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第五話 ナラクネという世界

小さい頃、親戚の子供達とバンジージャンプが出来るテーマパークに遊びに行ったことがあった。

年齢制限がある為、流石にする事はなかったが、というよりやりたいとすら思わない。というのも大人達が腹底から出す悲鳴は今でも忘れられないからだ。


ローゼの用意したワープをくぐるとそこには足場というスペースは一切なく体全体がその世界の重力を受け入れ始め自由落下を開始した。


100m?位だろうか。地上がよく見えず口の中に大量の空気が乱入し、上手く呼吸ができない。きっとこのまま死ぬのだ。田中さんとローゼさんは至って表情は変わってないけど多分諦めたんだ。どうしようもないから。お終いだ。このままぐちゃぐちゃになって森の栄養になるのも悪くないか…。岸野瑠夏は涙が溢れる目を閉じ短い人生の終止符を受け入れた。


短距離簡易移動問(チカミチ)!」


足元からワープが出現し3人を飲み込んだ。

気がつけば3人は森の草木の中で座り込んでいた。瑠夏は予測していなかったのか未だにジタバタと空中を泳いでいた。


「お〜い瑠夏ちゃ〜ん大丈夫だよ〜。地面だから。ここ地面だから。」


はっ!と瑠夏は動きを止め、今自分が生きている事を確認した。


「生きてる!私生きてる!この大地を踏みしめている!誰もが諦めそうになる試練を前に神は一筋の光を我々にお与えになるのだ!吸う空気、身体を包む太陽の温かさこれ以上にない幸福があれば我々は前に進む事が出来るのだ!フハハハハ!」


手を上下に揺らし狂人のようにかつ高らかに笑い出す瑠夏を見た衛鉄はいたたまれない気持ちになった。


「…見ろローゼ、君が空高くに我々を落としたせいで岸野さんがまるでアメリカ大統領選挙の演説をしてしまっているぞ…可哀想に。」


「仕方ないでしょ!3人同時に転送した事なんてないんだから!異世界への転生は1人でも魔力操作が不安定になるんだから仕方ないでしょ!ほら瑠夏ちゃん目を覚まして!そんな事しても当選なんてしないわよ!」


「はっ!すみません。取り乱しました。これ癖なんです。変ですよね。」


それは癖なのか⁈この子はアメリカの主権でも狙っているのか?アメリカ初のアジア人大統領か…。

いや、今はそんなの考えている場合じゃないな。

衛鉄は顎に手を当て現在の状況を整理した。


「まずここはナラクネなのかどうか確認する必要があるな…。」


「いやいや確認する必要ないでしょ。この殺戮とした空気感、多分私達ラゾール国王都付近の森に落ちたようね。ナラクネの中でも最悪の国、虐殺を愛し、差別こそ世の理であると定義付けたゴミの掃き溜めのような国。本当は来たくなかったんだけどな〜。」


ローゼの心底嫌そうな表情に瑠夏は強い不安を感じた。


「…そっそんな場所なんですね。森の中にいるだけだとマルタスと変わらないように感じました。」


緊張しているのか瑠夏の肩はプルプルと震えていた。それを見た衛鉄は軽くため息をついた。


「包み隠さず言うとこのナラクネという異世界は命が非常に軽く扱われている。

さっきまでいたマルタスはマナという形で命をインフラに組み込んで重要性を上げていた。だがこの国ではそれらが一切ない。その為、人の持つ人権より権力や王国にどれだけの貢献をする事が出来たのかが重要となっている。

多くの派遣士が重症、もしくは死亡している。怖いのは仕方がない。それは悪い事じゃない。ただ、覚悟が鈍るようであればすぐに岸野さんを本部に帰還させる事が出来る。私も多少、キャリアに傷はつくが死人を出すよりずっとマシだからね。」


辛辣にそして淡々と話す衛鉄に先程までと違う緊張感を感じた。いや、この世界で緊張感以上のものを抱かなければならないのだ。ローゼも衛鉄の発言に同意したのか瑠夏の返事を待っていた。2人の顔を見ながら瑠夏は震える拳を強く握り返答した。


「…確かに衛鉄さんが言うように怖いです。とても怖いです。ただ怖いから帰る。というのは私の主義に反します。

興味本位で異世界に来た訳でも趣味でもなくて私は目的を果たす為にここにいるんです。私が元世界に帰る時は怖いからではなくこの目的に価値と意義を感じなくなった時だてけです。

お二人に守ってもらう事が前提となってしまっています。図々しい事は百も承知ですがどうかこれからもよろしくお願いします。」


瑠夏は頭を下げる事はしなかった。あくまで対等な立場であると衛鉄とローゼは分かっていた。その真っ直ぐな眼差しに2人は表情を明るくした。


「さあ、士気も上がってきたしさっさとこの世界での仕事終わらせちゃいましょうよ。どうせ簡単な仕事になりそうにはないんだから。」


「まさにその通りだ。今回の任務は先程の任務であった老衰間近の転生者ではなく異世界へ強い干渉をしたため元世界への帰還を余儀なくされた転生者を対象としている。

目標の名前は士道雅道(しどうまさみち)。男性、年齢は24歳、異世界への干渉内容はラゾール王国の獣人を対象とした奴隷制度解体と王国への反乱軍創設。

最重要となるのは士道雅道が創設した反乱軍が王国へと本格的な戦争を仕掛けるのを防ぐ事。出来れば帰還させる前に軍の解体もしたい。これらが出来なければ元世界といわず様々な異世界で大規模な厄災が起こると予想されている。気を引き締めて取り掛かるように。」


3人の間に緊張感が走った。

その士道雅道という男が派遣士に対して友好的であるか分からない。敵はこの国全体の構造や仕組みであると考えた方が良いかもしれない。

瑠夏は城戸高吉を思い出した。彼はマルタスでマナを無差別に吸収する力を手に入れていた。士道雅道がどんな能力を手にしたのか注意しなければならない。軍を統率する事が出来る程の力が彼にはあるのだから。


木陰で話していた3人に何かが近づいて来る音がした。衛鉄がすぐに残りの2人を隠れさせ息を殺した。草木の背が高い事が功を奏したのかその隙間から近づいて来るものを確認できた。


「馬車だ…。あの牛の紋章は王国讃美騎士精鋭部隊…あの部隊の団長は確かランクルール・シュバイテン管轄の部隊じゃないか…なぜこんな森奥に…彼らの役割は王都中央都市部の警護のはず…しかし、ランクルールか…見つかったら一番面倒な事になる。」


ぶつぶつと小さく独り言を言いながら状況を整える衛鉄を他所に騎士団を乗せた馬車は3人の目の前を通り過ぎて行った。


「いや〜ヒヤヒヤしたわね。まさか早速騎士団に出くわすだなんて心臓に悪いわ〜。」


ローゼはヒュ〜っと口笛を鳴らし額の汗を拭った。


「あっあの〜すみません。先程の騎士団?の方達に遭遇すると何かいけない事でもあるんですか?」


「基本的に騎士団は王の勅令で動ける役割である為、過激な任務である事が非常に多いんだ。帝国議会の協賛がないから信じられないような政策が通る事もしばしば…例えば国中の美人を連れて来いとか異世界派遣士は皆殺しにしろとか。」


目を大きく見開いた瑠夏は食い気味に聞き出した。


「えっ⁈ラゾール王国って派遣士に友好的ではないんですか?」


「友好も何も敵対に近いわよ。衛鉄なんて何度殺されかけたことか…それにあいつらの何が一番ヤバいかって騎士団長には固有の能力が王国直属の魔法使いに与えられるの。騎士団長は全員で5人、そいつらが率いる部隊だけでラゾール王国全体の守護が出来てしまうくらい強いのよ。」


「ひょえ〜なんだか物騒な人達ですね。確かに遭遇したくないかもしれません…あれ?でもそしたら私達、どうやって転生者の方とお会いすれば良いのでしょうか?」


「…う〜ん、そうだな。転生者である士道雅道が反乱軍を創設した事から王都内にいる事はまずないだろう。騎士団がこんな森奥にまで赴いているという事はその反乱軍の捜索と偵察が考えられる。

つまり、私達は、森奥を中心に探索すれば良いんだ。しかし、今回はローゼの探索魔法も当てにならない。生命の色がこの世界ではあまりにも薄いからね。」


両腕を組み鼻息を荒くしたローゼは衛鉄に強い睨みを効かせた。


「ハッ!悪かったわね。当てにならなくて!ちょっとは自力で探す事による達成感でも味わってみたら?」


衛鉄は何をそんなに怒ってるんだ?という顔をする為ローゼの怒りは沸騰を辞めなかった。


「まっまあまあ。ともかくやるべき事が分かっんですし早速取りかかりましょう。」


一触即発の2人を宥めようと試みる瑠夏はローゼと衛鉄の間にある絶対に埋まらない馬の合わなさが垣間見えたような気がした。

言葉のチョイスを間違える衛鉄とそれをそのまま捉えてしまうローゼ、この2人はどのようにして協力関係に至ったのかその経緯が気になった瑠夏であった。


「貴様らこんな森奥で何をしている!」


3人は硬直した。息を荒くした兵士がそこにはいた。その鎧には鷲の紋章が描かれておりそれを見た衛鉄は苦虫を噛み潰したような表情をした。


「まずいな鷲の紋章はネイビー・デイルが団長だ。という事は既に…。」


返事をしない3人に痺れを切らした兵士は一同に詰め寄りながら声を荒げた。


「なぜ何も答えない!これ以上返答がない場合、貴様ら3人を反乱軍の一員と見なし即刻処罰の対象とするぞ!」


「どうすんのよ⁈衛鉄!アイツ長く我慢出来るタチじゃないわよ!」


鷲の『ネイビー・デイル』彼の能力は超視覚共有。自分の団員全員との視覚を自身の視覚と共有する事が出来る。ラゾール王国がこの世界で最強の軍事国家となった原因の一つでもある。私達がこうして見つかった時点で彼以外の団長達にも情報は共有されているはずだ。

ここで兵士1人をどうこうした所で何の意味もない。ひとまずここは全力で逃げるしかない。

衛鉄は2人を見渡した。

ローゼはすぐに状況を飲み込み腰を低くした体勢で逃走の用意は出来ているみたいだ。しかし、岸野さんは足が震えている。仕方ないここは少し、無茶をするか…。


「岸野さん!申し訳ないけど少し我慢してて!」


衛鉄は瑠夏をひょいと片手で持ち上げ全力の逃走をした。その時速約80キロ。平然とした表情で衛鉄はそのスピードを維持させていた。隣で走るローゼもまた朝飯前とばかりについて来る。瑠夏は口元を抑え悲鳴に近い声を必死に抑えた。

これが6年派遣士として勤めた人間の力なのか。人1人を抱えこの速さは最早人間ではないような気がしてしまう。瑠夏はそんな事を考えていたがいつの間にか地面に仰向けで倒れていた。


「あの〜岸野さん?大丈夫?」


「ゔゔっオエッ…すみません。多分大丈夫です。ちょっと酔ってしまったみたいで。」


瑠夏は両腕を地面につけ嗚咽を繰り返した。


「ちょっと衛鉄!いきなりアンタに担がれたら誰でもああなるわよ。しかも、あんなスピードで…瑠夏ちゃん可哀想じゃない。」


ローゼは苦しむ瑠夏の背中を優しく摩ってあげていた。


「問題ないよ。ローゼよりずっと軽かったかr…。」


ドシャッと肉と骨が砕けるような音がした。鬼の形相を浮かべるローゼがそこにはいた。彼女が放ったボクサー顔負けのアッパーは身長180を超える衛鉄を紙切れの如く吹き飛ばした。赤黒い血が美しい円を描きながら彼は宙を舞った。


「ロッローゼさん?…」


「覚えといて瑠夏ちゃん。これはデリカシーパンチと言ってこの田中衛鉄がデリカシーゼロ発言を教育する為に編み出された秘技、略して『デリパン』よ!」


「…なっなるほど。」


満面の笑みを浮かべるローゼの背後で衛鉄は荒い呼吸と共にムクリと立ち上がった。


「…イタタ。はあ、全く何をそんなに怒っているんだ?見れば直ぐに分かるじゃないか。岸野さんの胸はローゼより圧倒的に小さいんだかr…」


ドシャッと肉と骨が砕けるような音がした。鬼の形相を浮かべる瑠夏がそこにはいた。彼女が放ったボクサー顔負けのアッパーは身長180を超える衛鉄を紙切れの如く吹き飛ばした。赤黒い血が美しい円を描きながら彼は宙を舞った。


「なるほど!…これが『デリパン』確かにこれは便利ですね!愛用します!」


二発目の予想は出来なかったのか衛鉄はフラフラになりながら立ち上がった。


「なっなぜだ?私は事実を言っただけなのに…今まで歳離れている上、異性の岸野さんに今までにない気遣いを配っていたはず…なぜだ?」


困惑と疑問が増殖し続ける衛鉄に憤慨を抑えた瑠夏は歩み寄った。


「確かに田中さんは女性に対して気遣いの出来る方だと思います。でも、どんなに頑張っても錆を足す様な発言をしてしまうと異性間の信頼は一気に瓦解してしまう物なんです。」


瑠夏の後ろでローゼは首を上下に激しく首を振った。


「だっ…だから私の発言のどこにおかしな部分があったんだ?」


苦し紛れに答える衛鉄に2人は蔑みの目で息を合わせた。


「「ええ…。」」


「もしかして田中さんって少し天然なんですか?」


「天然というより自分が確信した事に疑問を持てないのよ…ホント可哀想。」


口裏を合わせる様にコソコソと2人は衛鉄の斜め方向に向かった性格を話した。


「もう良いだろ?よく分からないが私が悪かった。謝るよ。…しかし、逃げた方向がたまたまだろうけど運が良かった。」


「どういう事?」


ほんのりと微笑む衛鉄にローゼは首を傾げた。

背の高い草木を掻き分け衛鉄は人差し指を口に当て2人に腰を低くする様促した。

ローゼより先に瑠夏がある事に気づいた。


「あっ!ローゼさんあそこ見て下さい。」


囁きながら瑠夏はローゼの視線を誘導する為指を差した。


「う〜ん?あっ!まさかあれって集落?何でこんな所に?」


「おそらく士道雅道が結成した反乱軍の集会所の様な場所だろうね…しかし、まあ、なるほど。これは派遣士を呼ばなければならないわけだ。」


「…確かにこれは…想像以上ね。まさかここまでとは。」


「これって本当に1人の転生者が集めた反乱軍なんですか?…これ反乱軍というよりむしろ…国そのものにしか見えないんですけど。」


3人はごくりと唾を飲んだ。

報告であった獣人だけの反乱軍ではない。ドワーフ、オーク、エルフ様々な人種がそこには集っており人口3万以上の人間が暮らせる建造物が適当な間隔で並べられていた。物資の流通も行き届いている様に見える。


「間違いなくこれは士道雅道による反乱軍だ。提供された情報ではこの地域に国の様な場所は存在しない。まさか、わずか3ヶ月でここまでの規模に仕上げるとは…一体士道雅道はどんな人間なんだ?』


「感心してる場合じゃないわね。さっさと士道とやらを見つけてこの世界とおさらばしましょう。」


ローゼは膝に付着した土埃を両手で叩き落とし立ちあがろうとしたその時ただった。


『お前ら何者だ?何で士道の事知ってんだ?』


若々しくも敵意を感じるその声に3人は再び硬直した。声をかけたその少年の様な人物は木の幹に不自由なく立っていた。

また見つかってしまったのかと衛鉄は額に汗を流した。

騎士団ではないな。鎧も軽装だし深くフードを被り頭部が見えない。おそらく獣人だろう。その上、1人ではない。3人?いや、4人か。上手く木陰に身を隠している。返答次第では躊躇なく戦闘に持ち込まれるな。ここは正直に答えて士道雅道とのコンタクトに駆け込んだ方が良さそうだ。

衛鉄は瑠夏の方に目をやり腰を低くしている事を確認すると先程までの迷いは一切見えない。


「警戒させてすまない。私達はラゾール王国の騎士団ではない。知っているかは分からないが異世界派遣士と言って君達のリーダーである士道雅道を我々の世界に帰還させる目的でここまで来た。」


一瞬、若い獣人の顔が険しくなったが直ぐに元に戻った。彼は片手をスッと上げると隠れていた4人の獣人が彼の元に集まった。

コソコソと何かを共有し、しばらくして衛鉄達と同じ目線まで降りてきた。


『派遣士の奴らか…その事については士道から聞いている。アイツはもし派遣士達が来たら、直ぐに自分の元まで連れてくる様言っていた。』


4人のリーダー格の様な彼は衛鉄達に自分についてくるよう顎で指図した。

瑠夏、衛鉄、ローゼの3人は獣人達の言う通りに後を歩いた。

そんな中、衛鉄の隣でローゼは安堵のため息をついた。


「いや〜、ヒヤヒヤしたわね。転送の時点で大分魔力持ってかれたから戦闘になってたら結構まずかったわ。」


衛鉄の肩に肘をつき冷や汗をかくローゼの隣で瑠夏はボソっと2人に尋ねた。


「自分の所に呼び寄せるという事は士道さんは派遣士に対して友好的なのでしょうか?」


「う〜んどうだろう?派遣士の存在を身近な人々に共有しているあたり前までこの世界で配属されていた派遣士とコンタクトがあったという事かもしれない。そこでどんな関係性であったかは分からない…というかそういうのは報告書に記してほしいな。単独任務が主流のせいかこういう所は厄介なんだよな…ハア」


頭を抱える衛鉄を見て嬉しそうにするローゼと申し訳なさそうにする瑠夏を獣人のリーダーは半信半疑を抱いた。

獣人の内の最も若そうな1人が突然、衛鉄に質問してきた。


「おい!そこの眼鏡、お前、派遣士として何年働いてるんだ?」


突拍子のない少年の様に聞く獣人に衛鉄は答えた。


「6年だ。なぜそんな事を聞く?」


獣人達から感嘆のため息が漏れていた。


「俺は知ってるぜ?派遣士ってのは3年も続けば相当ベテランらしいじゃねえか?お前、そんなに強いのか?」


衛鉄ははて?と言った顔をした。

誰からそんな事を聞いたのか知らないが派遣士の持つ情報は個人毎にあまりにも異なる為、3年でベテランかどうかは私自身もよく分からないな。

しかし、3年でベテランなら私はなかなかの大ベテランではないか。昇給はもっとはずんでも良いのではないだろうか?


「私が強いかどうかは分からない。戦闘力の高さは派遣士としての評価にそれほど関係しないと思うんだ。」


それを聞いた獣人の若人はちぇっと舌打ちをした。


「あ〜あ、強かったら俺たちの仲間にしてあげても良かったんだけどな〜。つまんね〜。」


そのやりとりを見ていた瑠夏は先程まで自分が抱えられながら車と同じスピードで息も上げずに走り抜いた衛鉄を思い出した。

よく考えてみればあんなの人間技じゃない。丸樹よりかは劣るにせよあのパワーはどこから引きずり出したのだろう。


「ね〜そんな事よりまだ着かないの?大分歩いたと思うんだけど。なんかさっきから方角違くない?アンタらの野営地?みたいな所は反対だったような気がするんだけど。」


何かを悟ったのか衛鉄は瑠夏とローゼの動きを止めるよう2人の前に片腕を出した。


「今更、気づいても遅いぞ。悪いがお前らは全員ここで殺す。士道に会わせるつもりはない。我々は憎きラゾール王国を滅ぼす為に士道を返す訳にはいかないのでな。」


衛鉄、瑠夏、ローゼの3人の背後は既に2人の獣人にとられている。


「まいったな。ここまで歓迎されないなんて思わなかったよ。」


張り詰めた空気が一同を包んだ。

獣人達はフードを取り爪を長く立て始めた。動脈を見据えるその視線を感じた瑠夏はこれまでかと思った。


「なーお前ら何してんの?」


背後から突如としてかけられた声に獣人達は一斉に散開し、腰を低くして構えた。

草木に紛れたかの様な黄緑の髪色と汚れ一つない犬歯、白くそして強い硬度を感じさせ凹凸の激しい隆起した筋肉。その巨体はおそらく230センチを超えていた。しかし、その顔立ちはあまりにも美しかった。

上裸の彼はズボンの上からポリポリとお尻を掻いた。


「あれ〜!衛鉄の兄貴じゃないですか!しかも、ローゼの姉貴まで!どうしてこんな事所に⁈」


衛鉄は不意にかけられた声に半信半疑で答えた。


「君はもしかしてバイルか?」


その張り詰めた空気感にそぐわぬ男は満面の笑みで衛鉄に手を振っていた


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