第二章:医療島での朝
-14時間前-
夏の朝 まだ暑さが広がる前に 冷たい風が開けた窓から部屋に満ちていく。
いつも通りの朝 俺は6時に目を覚まして すぐにベッドから飛び起きて外出の準備を始めた。
「いってきます」
自分の部屋には誰もいないことを確かめながら、そう呟きながら外へ出ると、ゆっくりと扉が閉まる。
鳥のさえずりと潮風が、一日の始まりを感じさせる。
身体の調子を整えてくれる。
俺が住んでいるのは、約5万人の人々が生活する医療島【メディカルアイランド】だ。
世界各国の医療技術が取り入れられ、病棟の設備はもちろん、島全体が薄いドームで覆われていて、気温や天候までもが管理されている。
一部の地域では風景や建物が投影される。
それは、人々の心を落ち着かせるためだという。
島には難病や重症患者が入居しているが ただの医療施設や患者の居住区だけでなく 学校や役所など 普通の街並みと変わりはない。
俺はこの島で医学生として日々勉学に励んでいる。
正直に言えば、医学の難しさに心が折れそうになることもある。
恐怖と使命に追われながら 俺は毎日を過ごしている。
(治せない病気なんて存在してはダメ。だから、私は医師になるんだよ)
そう言ってくれたあいつの言葉が 今でも頭に残っている。
最近では不治の病気が増えているというニュースも流れている。
この島に住んでいるせいか 不治の病なんて単語は毎日聞き飽きるほど飛び交う単語だ。
そんな現実はもはや日常となり受け入れつつある。
俺はズボンのポケットからポータブルデバイスを手に取り一通のメールを読み返した。
送り主は 5年前から会えていなかった
厳密に言えば会えなかった幼馴染の五華 アオからだった。
<八途 奏託へ>
<久しぶりだね奏託!私は今 水茂研究所っていう所で1人虚しく書類と戯れているんだけど 久しぶりに奏託の声が聴きたいなぁって思って。だから今度の日曜日にここへきて欲しいんだっ。もちろん私に会いにきてくれるって事はいつものアレも持ってきてくれるよね!?あと、ついでにリップクリームもお願い。よろしくね♪>
内容はとても彼女らしい 土足で人の心に踏み込んでくる依頼書のようなものだ。
「はぁ・・・」
俺はアオに頼まれた例のアレと頼まれたリップクリームの入った袋を持ち 駅に向かって真っ直ぐに歩く。