可憐な愛され聖女候補の理想は低め
数有る素敵な作品の中からお読み頂き有難う御座います。
パアッ、バサッ……。ブイイイイ!!
大通りに響く車の音にかき消されそうなのに……最後に聞いたのは、不似合いそのもの、そんな音。
目の前に迫ってきたそれには、咄嗟に反応出来なくて……。
私は立ち竦み、目をきつく閉じるしかなかった。
此処はデカイ昔の神殿が観光地の町トボッシー。
私は、孤児ながらも苦境に耐えて懸命に生きる転生乙女のヒロナ。
お仕事は食器磨き。そして光れるよう祈ること。
何でやねん。
「おお、こんな所にいたか!可憐な聖女候補よ!!」
あー、今日も何か意味もなく寄ってくる奴が多いなぁ。今日は何処ぞの何方かな。声デカイ。鼓膜破れるだろ。
「……」
「俺に靡かぬとは……面白い女だ」
「あっ、サーセン!!わーその鞄、ボッタクリーニのだー!お金持ちっすね!
何か恵んでくれんの?やべー!」
取り敢えず、壁ドン気味で迫ってきた俺様何様御曹司様は、ガメつい言葉で撃沈させておいた。
近寄りすぎで恐怖しか感じない!!指をこっち向けるんじゃねーわ!!
「私には婚約者が居るんだが、君を愛している!だから彼女とは偽装結婚で君を守ろう!愛らしい君に相応しい可愛らしい家も用意したからね」
「わーそりゃ白黒付けなきゃ!はい!離婚一択!?あ、婚約破棄の方かなっ!?
っ疲れっしたー!」
その後来た、出会って3日のお偉いらしい輩には、偽造婚約持ち掛けられちゃったから!撃沈させてきたよ!
結婚に白も黒もあるかボケ!!一夫多妻で派手婚なら白無垢で、お色直しのドレスはフリルバリバリなパープル派じゃあ!
あー、今日もお空が高くて青いわー。生きてるって感じ!
そう、此処は異世界!モシマジデ国の辺境の町トボッシーの晴れた日!!
中途半端に近代日本ぽい、異世界!なのに白亜の神殿がある!不思議!センス皆無!
私、新発売コンビニアイスを買いにサンダルで出掛けたら、邪魔されて召喚転生された聖女候補のヒロナ!
今でも絶賛絶許中!モチマシマシアイス食べたい!!寄越せ!戻せ!返せっ!
「今日は、モモヒロタさん。今日も可憐でか弱くお元気そうで」
「百田ヒロナです、早く覚えろ神官さん」
関西弁のアクセントで平坦になおかつ間違えて呼んでくるな。思い切り『桃を拾いましたぜ』のニュアンスじゃないか。
今日の挨拶もキモいし。
はあー。細かいところまで本当に理不尽。
聖女だと祈らにゃならんらしいから、心を込めて帰還したい思いの丈をぶつけておいたんだけど、神官が来ただけだった。
つか、何の媒体転生が知らないが、本名呼びが痛くて嫌。顔も変わらなくて嫌。
頭が青な……どう頑張ってもアニメみたいな見た目から名前呼ばれるの笑い転げそう。
「神官さんでなくて、名前で覚えて頂きたいですねえ」
「頭悪くてさーせん。そっちも覚えとけですね」
「うう!悪態迄可愛らしい!」
覚える気ないけどな。
私が現代で味わった転生召喚魔法は、風で飛んできた新聞ぽい札(横813mm x 縦546mm)が顔に張り付いたから!そしてその上に赤子の私が載ってたから!
今にもリアルに思い出せる、あのカサつき!イライラしちゃう!
正式名称、転生召喚紙ブランケット判と言うらしい。
どうでもいい。
デケーなと思ったけど絨毯サイズから小型化したらしいよ。確かに、台風でもないのに絨毯飛んできたら引くよね。そういう問題じゃない。
新聞の判サイズなのは、嘗ての聖女様に新聞記者が居たんだとか。
どうでもいいけど……その規定、どーやって異世界で測ったの?そいつ、メジャーでも持ち歩いてたの?
謎が深まる上に、訳を聞いても多分スッキリしないだろうなぁ。
て言うかあのサイズがブランケット判って言うの、異世界来て初めて知ったわ。異世界の神官の講釈で自分の世界の新聞の規格聞かされるってどうなのよ。要らないだろその無駄知識!ここの単位と違うんだけど!
とまあ、……一部で有名な、暴走トラックアタック転生じゃなくて良かったけどねー。良くないけどね!
因みに、亜空間で神も仏も一般人にも出会ってないよ。やったね!とは言い難いけど……試練とか真っ平。
死にたくないし、変なのに絡まれず、健やかに生きた固まりで居たいのよ。ノーミンチ・ノーチートで結構!
で、聖女とやらのお仕事なんだけどね。
可愛いけど取り敢えず光れって。話はそれからだと。
神殿前の屋台に棄てられた孤児にとんでもねー事言いやがるぜ。
人体は光るように出来てねーよ。蛍でも連れてきたらいんじゃね?後、普通に話せ。平伏せよ。
寒いからコンビニ前迄ちゃんと送れ。
そう子供ながらも優しく誘拐犯共(心の中で呼ぶのみ)にお伝えしたらね。
取り敢えず、16歳の誕生日……誕生日?に光らないなら聖女候補から外してお金くれるらしい。
それを引っ提げて元の世界に戻る方法を探したい所だけも……戻る時の時系列は一応考慮されんのかな。
色々信じがたいわー。
「こんなに愛らしくて可憐なのに聖女ガチャとしてはハズレですかね……」
「聖女蛾茶?」
は?まだおるんかい神官さん。てか、蛾のお茶なんて有るの?ちょっとキモいな。
「やめてください!そんの可憐な姿でそんな恐ろしい当て字を口にするのは!!虫は即座に滅びてください!!」
「聖人蝶と聖女蛾って、意外とここ以外でもその辺飛んでるらしいですよ。お茶に出来るのかなぁ」
「悍ましい虫の話はやめて下さい!!窓から入ってきたらどうするんですか!!その辺火の海にしそうです!」
神官の癖に虫嫌いとか面倒だなあ。
この神官、偉い家に生まれたけど、三男だから神官になれと放り込まれたらしいよ。
しかし夜間なんて、灯火に一杯その聖女蛾が寄ってきてんじゃないか。大袈裟な。さては夜の見回りサボってやがるな!何てヤツだ!
「光る時は虫の来ない光り方でお願いしますね」
「虫は熱にも寄ってきますよ。あら聖人蝶がヒラヒラと」
コイツを追い払うには虫トーク。
……はあ。やっと行った。
私は新聞の上に載って召喚転生させられた光れそうな聖女候補なので、婿狙いが目白押しらしい。
……次から次へと欲望を顕にしたカスみたいな男に言い寄られて!良いように扱われて、さあ大変!
……まあね。本当はヒロインらしくキャッキャ恋の鞘当て!?やりたいわよ、そりゃな。出来るならな。チヤホヤされたいともよ。
でも、フラグを立てるならせめて!マトモなのが良いですからね!マトモな……そぐわしい相手と!!
「つか、せめて!人外でもいいけど体長を揃えろ!!22cmと2m弱を番わそうとすんな!」
私、百田ヒロナ!
体長は22cmでも種族は人間の筈!!
そう!人間に決まってる!!断じて奴らの欲望の具現化した喋るお人形では!ない!!
どう見てもお人形キャワイイハアハアな目で見てくる奴らを振り切り!!
絶対!絶対に!!逃げ切って!逆転生ハッピーエンドやるんだからな!!もしくは!身長差は5cm迄の殿方しか受け付けない!!物凄く妥協して変態でも人形好きじゃない殿方!!
日を追うごとに踵がボヤッと光ってる気がするけど!!今日も踵に靴墨を塗ってフォークを磨きブン回して、乗り切るぞ!!
転生ヒロカは日本の有名な小学生ドールRさんくらいの大きさです。彼女に向けられるラブは一方通行でしたので、ラブコメ…で良いのかしら。