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第三話 田中衛鉄の日誌(孤独でない人)

(…城戸さん、おーい城戸さん起きてます?)


私の目の前には3人の男女がいた。まずい、眠ってしまっていたようだ…。田中衛鉄さんとその付き添い人、そしてエルフの女性か…。

田中衛鉄という男について私の記憶を掘り起こす事はしないでおこう。これは、思い出の片隅で眠るべきなのだ。


「城戸さん、突然野暮な事を聞いて申し訳なかった。長い間この仕事をしていると転生者の思い残しなどがないか気がかりになってしまうんです。余計だと分かっていても…。それでも聞きたい。あなたが孤独と戦った理由は何なのか。」


城戸高吉の優しい微笑みはその場にいた3人に安らぎを与えた。そして、城戸は衛鉄に諭すように喋り出した。


「田中衛鉄さん、先程述べたようにもうこの世界には未練などありません。そして、私は孤独と戦ったのではない。孤独と共にこの世界を生きたの です。知っていますか?孤独でないと見えない星空がこの世界にはあるのです。」


言えなかった。というより言いたくはなかった。あの思い出はラナと私の二人だけのものにしておきたい。どこまでも私を寄り添い支えてくれた彼女と共に…あの日々がどこかの夜空で私とラナを結んでくれる、そんな希望を抱きながら静かに眠りたい。


「…そうですか。分かりました。」


城戸高吉はこの上なく満足そうな表情をしていた。彼がこの世界で得た力は決して自身を幸せにするものではなかったかもしれない、ただそれだけでは彼を不幸にはしなかった何かがあったのではないかと瑠夏は自分なりにそう解釈した。


「城戸さん、ここがあなたの転送場所です。元世界に戻った際に必ず政府の者があなたを訪れます。その人物があなたのこれからの生活を保護してくれます。」


「ありがとう、田中さん。あなたが私の派遣士で良かった。おかげで満ち足りた思いでこの世界に別れを告げる事が出来る。」


城戸の身体が光る糸になり束となって消えようとした時、瑠夏はアワアワしながら叫んだ。


「きっ城戸さん!私は初任務の返還者があなたで良かったです!元世界では余生を楽しんでください!」


ローゼも何か声をかけるのかと思ったが笑顔で軽く手を振っていた。クールだなあと瑠夏は関心していた。

衛鉄の耳元からオペレーターの声が漏れていた。


(たった今、城戸高吉の返還が確認されました。お疲れ様です。)


3人は顔を合わせて安堵した。彼が元世界でも穏やかな日々を過ごす事をそこにいる一同が願った。


日誌:今日は研修生の岸野瑠夏という年齢詐称で派遣されて来た少女と共に任務にあたった。

とは言え優秀であるし、おかしな行動もない為、本部に送り返すまで一緒に行動する事にした。しかし、頭の中では騒がしそうな感じがする。

ローゼも口でガミガミ言わず彼女の様に頭の中で済ませて欲しいものだ。

本題に入ると今回の任務はかなり奇妙なものだ。今までの転生者が手に入れる祝福(ギフト)とは格別上になる程、城戸高吉の力は凄まじかった。しかし、彼の善意が功をなしこの世界の秩序は乱れる事はなかった。彼がどうしてそこまで孤独に拘る事が出来たのか最後まで分からなかった。

それでも彼は後悔などしていないだろう。私に宛てた孤独でないと見えない星を彼は手に入れたのだ。何かを成し遂げなければ善人となる事が出来ない元世界で何もしない事で彼は人知れず善人として生きる事が出来たのだ。

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