第2話「『飛龍のいる異世界』」
空を覆う程大きく、天を司るように咆哮する飛龍。
前に俺がシリナと会った時に出会った飛龍とは明らかに巨大だ。
「私から離れないでください!飛龍は『魔法』を使うことができるんですっ!」
シリナは杖を握りしめ、戦闘態勢をとった。
「魔法だって!?人間の魔法使いでもない生き物がそんなの使えるのか?」
「先程も伝えましたが、飛龍は『人間の慣れの果て』と言い伝えられています!きっと元々『魔法使い』だった者が、飛龍へと姿を変えたのでしょう!!」
「ってことはあいつも元は人間なのか・・・!?だとしたら意識はあるのか・・?」
「そこまではわかりません・・・・さぁ来ますよ!!!」
巨大飛龍は大きく口を開けて、シリナに向かって炎を放った。
シリナは杖を向け、詠唱を唱える。
「防御魔法『バリアード』!!」
古都はシリナの後ろに身を縮めた。
「あっつ!!!あいついつまで炎を吹いてくるんだよ!」
「わかりません!だけどこのままじゃ・・・私が持ちません!」
防御弊壁で防ぐシリナにあたる炎が益々強くなっていく。
「どうしましょう・・・・私は器用ではないので魔法を二つ同時には使えません・・・・このままじゃ」
お母さんなら、どうするの?ーーーーーーーーーー
シリナは母の姿を思い浮かべる。
いつも私を守ってくれた存在のお母さん。
そんな親に憧れて私は『魔法使い』になったんだ。
だけど私はあなたのように強くはなれなかった。
(私はまだ、未熟だ・・・・・)
シリナの肩にそっと手が置かれる。
「まだだ・・・・まだ諦めるなシリナ」
「こ・・・・古都」
「どんな状況でも一人で打破できるような人間はこの世にはいねぇんだ。人は誰かに頼ってこそ、本当に強くなれるんだ」
「頼るって・・・・私以外に魔法を使える人はここには・・・」
「誰も魔法使いを頼れとは言ってないぞ。ここにいる。ここに変な『体質』を持っている人間がな・・・・」
古都はポケットからティッシュを取り出した。
「さっきカフェのテーブルに置いてあったんで貰ってきたんだ・・・お前と・・シリナと関わったら、『絶対何かに巻き込まれる』と察しがついたんでね・・・」
ティッシュを千切り、細くして鼻の穴に突っ込んだ。
「でも古都・・・私たちが『異世界転移』なんてしたら、あなたの後ろにある学舎が吹き飛びますよ・・・?」
「大丈夫だ。策は考えている。なんとかなるさ・・・・」
シリナは不安そうに古都を見つめる。
古都は見ず知らずの私を、この短い間に何度も助けてくれた。
今はもう、この人を信じるしかない・・・・・
「では、あなたに甘えます!!!古都!!!」
「よしいくぞ!!しっかり守ってろよ!!!へっく」
古都がくしゃみが出そうになった瞬間、巨大飛龍は口を閉ざした。
シリナはゆっくりと魔法を解いた。
急いで口を塞いだ古都の足元に、一匹の猫がいた。
巨大飛竜は猫を見つめると、どこかに飛び去っていった。
「な・・・・なにが起こったの・・・・・」
「とっ・・・とりあえず・・・助かったぁ〜」
足の力が抜け、古都はその場に座り込んだ。
へとへとになった古都の頭に、猫が上に乗ってきた。
「ん?なんだこの猫」
「なんとかなりましたね。怪我はありませんか、お二人とも」
「!?!?」
猫がシリナと古都に話しかけてきた。
びっくりした古都は猫を頭から払おうとしたが、すかさず猫は古都の頭からおりた。
払った手が自分の頭に当たり、古都は強く打った。
「その声は・・・・もしかして・・・」
「シリナ。その前にまずは」
「おいおいおい!!今の大きな龍見たか!!!」
「それにあの少女、魔法使っていたぞ!!」
校舎からこちらを見て、生徒達が騒いでいる。
「そうですね。彼らには全て忘れて貰います」
シリナは記憶捜査魔法を使った。
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古都達は学校を離れ、近くの公園で腰をおろした。
「やはり、シンバルさんなんですね・・・」
「はい。このような姿になってしまいましたが・・・わたくしです、シリナ」
「えぇ?この猫が?」
毛が黒く、もじゃもじゃしている猫が喋り出した。
「あの後、気が付いたら見知らぬ場所にいました。付近の住人にお伺いしたらそこは『五橋』という場所でした・・・・。
もしかしたら、あの光に包まれて、どこかに転移してしまったのではないかと直感で感じていました。と同時に
『シリナもきっと近くにいる』と考えたわたくしは、あなたをずっと探していました」
「でもなんで猫に?」
「あなたには答えたくありません」
「なっ」
どうやらシンバルは古都の事が嫌いらしい。
苛立ちを覚える古都を横目に、シリナは質問を繰り返した。
「シンバルさん、単刀直入に聞きますが、あの飛竜に何をしたんですか?」
シンバルは可愛いおててで目を擦った。
「何もしていませんわ・・・・。飛竜をみかけて駆け込み、ただあなた方を見つけてそばに寄り添っただけ・・・」
「と言うことはなんだ・・・・何も解決していないな・・・・」
「私はてっきりシンバルさんが、魔法を使って私たちを守ってくれたのかと」
「わたくしはこの姿になってから、何故か魔法を使えません。幾度無く試しましたが、さっぱりです・・・・」
古都は喉が渇き、近くの自販機に向かった。
ブラックコーヒーを買い、飲んだ。
「シンバルさんの体をまずは元に戻しましょう。これからどうするかはその後です」
「気持ちはありがたいですが、もう戻る事はできないと思います」
「・・・・・え」
古都はオレンジジュースを購入し、シリナに手渡した。
シリナは軽く会釈し、封を開けた。
「この姿は魔法使いにとっての『罰』なのです・・・・・」
「罰・・・・・」
「はい。我々の世界での魔法使いとは、人のために全てを捧げる言わば『聖職者』。魔術を使い、他者を救う者を指します。
ですが、自分の私利私欲や感情をコントロールできないものは、自分の魔力が裏返り全て自分に降りかかります。
その結果、人の形を失うことになります。
かつての仲間で、自分の欲に逆らえず、『虎』に姿が変わった者がいました。
今回わたくしも『帰りたい』と言う強い感情に飲まれ、このような姿に変化してしまったようです・・・・・」
魔法とは、時には人を救い、時には人を殺せるもの。
それを扱う者が自分自身をコントロールできないと、魔力の暴走が働く。
『魔法使い』とは、『自分を制御できる者』なのだ。
「これじゃ、魔法使い失格ですね・・・・・」
「・・・・・・・・」
古都は近くのゴミ箱に缶を入れた。
「いいこと聞いたな、シリナ」
「・・・・・何を言いたいのですか古都」
シリナの顔がだんだんと曇っていく。
両手に握っている缶を、さらに強く握りしめた。
「その話が本当なら、飛竜の正体も事実だって証明できる。
飛龍の正体は『魔法使い』の成れの果ての”一種”だ。
となると・・・・・・・
魔法ブッパネコ。『転移魔法』を使える魔法使いは多いのか?」
「ブッパネコ・・・・・わたくしの事ですか」
シンバルは古都を睨んだ。
「あなたの質問はあまり答えたくありませんが・・・・・仕方ありません。
『転移魔法』はSSランク級魔術です。わたくしが知る中でも3人。
一人は大昔に一人、あとの二人はシリナと・・・シリナの母です」
「なるほどな。俺たちを襲ってきた巨大な飛龍、あれはお前の母親だシリナ」
夕暮れのチャイムが公園中に鳴り響く。
公園にいた子どもたちは家に帰っていった。
「俺がこの世界に戻った時に、シリナとブッパネコの二人が巻き込まれてこっちにきたと考えたら、あの飛龍は『どうやってこの世界に来たのか』、と言う謎が残る。
お前は言ってだろ?『飛龍は魔法を使える』と。
もしあの飛龍が行方不明の母親だとしたら・・・」
「娘を迎えに、『転移魔法』を使ってやって来た・・・?」
「いや、真意までは定かじゃない。だが、理屈は当てはまると思うぞ」
私たちを襲った巨大な飛龍。
仮に私のお母さんだとして、なぜ私達を攻撃したのかーーー。
なぜ今まで姿を現さなかったのかーーーー。
思考が追いつかない・・・・・・・
古都は屈伸をし、背伸びをした。
「どうやら、お前らが帰るためには、あの飛龍を解決しないといけないそうだな」