表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

04 【後編】死と再生(と新たな決意)

 朝日が窓から柔らかく差し込み、エリシアはベッドの中で目を覚ました。突然の感覚に驚き、彼女は勢いよく飛び起きる。

 

 「うぎゃっ、びっくりした!」

 

 首に手を当てながら呟いた。

 

 「これで3回目だよ。首が痛いし、リチャードのエイリアンハンドの感触がまだ残ってるみたいで気持ち悪い……」

 

 ノックが響き、エリシアの体が一瞬硬直する。

 

 「お嬢様、お目覚めですか」

 

 リチャードの声がドア越しに聞こえてきた。彼女は反射的に震えそうになった。

 

 「エイリアン執事の声って分かってても怖いよ……」

 

 それでも平静を装う努力をする。

 

 「ええ、入ってください」

 

 彼がドアを開けて入ってきた。いつもの完璧な執事姿で、朝の光に照らされた顔は穏やかそのものだ。

 

 「その下に異形が隠れてるって知ってるからね。もう騙されないんだから」

 

 エリシアは内心で彼を睨みつけつつ、表面上は冷静を保った。

 

 「今日はお嬢様の人生で最も重要な日になるでしょうからね。準備を整えてお待ちください」

 

 リチャードが丁寧に言った。エリシアはその言葉に新たな意味を感じ取る。


 「お前にとっては私の血を狙う大事な日だよね。でもこっちはそれを知ってるんだから、もう一歩先を行ってるよ」

 

 彼女は内心で反撃の準備を固めつつ、口では穏やかに返した。

 

 「ええ、そうね。確かに特別な日になりそうだわ。ありがとう、リチャード」

 

 リチャードが部屋を出た後、エリシアはベッドに腰を下ろして頭を整理し始めた。窓の外では朝の鳥のさえずりが聞こえ、穏やかな風景とは裏腹に彼女の心は忙しく動いていた。

 

 「2回のループで分かったことをまとめるとね。リチャードは異界のスパイで、世界の壁を壊そうとしてる。ヴィクターは私を守るために婚約破棄を選んだ。そして私の血がその鍵だって、みんなに人気すぎるくらい重要なものらしい」

 

 状況を把握しつつも、いくつかの疑問が頭を離れない。

 

 「でもさ、ヴィクターってなんで最初にちゃんと教えてくれなかったの? 私の血をどうやって使うつもりなのかも曖昧だし、私の魔力ってそもそも何なんだろう?」

 

 彼女は呟きながら立ち上がり、決意を新たにした。

 

 「今回はちゃんと情報を集めて、リチャードを避けつつヴィクターと話してみせるよ。それで全部はっきりさせるんだから!」

 

 婚約披露宴はこれまでと同じように進行していった。きらびやかな装飾と貴族たちの笑い声が響き合う中、エリシアは冷静に周囲を見渡しながら振る舞った。

 「もうこの流れには慣れっこになったよ。何度目でも同じ展開って、ある意味すごいよね」

ヴィクターがまた「魔力不十分です」と宣言した時、彼女は心の中で軽く手を振った。


 「はいはい、もうその台詞は知ってるから大丈夫。聞き飽きたよ」

 

 式が終わり、父と一緒に広間を出ようとした時、エリシアはふと立ち止まって決断を下した。

 

 「お父様、少しだけ時間をください。ヴィクターとちょっと話したいことがあるんです」

 

 「あんな侮辱を受けた後に何だって?」

 

 父が驚いた顔で振り返る。エリシアは真剣な目で彼を見つめた。

 

 「必要なことなんです。お願いします、お父様」

 

 彼女の強い意志に押され、父は渋々頷いた。エリシアは人々が去っていく広間に一人残り、遠くで立ち去ろうとするヴィクターの背中を見つけた。

 

 「ヴィクター!」

 

 静かに、だがはっきりと呼びかける。

 彼が驚いて振り返った。

 

 「エリシア様、もうこれ以上話すことはないはずでは――」

 

 「世界の壁のこと、リチャードが異界の者だってこと、全部知ってるよ」

 

 彼女は小声で切り出し、彼の反応をじっと見つめた。

 ヴィクターの顔から血の気が引いた。

 

 「どうやってそのことを?」

 

 彼は急いで周囲を確認し、エリシアの腕をそっと取って小さな控室へと連れて行った。扉が閉まる音が静かに響く中、エリシアは内心で小さく勝利を噛みしめた。

 

 「探偵エリシア、大成功だね。この調子で真相に迫ってみせるよ」

 

 「長い話になるけど、あなたが私を守るために婚約破棄したこと、リチャードが私の血を狙ってる異界のスパイだってこと、そしてあなたたちにも私の血が必要だってこと、全部知ってるんだから」

 

 彼女は一気にまくし立てた。ヴィクターが言葉を失って彼女を見つめる。

 

 「信じられないよ。誰かにその話を聞いたのか?」

 

 彼が呟く声には動揺が滲んでいた。

 

 「いいえ、誰かに聞いたわけじゃないよ。私、これで3度目の婚約破棄なんだ。時間を巻き戻せる力があるの、私にはね」

 

 エリシアは少し得意げに笑って明かした。

 

 「時間を巻き戻す? それが時の魔力なのか」

 

 ヴィクターが目を丸くして驚いた。

 

 「そう、昨夜はリチャードに殺されちゃったからね。あのエイリアン執事のチート攻撃には参ったよ」

 

 彼女は軽く笑いながら言い放つ。ヴィクターの表情が曇った。

 

 「私が守れなかったせいだ。申し訳ないと思ってる」

 

 「いや、いいよ。私、意外と強いからさ。気にしないで」

 

 エリシアは明るくフォローした。

 

 「実は一か月前、世界の壁に異変が起きてね。時の魔力で修復しないと危険だと分かったんだ」

 

 ヴィクターが重い口調で説明を始めた。

 

 「それで、私の血だけがその力を持ってるってこと?」

 

 エリシアが確認するように尋ねる。

 

 「そうだよ、君の家系に伝わる特別な力なんだ。『時告げの雫』はその力を増幅する触媒として働いてる」

 

 ヴィクターが頷いて答えた。

 

 「リチャードは十年前からこの世界に潜入したスパイで、壁を壊して異界の軍勢を呼び込もうとしてる。私が婚約破棄を選んだのは、君を彼から遠ざけるためだったんだ」

 

 彼が正直に打ち明ける。エリシアは少し感心したように目を細めた。

 

 「イケメンなのにずいぶん苦労してるんだね。なんだかちょっと可哀想なくらいだよ」

 

 「でもあなたたちも私の血が必要なんだよね?」

 

 彼女が核心をつくように尋ねると、ヴィクターの顔に一瞬痛みが走った。

 

 「そうだよ。少量の血で儀式を行えば壁を強化できる。でもリチャードは君を殺してその血を全部奪うつもりだったんだ」

 

 エリシアがその話を補完するように頷いた。

 

 「君が時間を巻き戻せるなら、まだチャンスはある。今夜、儀式を前倒しでやろうと思う。父には内緒でね。彼はリチャードに影響されてる可能性があるから」

 

 ヴィクターが提案してきた。

 

 「今夜リチャードがまた襲ってくるって分かってるからさ、逆にこっちがハメるチャンスだよね。私もその作戦に乗るよ」

 

 エリシアは目を輝かせて賛成した。

 

 「それじゃあ、夜10時に地下室に来てくれ。準備は私が整えておくよ」

 

 彼がそう言って、エリシアの手を温かく握った。彼女はその感触に少しドキッとしつつも笑顔を返す。

 

 「イケメンな味方がいてくれるなんて最高だよ。これなら勝てる気がしてきた!」

 

 その瞬間、控室のドアが突然開き、ハーウッド公爵が姿を現した。

 

 「何?」

 

 「ヴィクター、一体何をしてるんだ?」

 

 公爵が冷たい声で尋ねてきた。

 

 「エリシア様に謝罪していたんです。我が家の決断の理由をきちんと説明する義務があると思って」

 

 ヴィクターが即座に公式な口調で答えた。

 

 「お心遣いに感謝します、公爵様。私も少し気持ちが落ち着きました」

 

 エリシアも丁寧に頭を下げて応じた。だが、内心では心臓が激しく高鳴っていた。

 

 「今夜が勝負だよ。リチャードをギャフンと言わせてやるんだから、絶対に負けない!」

 彼女は決意を胸に秘め、静かに控室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ