レシピ教えて!
『お嫁くん』との出会いの前に、私の愚痴を聞いてほしい。
私は、毎日ニュース原稿を読んでいるけど、正直な話、毎日のニュースは、気の滅入るようなニュースばかり。
スポーツのスター選手の活躍と、将棋の天才棋士の活躍だけだよ。明るいニュースは。
あと、全部暗いニュースばかり。読んでいる方が嫌になってくる。
あとは、毎日のニュースというと、わいせつ教師もいれば、社会的地位の高い人が、痴漢やら、盗撮やらで捕まったり、
それから、DV夫に、ストーカー被害に、
ほんと、世の中、こんな男ばかりかよ!
と思うようなニュースを、毎日のように伝えるのが私の仕事だ。
私は、『結婚をしない主義の女』だと思われているみたい。以前はそうじゃなかったけど、最近はもう、それならそれでいいやと、思い始めていた。
あの『お嫁くん』に出会うまでは・・・。
私が、いつものように家に帰ると、何やら、キッチンの方から物音がする。
「何だろう・・・?」
そこには、見知らぬ大学生風の男がいて、私の家のキッチンを勝手に使って、料理を作っているではないか!
「ちょっと!何!?私の家のキッチンを勝手に使って、料理なんて・・・。」
それが、私と『お嫁くん』こと、紺野涼樹との、最初の出会いだった。
涼樹「ごめん、ごめん、勝手に上がらせてもらって。悪気は無かったんだけどね。」
紺野涼樹。大学4年生。
将来は保育士を目指していて、専門の勉強をしているらしいの。
それから、食事の配達のアルバイトをしているらしいの。
その食事の配達のバイト中に偶然通りかかって、それで中の様子を見たら、部屋が散らかっていたって。
鍵は、マンションの管理人さんに頼んで、開けてもらったそうだ。
なんで、私の部屋のことを、そこまで知っているのかは置いといて、まさに彼こそが、私の目の前に突然現れた、『お嫁くん』なのだ。
そしてなにより、料理が得意、部屋の片付けも得意。
片付けコンサルタントの本も読んでいて、それもあって、片付けが得意らしい。
まあ、母親のしつけもあったらしい。
料理の内容は、豪華オードブル!
唐揚げ、ミートボール、エビフライ、ポテトフライ、ナポリタン、それから、シューマイに、春巻き、さらに、ポテトサラダと、野菜サラダまで!
こんなにたくさん、一人、いや、二人だけで食べきれるかな?
おまけに、部屋もきれいに片付いていた。
きれいに片付いているのはいいけど、まさか、私の見られたくない秘密のものとか、それから、日記の内容とか、勝手に見られたりしてないよね?
よっぽど尋ねてみようかと思ったけど、とりあえず、目の前の料理がおいしそうなので、いただくことにした。
「いただきまーす!」
唐揚げ、ミートボールから食べた。すると、彼も、唐揚げ、ミートボールから食べた。
もしかして、好きな食べ物とか、一致してるの?
涼樹「野菜も食べないとね。」
私は、ポテトサラダと、野菜サラダにも手をつけた。
「んー!このポテトサラダも、野菜サラダも、みんなおいしい!」
涼樹「ところで、職業は何を?」
「あのー、私実は、YBSテレビのアナウンサーで、夕方のニュースを担当しているんです。」
もう、あっという間に寝る時間。こういう楽しい時間ほど、過ぎるのは早い。
涼樹「先に寝てていいよ。」
それじゃ、お言葉に甘えて。もしかして、涼樹君が私の布団の中に入ってくるんじゃないかっていう、妄想をいだきながら、眠りに入る。
「おやすみなさーい。」
翌朝、目が覚めると、涼樹君はいなくなっていた。あれは夢だったのか、幻だったのか、いや、部屋だってきれいに片付いているし、食器だって、洗われて、しまわれている。
私はいつものように、職場へと向かった。