その美熟女、董卓
董卓には龍が憑いている。
市井のみならず、兵の間や王宮でさえもまことしやかにそう囁かれていた。
理由は、それまで人の妻として屋敷の奥で静かに暮らしていた彼女が、ある日突然街中で演説を始めたと思ったら多くの人間を虜にしてあっという間に軍を作り上げてしまったからだ。
それにはもちろん、その美貌もものを言っている。
恐ろしいほどの美貌と他を圧倒するカリスマ性。
それが他者から見た董卓という女だった。
軍を率いた董卓は街を治める役人を捕らえ、あっさり街を占領した。
兵権を手にした董卓の進撃はここから始まる。
少数の手勢で次の街を攻め落とし、さらに兵を手に入れた董卓は次々と支配下の街を増やし、いつのまにか中原に名を馳せる大将軍へと成り上がる。
玉を散りばめた黄金の見上げるほど高い輿に乗り、都市から都市へと移動しながらその地で名高い男たちを集めて行く。
その目的はハーレムを築く事。
各都市から美男や才人を集めて奢侈に溺れる。
そんな生活を送る事だった。
「お〜っほっほっほっほ。この街にもなかなかいい男がいたわねえ」
「左様にございます、董卓様」
「顔も良ければ学もある、ついでに風雅な嗜みもひとつやふたつやみっつやよっつあるような、董卓様にふさわしい人物はさすがにおりませなんだが」
そばに侍って追従するのは、最近お気に入りの美しい女官2人。
どこへ行くにも連れ回している。
この董卓、男も好きなら女も好きともっぱらの噂で、いい噂はといえば何ひとつない。
にも関わらずなぜか兵や女官たちの評判は良かった。
とある宦官が彼女を裏で悪く言ったところ、彼は翌日、裸に剥かれてボコボコにされ、人相が変わった状態で河原で発見された。
彼はしばらくの間、言葉の後ろに必ず「董卓様バンザイ」をつけて喋っていたという。
そのクセが抜けた今も、朝晩必ず「董卓様のご無事を祈ってーー!!」と、董卓のいる方向に向けて万歳三唱をするとか。
女官の言葉に気を良くした董卓はまたひとつ高笑い。
「ほほほほほ。仕方がないわ、これもまた定め。新人たちが入った祝いに今晩は宴といきましょう」
「「かしこまりました」」
「兵や官吏のみならず、民達にも酒と菜を配るように」
「「心得まして」」
「さあ、今日は騒ぐわよーーー!!」
きゃああ、と嬉しそうな女達の黄色い声が響く。
戦勝の宴はいつでも勝者に心地良いものなのだ。