女子アナだって、『お嫁くん』が欲しい!
※この物語に登場するテレビ局の名称や、学校名などは、全て架空です。
私の名前は、橋野絵美子。
YBSテレビに勤める、女子アナ。
女子アナって、一見華やかなように見えて、実は嫉妬と欲望が渦巻く世界なのよ。
最近『お嫁くん』という言葉を聞いた。『お嫁さん』じゃなくて、『お嫁くん』よ。
いわゆる、家事や育児が得意な男性のことかしら。
私は、K県立女子高校を卒業して、A大学に入った。
中学、高校と、女子校で過ごしてきたから、男子生徒とふれあう機会は、小6の時以来だった。いや、大学だから、生徒じゃなくて学生ね。
男子学生たちは、私をチヤホヤしてくれたけど、それ以上の関係にはならなかった。それだけでなく、そのことで、他の女子学生たちの反発を買って、それで、私だけ女子学生の中で孤立してしまったこともあった。
実際、『好きな女子アナランキング』で、私がトッブテンに入っていないのは、そういうのもあるのかな、やっぱり、とか思ってしまう。
そんな中でも、ミスA大学の出場者の応募があり、グランプリを目指すことになった。
いつしか『絵美子親衛隊』なる組織まで、できていた。その親衛隊の一人が、話を持ちかけてきた。
「ミスA大学の、ミスコンテストに出場してみないか?絵美子なら、グランプリも狙えると思うよ。」
実は最初は乗り気ではなかったが、いざ出場してみると、あれよあれよという間に予選突破、ファイナリストに残ったのだった。
この時のファイナリストの子たちが、大学に入って初めての女友達だった。
そして、見事に優勝。ミスコン優勝の実績が評価され、YBSテレビの女子アナに内定した。
実際に入ってみると、タレントの引き立て役、あるいは、ニュースの原稿読み。だけど、それでも頑張ってきた。
彼氏をつくる暇も無いほど忙しくなり、気がついたら、30歳手前になっていた。そう、30歳前後になると、女子アナは定年と言われる。
30歳前後で、寿退社か、フリー転向か、そのまま局に残って、お局まっしぐら、その分水嶺に差し掛かっていた。
そんな中、私は局のお偉いさんに呼ばれた。
「実は、君に『YBSニュース』の夕方のメインキャスターをやってもらおうと思う。」
『YBSニュース』といえば、YBSテレビの看板番組。夕方の時間帯は、各局がこぞってニュース番組を放送する時間帯。
当然、引き受ける。そして、共にメインキャスターをつとめるのは、赤坂瑞樹。
この人も、第一印象、見た感じからして、人柄は良さそうで、誰からも好かれそうな感じはするのに、なぜか結婚相手は見つからず、気がつけば30歳という、私に似ているところがある。
そのくせ、仕事熱心。仕事に熱心すぎるから、お相手が見つからない、これも私に似たところがある。
彼も、仕事のパートナーとしては申し分ないけど、私生活のパートナーとしては、どうなのかな、といった感じで、結局は煮え切らないまま。
このままじゃ、若い時はアイドルアナ路線で売り出してきた私が、若い時はバカにしていた、お局様の仲間入り、ということもありそう。
実は私は、絶望的に、料理が苦手、さらには部屋の片付けも苦手。だから、部屋はいつも散らかっていて、時々母親が来て片付けてくれるんだけど、しばらくすると、また散らかる。
そんな私のところに、まさか本当に、『お嫁くん』が現れるなんて、この時はまだ、思いもしなかった。
その『お嫁くん』の名は、紺野涼樹。
料理が得意、さらに、部屋の片付けも得意、そしてなにより、掃除や洗濯も・・・。
まさに、理想の『お嫁くん』を絵に書いたような、そんな感じの。
女子アナだって、『お嫁くん』が欲しい!
「お願い!私の『お嫁くん』になって!」
ただし、私は30歳、彼は22歳、果たして、この恋の行方は・・・?