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老婆の宝石

「それからは、メアリ、あなたも知っている通り。姫様は立派な女王になった。何年かして隣国が攻めてきたときも見事な采配で退けた。

 その戦でアンドリュー……あなたのおじい様は死んでしまったけれど」

 年老いたエミリは、熱に浮かされたように話した。


「姫様の恋はどうして突然終わったの」

「わからないままだったわ。おじい様も姫様に迫られていた時のことは二度と話そうとしなかった。北の森も調べたけど魔法使いなんていなくて……あ、でも」

「なあに?」

「もしかしたら、あの宝石が関係しているのかも」

「宝石?」

 私は座り直した。


「出陣前、戦支度をする彼の荷物からハート型の宝石を見つけたの。産後、情緒不安定だった私は思わず盗んでしまった。とても綺麗で、魅力的で……」

「おじい様に返さなかったの?」

「私に宝石のことを聞いてこなかったし、てっきり他の女に贈るものだと思ったのよ。彼は探していたけれど、諦めて戦に出て、そして……」

 話し疲れたのだろう、エミリはふぅ、と息を吐いた。


「昔は姫様にはずいぶんと厳しいことを言ったわ。でも、急に大人になられて……私に泣きついてきた姫様がもうどこにもいないかと思うと寂しいわね。

 きっと、アンドリューも姫様のことを愛していたのだろうけれど」

「おじい様が? 迷惑していたんじゃなくて?」

 ふふ、と柔らかい声が笑う。


「さすがに結婚までは考えていなかったでしょうけど。今にして思えば庭園で追いかけっこしていた頃、彼は幸せそうだったわ。

 相手を思って、口に出さない愛もあるのよ」


 エミリのまぶたが下がってきた。


「さっき言った宝石は今どこにあるの、おばあちゃん」

「私の裁縫道具の中、小さな小箱の中にあるわ。――あぁ、話したらすっきりした。ありがとう、メアリ」

 

 ひゅっと息を吸い込む空気音がして、部屋は静かになった。

「エミリ?」

 開いた口元に手をやる。呼吸はない。


 私は裁縫道具に手を伸ばした。



「こちらにいらっしゃったのですか、女王――いえ、侯爵殿下」


 振り返るとエミリの孫娘、メアリがいた。祖母に似て働き者の召使。


「今しがたエミリが亡くなったわ」

「まあ!」

 彼女は祖母に駆け寄る。やがて嗚咽(おえつ)が漏れる。

 だが、すぐに涙を拭き、私に向き直った。

 

「このように手厚い待遇を頂いたことに感謝致します。殿下に看取られたことは光栄でございます」

「長年、良く仕えてくれました」


 後は彼女に任せて、私はゆっくり私室へと向かった。片手にはあの宝石があった。


 私は――姫の恋を奪ったのが誰か、知っている。

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