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第5話:Sランク冒険者パーティー〝泉の女神〟


「お怪我はないですか?」


 そう話し掛けてくる美女――ノルンに対し、剣士であるイーゼは警戒を解くどころか剣を構えた。


 明らかに討伐難易度はBランク以上のバケモノを一人で瞬殺したのは異常だ。それになんだあの剣は……あまりに禍々しすぎる!


「アルカ! お前は逃げろ! あれは……人の手に負えるもんじゃない!」

「でも!」

「早く村にこのことを!」

「そんな……貴方を置いていくことなんてできない!」


 なんて盛り上がっている二人を見て、ノルンが頬に手を当てた。


「あらー? まだ魔物がいるのかしら?」

「んー、いやもう魔物の気配はないけど」

「ですよねえ」


 ノルンはとりあえず魔剣を鞘に納めると、決死の覚悟で戦おうとしていた二人へと歩み寄った。


「すみません、少しお尋ねしたいのですが……」

「俺達如きには剣すらもいらないってか!? くそ! 舐めやがって……」


 イーゼはそう吼えるものの、足が動かなかった。


 剣を納めていてもなお、目の前の存在に勝てる気が一切しない。この得体の知れない美女は一見すると無害そうな顔をしているが、なぜか剣を鞘ごと胸の間に仕舞うあたり、明らかに異常だ。


「アルカ! 騙されるな! 魔王軍にはあえてこちらを油断させてだまし討ちするのが得意な幹部がいると聞く!」

「そんな……まさか魔王軍の幹部が!?」

「まあ! 魔王さんの部下がどちらかにいらっしゃるのでしょうか?」

「くそ、俺の人生はこんなところで終わるのか……! だがせめて一太刀!」

「大丈夫ですよ。私、泉の女神のノルンがその魔王さんの部下から貴方達を守りますから!」


 ようやく会話が噛み合ってないことに気付いたディールは、さてどうやって誤解を解こうかを悩んだ末に、静観することにした。


「うーん、前途多難だ」



☆☆☆



「疑ってすみませんでした!!」


 イーゼとアルカがノルンへと同時に頭を下げた。


「あ、いえいえ。気にしないでください」

「まさか命の恩人だと思わず、魔王軍の幹部扱いしてしまいました!」

「さぞかし名のある冒険者だとお見受けします! 俺はCランクパーティー〝放浪の槍〟のイーゼです! こっちが回復術士のアルカ」


 頭を下げ続ける二人に、ノルンは微笑みを返しながら胸に手を当てた。


「私は泉の女神のノルンです。こちらは友達のディールですよ」

「よろしくね~」


 そんな二人を見て、イーゼとアルカが顔を見合わせた。


「〝泉の女神〟なんてパーティー、聞いたことあるか?」

「ないわ……でもあの強さは本物……はっ! まさか……彼女達は幻のSランクなのでは!? Sランクになると逆に機密依頼が増えて、名前が知られなくなるって聞いたことあるわ!」

「マジかよ……凄え人に助けられちまったよ……」


 また盛大に勘違いしていることにディールは気付いたが、逆に都合が良いかもしれないと今回は訂正する気はなかった。


「ディールさん。冒険者とは?」

「えーっとね、魔物や魔族を倒すことに特化した者達だよ。冒険者ギルドってところから各地に派遣されて、魔王軍や魔物から村や町を守るのが仕事なんだよ。元々は文字通り冒険していた者達らしいけども、今は傭兵みたいなもんだね」

「なるほど……素晴らしいお仕事ですね!」


 と、ノルンはノルンでイーゼ達に感心していると、イーゼが彼女に対し冒険者式の敬礼を行った。


「依頼中、わざわざ助けていただき感謝しております! きっとこの森の異変に関係あるのでしょう?」

「そういえば最初に、森の魔物を全滅させたと言っていたわ!」

「なんと……俺達が駆け付ける前からこれを予期していたのですね……流石Sランク」

「……? 森の魔物を全滅させたのは事実ですが」

「やはり! 流石すぎるぜノルンさん……いやノルン様!」


 イーゼが嬉しそうにそうノルンへと再び敬礼する。


「ところで一つお尋ねしたいのですが、この森の異変は一体何が原因なのでしょうか? 明らかに魔王軍の幹部クラスの仕業だと考えていますが」

「あら、これは私が――」


 と正直に答えようとしたノルンの口をディールが塞ぎ、代わりに答えた。


「魔王軍の幹部、剣鬼ザレスが現れてね! そいつのせいだよ! で、ノルンが持っている剣はそいつの剣だけども、あまりに危険だからノルンが闇を抑える為にああして懐にしまっているんだ!」

「なるほど……全ての辻褄が合いましたね。まさか、あの魔王軍最強の剣士を無傷で倒すなんて……凄すぎる」

「森を狂わすほどの魔剣を持って平気だなんて……それにあの剣の冴え……Sランクは伊達じゃないな」


 勘違いが更に加速していくが、ディールはそれでいいと考えていた。


「あの、ノルン様はこれからどうされるのですか? もし良ければ助けていただいたお礼もあるので村で歓迎したいのですが……」


 イーゼがおずおずとそう申し出ると、ノルンは笑みを浮かべた。


「はい、私は魔王さんを探しているのです」

「ま、魔王を!?」

「それってつまり……魔王討伐ってことじゃあ……」

「もし魔王さんの居場所をご存知であれば教えていただきたいのですが」


 ノルンがそう聞くと、イーゼとアルカは見つめ合うと無言で頷いた。


「……魔王についての情報は俺達冒険者にすら秘匿されています。ですが、王都に行けば……きっと何か情報が掴めるはずですよ」

「王都……?」

「はい、このルクセ王国の首都です。もしやノルン様は外の国から来られたのですか?」

「そうだよ! 遠い場所から来たから地理には疎いんだ!」


 ディールが先回りしてそう答えると、イーゼ達も納得した。ノルンのどこか浮世離れした雰囲気は、異国人ゆえのものだと勘違いしたからだ。


「分かりました! では俺達が王都まで案内しますよ! 村も当分は平和でしょうしね」

「ありがとうございます、イーゼさん、アルカさん。とても助かります」

「では一度村に戻って準備しましょう! さあアルカ、忙しくなるぞ!」

「そうね!」


 意気込む二人を見て、ノルンが微笑んだ。


「皆さん良い方で助かりました」

「そうだねえ……」


 自分で言いだしたものの、この勘違いがいつまで続くのだろうかと少し心配になってきたディールだった。


 こうしてノルンは二人の冒険者と共に、王都を目指すのだった。


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