚はまだお子様だったのですね」
飲んだのがブラックだったせいか、苦い事を話しかける猫が足元に居た。
「子供だって親が見ていない場所で成長するんだ。学校だってそうだろ?」
「なら、今日たくさんの事を学べたようですね」
「あぁ、そうだな。大変な一日だった」
俺は退勤後のサラリーマンの様にコーヒーを一口飲んだ。
やっぱり苦い・・・・・・
「古都さん、あんた分かってるんですよね?」
「何が」
シンバルは塀を駆け上り、俺の目線まで合わせてきた。
「『黒煙魔法』をシリナに覚えさせる。それは遠回しに『母を殺せ』と言っているようなもの。その言葉を投げかけたあなたは重大です」
「だからこそだろ・・・」
近くの街頭がばちっとなる。
「アイツはわざわざ教えなくてもその言葉の意味が分かっている。だからこそだろ自分でやると決めたんだ。誰でもない、『自分がやる』と」
「・・・・・そうですね」
シンバルは塀から降りた。
「彼女は物分かりが良く、覚えが早い弟子でした。だからこそ、彼女に、こんな時くらい、『容量悪くいからわたくしを頼りなさい』なんてかっこつけられませんね・・・・」
「お互い子供なんだよ・・・俺もお前もな、ブッパネコ」
「子供の割に人を人を見抜くセンスだけはおありなことで」
古都に背を向け、シンバルはどこかに歩き始めた。
「頼みましたよ・・・・古都さん」
ボソッと呟いた猫の姿は小さいながらも、どこか大きく感じた。
(当たり前だ。俺もできる限りの事をする)
ふと見るとあんなに苦かったコーヒーも、飲み終えていた。




