必殺! 美女連環の計!
貂蝉は美しい歌妓である。
その美しさと頭の良さを買われ、王允の養女となり、董卓と呂布の間に傷を入れる「美女連環の計」を託されていた。
呂布は力の強い、腕自慢の自信家であまり頭が良くない。短気で直情径行、この三国の世の男に多い我慢の効かない人間だ。
美しく才のある貂蝉に、彼はころりと落ちた。
儚げで愛らしい、歌も舞も素晴らしい彼女が自分だけを頼みにしている様子は彼の自尊心を満足させた。
呂布は簡単だった。
だが問題は董卓だ。
女で、しかも才女を多く侍らす彼女にどこまで貂蝉の魅力が通じるかわからない。
緊張と警戒を外には出さず、貂蝉は面を伏せながらも微笑みを浮かべて董卓の前に進み出た。
「あなたが貂蝉ね? うちの義息子がとても褒めていたと聞くわ」
その言葉に貂蝉はドキリとした。
呂布は彼女の事をどこまで話していたのだろう。
いや、あの話し方だと呂布本人から聞いたわけではなさそうだ。
すると周囲に報告させているという事か。
「恐れ多いことです。董卓様や呂布様の素晴らしさの前ではわたくしなど、息を忘れた魚のように水の中で溺れてしまいますでしょう」
「あら、わたくしの美しさを褒めてくれているの? でもうちの義息子はそんなに美しかったかしら? ああそれともあの子の筋肉が?」
貂蝉はヒヤリとしたものを感じながら顔を上げて董卓を見、そして可愛らしく首を傾ける。
「呂布様が馬にまたがり、刀を振るうお姿は美しいと存じます。そしてそのお義母上であらせられる董卓様におかれましては、その姿のみならずお心もまた素晴らしく、天女もかくやとの評判でございます」
「ほほほ、嬉しい事を言ってくれるわね」
そう言って嫣然と笑う女の美しさ。
50をとうに超えているはずなのに、なんと美しい張りのある瑞々しい肌。
花も恥じらってその顔を閉じる、色香漂う月のような整った美貌。
まさに、傾国。
貂蝉はその佳人を前に、美しさにただただ震えた。
「しばらくわたくしの屋敷で過ごしていきなさい。そのうち出かけている義息子も帰ってくるでしょう。貂蝉、わたくしたち仲良くやれそうね?」
「はい董卓様」
「董卓様、あの貂蝉という小娘、いかがなさいますか」
「好きにさせなさい。城の中も屋敷の中も、どこでも自由に出入りさせて、誰とでも自由に話させなさい」
「なるほど、かしこまりました」
ふふふふ、と董卓が笑う。
「若いっていいわねえ」
「左様でございますねえ」
部屋の中に董卓の機嫌の良い笑い声が響いた。