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それでいいのか貂蝉ちゃん

 貂蝉はそれから毎日、董卓について城に行ってはあちこち見て回り、一緒に屋敷に戻って食事を共にしては使用人たちに話を聞いて回る日々を送った。


 恐ろしい事に、誰も董卓の事を悪く言わない。


 一部、董卓の話を出すと一切の表情が消え「董卓様バンザイ、董卓様スバラシイ、董卓様サイコー」としか言わなくなる宦官たちもいたが、概ね良い噂ばかりだった。


「董卓様が良いご縁を見つけてくださったの」


「董卓様のおかげで出世して、人生バラ色です!」


「董卓様のおかげで病気が治って、新しい仕事も見つかりました」


「董卓様の紹介で、ずっともてなかった僕にも婚約者ができました! 董卓様ありがとう!」


「董卓様のお屋敷で勤めるようになってから宝くじが当たり、今はとっても幸せです!!」



 皆が崇めたたえる董卓様。


 これは本当に自分が王允様から聞いていた董卓の事なのだろうか?

 彼女は帝位簒奪を企む悪鬼の如き輩のはず……。









 数日後、軍の鍛錬で都を離れていた呂布が戻ってきた。


 貂蝉が女も男も構わず好きと噂の董卓の屋敷に滞在しているというのに、満面の笑みだ。


「おお貂蝉、義母上と会ったか。どうだった。素晴らしいお方だろう」


 お前もか、呂布。


「はい、本当に」


 貂蝉がにこりと愛らしく微笑んで見せると、呂布は満足そうに何度も何度もうなずいた。


「実はな、先ほど義母上に挨拶を済ませてきたのだが、正式にお前を家に迎え、その祝いの宴を義母上の屋敷で盛大に行うというのだ」


「え!?」


「今からその準備をせねばならん。俺は忙しいが義母上とその使用人たちが面倒を見てくれるだろう。これもお前が義母上に気に入られてくれたおかげだ、やったな、貂蝉!!」


「は、はい、嬉しゅうございます……」


 困惑する貂蝉。


 自分が間者のような真似をしていた事も知っているだろうに、これは一体どういう事なのか、と首を捻った。








「貂蝉、ほら、この(りょうり)は体にいいのよ、もっとお食べ」


「は、はい、董卓様」


「そんな水くさい、義母(はは)と呼んでおくれ、さあさあこの酒も」


「はい、義母上」


 貂蝉は勧められるまま酒を飲んだ。


 彼女は今日も董卓と夕食を共にしている。

 正直、何を考えているのか分からなくて気持ち悪い。

 と、董卓が箸を置いた。


「ねえ貂蝉」


「はい」


「呂布はいずれ国の重鎮となるでしょう。そうしたらあなたもあなたの子供も安泰ね?」


 子供。

 ドキリと貂蝉の鼓動が跳ねる。


「たくさんたくさん、子供を産んでちょうだいね。もしできなかったとしても、継子や親族や使用人たちをあなたの子供だと思って可愛がってちょうだいね」


「は、い……」


 董卓がにっこりと笑う。


「全く男どもは争ってばっかり。せっかく産んだ子供も殺してしまうし、腕力ばかりで才ある者を貶めたりもする。加えて宦官どもときたら色に耽る事ができない恨みを金と権力で晴らそうとしてばかり。いっそ女が上に立てばいいのよねえ?」


 それはねっとりと貂蝉の体にまとわりついた。


「子らの笑い声と、豊かな実りと、安らかな日々。楽を奏でて、詩を吟じ、舞を舞って、明日の心配をしない。誰でもがそうあればいいと、そう思わない?」


 いいのだろうか。

 それを望んでも。

 未来を、幸せを望んでも、いいのだろうか。歌妓上がりの女が。


「呂布の手綱をしっかり握っておきなさい。愚かな真似をしないようにきっちり教えて、家内の事をその手に治めなさい。そうすれば愛する子を腕に抱き、徳も富貴も何もかもあなたのもの。できるわね?」


 腕の中の我が子の愛らしさ。

 中原の平和のために諦めた、自らの幸せ。


 だが、本当に?

 本当に、男たちに任せて自分が、女たちが望む平和が来るのだろうか。


「いい子ね、貂蝉。さあ、もうひと口、お酒を飲みなさい」


 言われて貂蝉はぼんやりと杯の中の酒を見つめた。

 思考が、上手くまとまらない。

 そんな事を思いながら、貂蝉はゆっくりと杯を飲みほした。











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