表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

Tier.Sキャラに転生バフをのせて、特攻敵を殴ってみた結果wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

作者: 上羽 葵

 そこは真っ白な世界。どこまでも続く、白の世界。



 その色の無い世界に、唯一あった色。その世界の中心に、二人の人間がいた。



 一人は鎧を着た冒険者風の青年。その鎧はぼろぼろで、体中傷だらけだ。



 もう一人は白い法衣のようなものを着た金色の髪の女性だ。そして、背中に、大きな翼が生えている。



 翼の生えた女性が、芯のある声で、青年に告げる。


「なりません…!!あの世界に戻っては。」



 その強い語気に気圧されることなく、青年が答える。



「ですが、私がいなくなったら、あの世界はどうなるのですか!?」



 青年の声も、強い意志で満ちていた。



 それを聞いた女性は、青年を諭すように、こう言う。



「奴の狙いはあなたです。ですが、もし、あなたが捕まってしまったら、被害はあの世界だけではすみません。いくつもの世界が、滅びかねません。」



「では!………あの世界を………彼らを…………見捨てろと………?」



 青年の声は、震えていた。



「心苦しいですが…………私にも……あなたにも、…………それ以外の選択肢は、残されていません……………」





「そんな………………く………そ……………………。」





 真っ白な世界に二つの色。その色は、昏い青一色に染まっていた。























 202X年 日本



 それは、厳しい残暑の9月の事。





 9月半ばの残暑は、身も焼けるほどの暑さだった。もう夕時だというのに、全く涼しくなる気配はない。最近は夏も随分長くなった。早く涼しい季節がやってきてほしいものだ。




 そんな残暑の住宅街を歩く俺は、工藤光、16歳。いたって普通の高校生だ。普通でないとところがあるとすれば、ちょっと剣道が得意なところぐらいだろうか。




 あ、…あと、俺の親父は……親父といっても、俺は孤児だったから、育ての親だが………俺の親父はちょっと変わり者だ。いや、かなり変わっているといってもいいかも知れない。





 もうすぐ、家につく。つまり、またあの変わり者の相手をしなきゃいけないという訳だ。






 家に着く。至って普通の二階建ての一軒家だ。



「ただいま」




 鍵を回し扉を開けると、俺の胸元に『ソレ』が、飛び込んできた。





「おかえり~~~~~~~~♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ひかるちゃ~~~~~~ん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!今日の学校は楽しかったかのう!!!!????元気にしてたかのう?????おじいちゃんと会えなくて寂しくは無かったかのう!!!!????ワシは寂しかったぞ!!!ひかるちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」




「…………ホラじい!?気持ち悪いから離れてくれ!!」




「も~~~~う、ひかるちゃんはまたそんなこと言ってえええええぇぇぇぇぇ!!!!!?????照れなくてもいいんじゃぞ?????????????」




 えーと、このジジイ。この、俺が帰ってきた瞬間に抱き着いてきた、この74歳のクソジジイが、俺の親父、ホラじいだ。



「ひかる!!!疲れておるじゃろう??????????お風呂にするか????????ご飯にするか??????????それとも一旦昼寝でもするか?????????????????…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ、それともやっぱり、わ♡た♡し!!!!!!!!!!!!!????????????」





「…………………………………するかボケエエエエエエエエエェ!!!!!!!!!飯だよ!!!飯!!!!」








 これが俺の親、ホラじいです。ホント、マジ気持ち悪くない?コレ。








§








 そこにあるのは普通の食卓。普通の机に普通のテレビ。普通の高さの椅子に座って少し待つ。



 出てくるのはカレーライス。このカレーライス、普通に埋め尽くされた俺の家と違って、意外と旨いのだ。学校と部活終わりで疲れた体には、この熱々で、少し辛めのカレーライスが堪らない。



 出てきたカレーライスを頬張る。やっぱりウマい。




「ひ♡か♡るちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!!!!!!!ワシのカレーライス、おいしいかのう!!!!????」




「旨いよ。残念ながらね…………」




 なんと残念なことに、このホラじい、クソ気持ち悪いくせに、作る飯は結構旨いのだ。食事に限らず、掃除、洗濯、家事全般どれをとっても卒なくこなすのである。男で一人で俺を育てたのだから当然なのかも知れないが、なんだかとても残念な気分になる。





「それは良かったのう!!!!!さて!!今日も愛しのひかるちゃんに!!!!ワシの異世界に居た頃の!!武勇伝を話してやろう!!!!!」






 …………………。あーーーーーーーーーーーーーーーーー、また始まったよ。




 俺がホラじいのことをホラじいと呼ぶ理由は、もとの名前が工藤ホーランスなんていう変わった名前なのもあるが、このジジイ、ホラ吹きジジイなのだ。



「わしはのう!!その昔!異世界で王様をしておったんじゃ!!!!!」





あああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。始まった、始まった。




「わしゃのう!!その昔、地球から遠く離れた世界に住んでおってのう、その世界は地球と違って魔王が戦っている世界だったんじゃ!!!」




「はい、はい。」



 なんとまあ、ぶっ飛んだ嘘だ。異世界って、………異世界って何処だよ。




「それでのう!!ワシは王様じゃったから、たくさんの勇者や冒険者を送り出したのじゃ!!勿論手厚い支援をしながらのう!!」



「そりゃー、よろしゅうございましたねえ。」



 このじーさん、マジでいってんだろうか。この科学の発展した日本の現代社会で、こんなことを言って信じる奴がいると思ってるのだろうか。



「じゃが、戦況は芳しくなかった。そこでわしゃ勇者たちとともに前線に立ち!勇者とともに戦った!!そして、見事!!魔王軍をしりぞけたのじゃああああああああああああ!!!!」



「おめでとう、ございましたーーー。」



 こんな調子で、俺が帰ってくるたび毎日、この話をしてくるのである。正直こんな真実味が少しもない嘘なぜつくのかよくわからない。勇者や魔王なんて、物語の中の話だ。だいたい、異世界なんて、あるわけがない。



 それに、ホラじいの姿、恰好も、ほぼほぼ日本人である。少し髪が赤みが勝ってはいるが、注意して見なければ気づかない程度で、日本人だと言って差し支えない。そんな純日本人が、魔王やら勇者やらの異世界ファンタジー世界で王様やっていたら、笑い物もいいところだ。せめてもうちょいマシな嘘つけや。




「ひかるちゃん!!!!今日もワシの武勇伝!!!!面白かったじゃろう??????」




「はーい、今日もめっちゃおもしろかったよーーーーーーーーーー。」





 この話は小さなころから散々聞かされていた。子供の頃は、無邪気に信じていたけど、小学生にもなると嘘だということを察して、やい嘘つきだの、やいあそこが矛盾しているだの、ホラ吹きジジイだの、さんざん言ったものだが、もう最近はそれさえめんどくさくなり、こんな調子だ。



「面白かったか!!!!!!よかった!!ワシは嬉しいぞ!!!!!!!!!!あ、あと、ひかる!!明日は稽古じゃからな!!!!!!ひかるとの稽古!!楽しみじゃのう♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」




「はいはい、分かってますよーーーーって、そのハート!!気持ち悪いからやめてくれよ!!!」




「ええ、こんなに好きなのにか??????♡♡♡♡♡♡♡」




「…………………………、あと、玄関先で抱き着くのもやめてくれ!!ご近所に変な趣味ある家族だと思われてんだぞ!?」




「????………。ワシ、ヘンな趣味なんてないぞ??ひかるが好きなだけじゃぞ?」




……………………………………………………あーーーー、変な趣味であるのは事実だった。。。





§



 





 次の日。家の近くのボロ道場に、ホラじいと二人で訪れる。俺とホラじいは道場に入って、軽く掃除を済ませると、さっと胴着に着替える。



 ホラじいと正座で向かい合う。稽古の時間だ。



「よしっ!!今日の稽古を始めるぞ!!!」



「はいはーーーい。」



「ひかるちゃん??返事はちゃんとした方がいいと思うぞ?」



「ホラじいが気持ち悪くなくなったらな。」



 そんなこんなで、稽古が始まる。



 こうして、週末に剣道の稽古をするのが俺とホラじいの習慣だった。ホラじいに引き取られたころから続けていたから、もう10年以上は稽古をしていたことになる。一応、ホラじいが俺の師匠ということになるだろう。部活とか、他の人と練習する機会もあるにはあるが、俺の剣道歴の多くは、ホラじいとの稽古といっても過言ではないだろう。



 ほんと、クソ気持ち悪くなければ、いい親なんだけどな。親としては、100点満点かも知れない。でも!!クソ気持ち悪いので!!!!0点!!!!!!!





 稽古は進み、ホラじいとの実戦練習だ。




 互いに打ち合い、勝負が進む。





 ホラじいの剣道の実力はかなりのものだ。だが、俺の敵じゃない。




「めええええええええええええぇぇぇぇぇえええええええん!!!!!!!!!!!!!!!」



 ホラじいの面に俺の一太刀が通る。




 勝負ありだ。




 小さいころは、ホラじいにはずいぶんやられたものだし、中学くらいまでは五分だったが、今となっては百戦百勝だ。パワーでは、俺の方が若さの分、随分と上だが、技術も最近では、ホラじいを明確に上回れるようになってきた。




「うひょひょ、光!!!!強くなったのう!!!おじいちゃん!!!嬉しいぞ!!!!!!!♡」




「ん……………、だからその、気持ち悪いの、なんとかなんねえのか?」



「じゃが光には、もっと強くなってもらわんとのう!!!!」



「…俺の言ったことは、無視かい。…………、つーか、全国で優勝して、そんでホラじいにも勝てるようになって、それでもまだ、強くなんなきゃいけないのか?」



 そう。一応俺は、剣道で全国一をとっている。10年以上もホラじいの厳しい稽古を受けていたとはいえ、我ながら結構凄いことだと思う。そして、それでもまだ、強くなれというホラじいは、なかなかのスパルタだな。




「じゃから!!!ワシが若き日に編み出した秘奥!!!!究極奥義を見せてやろう!!!!」



 そうそう、このおじいちゃん、剣道の時もなかなかおかしなことをしてくるのである。(稽古の前半は真面目にやってたのにねっ!!)そして、またそれが始まってしまったようである。



「異世界の王様はだいたい退屈じゃからのう!!!その時間でワシは!!剣の道を究め続けたのじゃ!!!もちろん!!異世界の頃は剣道なんて名前じゃなかったがな!!!!」



「はいはい、その話、100万回目な。」



 ホラじいぐらいの年になると、何回も同じような話をするというが、ホラじいは別にボケていない。つまり、わざと、毎回同じ話をしているのである。多分、わざと同じ話をしてイラつく俺を見て楽しんでるのだ。知らんけど。ボケて同じ話をするおじいちゃんよりタチが悪い。



 ちなみにこの話、ホントに100万回聞かされた訳じゃない。1200回目くらいだ。




「ふーーーーーーはっ!はっ!はっ!!!!どうじゃ!!これが若き日のワシが編み出した奥義!!!真剣・八刀流じゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!」



 ホラじいはいつの間にか、小手を外し、軍手をはめている。両手の指の間に剣をそれぞれ一本ずつ、挟み込む。つまりホラじいは今、右手に四本、左手に四本の竹刀を挟み込んでいるということだ。



 八刀流、その名の通り八本の竹刀を同時に使いこなすという訳だ。



 もう剣道でもなんでもねえ。




「うひょひょ!!これがワシの八刀流じゃあああああああああ!!!!!!!!!」



 そういうと、ホラじいが、指の間に挟み込んだ八本の竹刀を、自在に動かして見せる。確かに、こんなイカれた芸当ができるのは、世界は広しと言えどホラじいだけだろう。素直に凄いと思う。でもそれは、剣道じゃない。



「ゆくぞ!!光!!!」



「はいはーーーーい。」



 そういうと、ホラじいが巧みに、八本の竹刀を武器に試合を仕掛けてくる。8本の竹刀が時に同時に、時に時間差で振られる。繊細な動きだ。俺には真似できない。



 だが俺は、長年このクソ馬鹿稽古に付き合ってきたせいで、奥義の弱点を知っている。



「うひょひょ!!!行くぞ~~~!!!!」



 ホラじいが6本の竹刀を振り下ろしてくる。



 その6本をじっくりと観察する。



 致命的な弱点の一つ、本当の意味で一度に使いこなせるのは、2本までだ。




 ホラじいの八刀流は、一見多数の竹刀を同時に使いこなしているように見えるが、力が籠っていて正確な攻撃、つまり有効打になり得るのは2本だけだ。他の竹刀には力が籠っていないし、そもそも当たりさえしない場合も多い。



 今回の本命はそれぞれ左手の一番外側、右手の一番外側だな。



 恐らく脳が一度に動きを処理できる竹刀の本数が決まっているのだろう。そしてその上限が、2本なのだろう。それ以上となると、複雑で精緻な動きを、脳が処理しきれないのだ。



 俺は本命の2本、その2本だけを弾く。そして残りの4本は無視だ。




 そしてこの奥義にはもう一つの弱点がある。そしてこれが最も致命的な弱点だ。



 複数本の竹刀で攻撃をすると脳の処理が全てそれに割かれる。つまり、攻撃の時、ホラじいは完全に無防備だ。




 つまり、攻撃を弾いたこの一瞬、ホラじいは完全に無防備だ。



 俺は竹刀に、少し強く力を籠める。




「めええええええええええええぇぇぇぇぇえええええええん!!!!!!!!!!!!!!!」





 再び、ホラじいに俺の一撃が通る。




 俺の勝ちだ。






「うひょひょ……。光、また腕を上げたのう………。流石ワシの子じゃ。ますます好きになってしまうぞ♡」




「まーな。でも、好きになるのはやめてくれ。」




 今より好きになるとか最悪だろ…。ホラじいの好感度の下げ方、教えてください。






§






次の週




「ただいま~~~~~~。」




 今日も学校が終わり、家に着いた。そして鍵を回し、ドアを開ける。



 また、いつものようにクソジジイが突っ込んでくるのだろう。クソウザいハグは、どうせやめろと言っても無駄なのだろうが、せめて、家の前でやるのはやめてほしい。最近隣のおばちゃん、この時間になるとこっそり覗いてるんだぞ。




ほら、また、いつものように……………………








アレ??こないぞ????







 いやいや、そんなはずは。ホラじいは俺が帰ってきたらいつも抱き着いてくるのだ。いつ、どんな時でも抱き着いてくるのだ。料理をしていようとも、昼寝をしていようとも、風邪で寝込んでいようとも、抱き着いてくる。雨が降ろうとも、風が吹こうとも、やってくるのだ。宮○賢治顔負けだな。



 もしかして、俺が散々気持ち悪いって言ったのが効いたのだろうか?それなら嬉しいが、そんなにホラじいが物分かりがいいとは思えない。




 とにかく、家の中に入るか………





 そうして靴を脱ぎ、家に入る。





 家の中に入っても、ホラじいがいる気配はない。いつもは帰ってきて、則、抱き着いてくるのに、こうして、家の中に入ってもおかえりの言葉の一つもないなんて、そんなこと、あり得るのだろうか?



「おーい、ホラじい、帰って来たぞー。」






 返事はない。




 買い物にでも出かけたのだろうか?この時間に出かけるなんて、珍しいな…。いや、でも、カレーの匂いはするな。いつものように、カレーを作っていたのは間違いない。やっぱりどこかの部屋に居るのだろうか?




 そう考えて、部屋を一つ一つ確認していく。




 和室、ホラじいの部屋、風呂、トイレ……どの部屋を見てもホラじいはいない。



 あとは一階はリビングだけか……。






「ホラじい、いるかー?」





 そういいながらリビングに入る。そこには1人、人間がいた。だが、その時俺の目に入った人は、ホラじいでは無かった。






 そこには、一人の女性が立っていた。





 その女性は、俺が思わず目を奪われるほどの美貌を放っていた。




 長い金色の髪、水色の澄んだ瞳。すらりとした体でありながら、つくべきところにつくべきものがついている。高級そうな紫色の薄いドレスが、見劣りしそうなほどの美しさだ。そしてその、まるでこの世の全てを見通すかのような澄んだ瞳が、突然リビングに入ってきた俺のことを見ていた。



「あら……。あなたは?」



…………いやいや!!見とれてどうする!?こいつ、冷静に考えてみると不法侵入じゃねーか!




いや、待てよ……この女性、ホラじいの知り合いか…?それならこの家にいてもおかしくは無いが………



「俺は工藤光です。それより、あなたは誰ですか。ホラじいの知り合い、でしょうか?」



 その女性は、俺の問いに、少し考えると、こう答える。



「ホラじい?…………………ああ、ホーランスのことですね。」



「…ホーランス……!ホラじいの知り合いですか……!?ホラじいは今どこに居ますか…?」



 間違いない。この人はホラじいの知り合いのようだ。ホラじいが誰かを招くなど珍しいが、この女性はホラじいが招いたのだろう。



「まさか、ホーランスさんにこの世界に知り合いがいたとは………。少しなら、説明しても問題ないでしょう。ホーランスさんには、あなたたちでいう、『異世界』に、帰っていただきました。」




……………。えっ、異世界………!?



 ちょっと待て、この女性、今異世界って言ったか?ホラじいが異世界に帰った…?帰ったって言ったってことは昔そこにいたってことだよな…。



 ホラじいが日課のようについてる嘘を思い出す。ホラじいはその昔、異世界で王様をしていた。それに、勇者とともに、魔王軍と戦っていたとも。



 つまり、異世界っていうのがホントにあって、ホラじいは昔そこに居たってことか……?



 突然のことに頭が混乱する。異世界が存在するなんて見ず知らずの人に突然言われたら、全く信用しないだろう。だが、彼女の発言は、今までのホラじいの発言と、見事に辻褄があっている。ホラじいとこの女性が口裏を合わせて俺をからかっているとも考えにくい。



 女性は続けて、こう言う。



「とても、信じられないといった顔ですね…ですが、これは真実です。」



「そして、ホーランスさんには異世界で成していただくべき『役目』があり、私がお迎えした次第です。」




「役目………、それは、異世界の王様としての役目ということですか。」




「…………………………ええ。ああ、そういえば私が誰か説明していませんでしたね。ですが、ホーランスさんが王であることをご存じならば、話が早いです。私は、王の補佐官です。側近、と言えば、理解いただけるでしょうか。」




「側近……。」




「では、私もこの世界に長居は出来ませんので、これで。」



 そういうとその女性は俺の隣を通り、リビングを、俺の家を出ていく。





 そうか……ホラじいが王なのは真実で、ホラじいは異世界に向かったのか…。って、ちょっと待て、その『役目』が何か聞いてねえし、せめて!いつ帰ってくるかぐらいは聞いとかねえと!!




 慌てて振り向き、その女性のあとを追って、家から出る。




「……居ねえ。」




 そこには、誰もいなかった。即座に追いかけたはずなのに、だ。




 異世界、か…。真実は分からないが、こうして忽然と消えたことも、あの女性の異様な美貌も、どれも、一貫して非現実的だ。夢でも見ているのか。それとも、本当に異世界があるのか。





「まあ、考えても無駄だよな。待つしかないな。」





 その日、ホラじいが家に帰ってくることは無かった。





§






三週間後 高校 光のクラスにて




 ホラじいが姿を消したあの日から、三週間が経過した。



 あの日からホラじいは未だに一度も家に帰ってきていない。異世界に行ってしまったのが真実かどうかは兎も角、あの女性が言っていた通り何か理由あって、姿を消したことは間違いないのだろう。



 とはいえ、もうすでに三週間だ。これだけ長い間連絡と一つも無いとなると、少しは心配にもなってくる。



 あの金の髪の女性が言っていたことが真実ならば、ホラじいは王としての役割を果たすため、異世界に帰ったことになる。ホラじいは俺を引き取ってからの10年以上の間、俺の前から長時間姿を消したことは無い。つまり、ほらじいは10年以上異世界に帰っていない。



 だが今回、あの女性はその不在だった王を呼び戻した。つまり、今その異世界(?)では、王を呼び戻さなければならないほどの事態が起きているのだろうか?真相は分からないが、ただならぬ事態なのは間違いないだろう。




 そんなことを考えながら、教室の外を眺めていると、隣の席から声がかかる。



「おい!光!!何ボーっとしてんだ????」



「!野人か。なんか用か?」



 声を掛けてきたのは隣の席のクラスメイト、府通野人だ。



「あの今クラスの前の方に居る神谷さんって子、めちゃくちゃ可愛くねえか!!??隣のクラスらしいぜ!!」




「ん、あー、そうだなあ。」



 野人はどうも、隣のクラスの神谷という生徒に興味があるらしい。



「ん?光は興味ないのか?」



「んー、あんまりないかなあ。野人は興味があるのか?」



「なんせめっちゃ可愛いからな!クッソ俺も光みたくスポーツ万能イケメンだったら告白したのに!!!」



「別に告白すればいいんじゃないのか?フラれてもなんも減る訳でもないだろ?」



「ううー、でもせっかく告るなら付き合いたいぜ!!」



「まあ、そりゃそうか。」



 今はそれよりも、ホラじいの行方が気になる。毎日抱き着いてくるのは面倒だが、だだっぴろい家に、誰も居ないのは少し物寂しいし、何より家事がクソめんどくさい。これ以上一人で全部やるのはごめんだ。



「なあ、光、光は彼女とかいねえのか?」



「いないけど……それがどうかしたか?」



「マジか!?意外だな。恋愛も興味は無いのか!?」



「無いって訳じゃないが…そういや、最近、誰かを好きになってねえな。」



「最近か…前はいつさ?」



「前………………………、幼稚園。」



「幼稚園!?……………ってかそれ!?恋愛にカウントすんのかよ!?」




 恋愛、か……。確かに暫くしていないな。でも、多分それは恋愛に興味が無いからじゃない。恋愛というよりも、学校という物が、クラスという物が、苦手だった。



 狭い箱庭の中に同世代の人間たちが、集められて、そこにしかない閉鎖的な空間が作られていく。その世界は、一部の人だけが生きやすいようにカスタマイズされて、残りの者はその小さな楽園の主の顔色を伺いながら生きていく。そんな世界は、俺にはどうも、酸素が薄く感じられた。




 だが俺は正直、そんな世界にあまり興味が無かった。俺がちょっと頑張れば、その世界の頂点に立つことも、その世界ごとめちゃくちゃすることも、できるのかも知れないが、この酸素が薄い世界も、終礼の鐘が鳴れば霧のように消える。



 俺は苦手なブロッコリーも食べるタイプだ。ブロッコリーを食べないためにいちいちかんしゃくを起して駄々をこねるのは、その方が疲れる。




 まあつまり、そんな興味のない世界で、恋愛しようなんて、一ミリも思い付きはしなかったという訳だ。




「光!!それはもったいない!!!!光も恋愛、しようぜ!?」



「?なんでさ。」



「いや、光みたいな超絶イケメンスポーツ万能天才男なら!彼女だって作り放題じゃないか!!なんなら男の夢!ハーレムだって作れるぞ!!」



「そんなにうまくいかないと思うけどな。」



「いいや、行けるな!なんでも、女子の間で秘密で作られた彼氏にしたいランキングで光、お前ぶっちぎり1位だったって話だぜ!?これはハーレム、目指すしかないだろ!?ハーレムハーレム!夢の後宮だッ!!!」



 …………………そう言われても、興味が無いものは無いのである。俺はこうして、教室の隅でひっそりと生きていれば十分なのだ。あんな息苦しそうなところで、ハーレムなんぞ作っても、てんで楽しくないだろう。




「なあ、それより野人、野人は異世界って知ってるか?」



「?異世界って、あの異世界転生の異世界か。」



「んー。多分?それで合ってると思う。」



「何だ?光がそんなこと聞くなんて珍しいな。もしかして!?光も異世界転生ものにはまってるのか!?」



「いや、そういう訳じゃ…。」



「分かる分かる!!異世界ものは面白いよな!!!心優しい主人公が!転生を機に力をもらって!!異世界で敵をバッタバッタと倒していく!!!定番だけど爽快だよな!!!」



「いや、俺は別に、好きって訳じゃ…!」



「光は何の作品が好きか?俺は、『転生したらドル○ゲスだったので、七賢とともに魔王を封印します』だな!!七賢の中に潜んでいた裏切者を、主人公が看破するシーンは堪らなかったぜ!!」



「あはは……。なあそれより、野人、異世界って、ホントにあると思うか?」




「………?いや、無いだろ…………どうした光?なんか今日、ヘンだぞ?」



「……………………ああ、そりゃそうだよな。」



 なんか、勢いに任せて聞いてしまったが、これが、当然の反応だろう。異世界など虚構の世界の話。それを分かっていて楽しんでいるのだ。昔の俺もこんなことを聞かれたら、今の野人のように、あっさり切り捨てていただろう。三週間前までは。



 分かりきったことだというのに、こんなことを聞いてしまうなんて。野人のいう通り、今日の俺はちょっと変かも知れない。



「あ、でも、こんな噂を聞いたことがあるぞ。」



「………噂?」



 噂、もしかしてホラじいみたいに、異世界から来たとでも主張する人が居るのだろうか。




「ほら、この学校からちょっと駅の方に行ったところに、めっちゃトラックの多い交差点があるだろ?あの、駅近くの交差点だ。」



「ああ、あるな。」



「そこの交差点にな、夜の22時22分22秒に一台だけ、現れるんだ。表のナンバーが220で、裏のナンバーが284、そんで青と黄色の鳥のイラストが描かれたトラックが。そんで、そのトラックに轢かれると、異世界に行けるって噂だぜ。」



「またごっつい噂だな。てか、……轢かれなきゃいけないのか!!??」



「まあ異世界転生っていったら、トラック事故は定番だしなあ。俺も轢かれるなんて条件なきゃ試したのによ!!異世界でハーレム、作りたかったぜ!!!!!!!」



「そうか………。」




 無茶苦茶にも程がある条件だ。異世界に行こうと思ったら、一度死ななきゃいけないらしい。そりゃ、野人のようにハーレムを作りたいだけで試すわけにはいかない。そんな眉唾話、信じてトラックに突っ込むアホなんぞ、地球一周探し回っても見つからないだろう。



「そっか。野人、ありがとう。参考になったぜ。」



「?………………なんか参考になる事いったか?俺?」




 流石に、ホラじいを探しに行くなんてこと、無茶なようだ。やっぱり、ホラじいが帰ってくるのを待つしかないだろうな…。





§








 部活終わりの帰り道。10月も半ばになり急に肌寒くなった。人気のない住宅街には、カラスだけが鳴いている。



 まだ18時過ぎだというのに、もう日が暮れそうだ。この時間の妙な薄暗さと静けさは、冷たいような生ぬるいような感じで余り好みではない。



 俺の家に着く。今日も家の明かりはついていない。



「ただいま。」



 鍵を回し、ドアを開ける。









 やっぱり誰もやってこない。ここ三週間、ずっとそうだ。




 家に入ると、玄関の明かりをつけ、靴を脱ぐ。




「ただいま…。」




 そういいながらリビングに入る。電気をつける。



 やはり誰も居ない。



 ソファーに荷物を放り投げるとキッチンに向かう。



 昨日作ったカレーに火をかける。冷凍庫からご飯を取り出し、レンジに放り込む。



 手洗いなどを済ませながら待つこと、数分。



 カレーをお皿に盛りつけ、リビングに行く。




 カレーを食べる。




…うん。普通だな。




 いつも食ってたやつとは何かが違う。米が炊き立てじゃないのもあるだろうが、それだけじゃない気がする。ホラじいのやつ、何か隠し味でも入れてたのだろうか。



 そんなことを考えながら、カレーを頬張る。



これ食い終わったら、洗濯物取り込まないとな…。そんでそのあとは洗い物、あ、掃除機をかけとかねえと。




…ああ、クソめんどくせえ。



 部活終わりで疲れてるってのに、この仕打ちはあんまりだ。




「ホラじい…。ホントにどこ行っちまったんだろうな。」



…もう三週間だ。あの日、ホラじいが姿を消してから。



 ホラじいは本当に異世界に行ったのだろうか?仮に、本当に異世界に行ったとして、何のために異世界に行ったのだろうか。あの女性………ホラじいの側近が言っていた、ホラじいの「役割」って、いったい何なんだ?




…ホラじいは、無事なのだろうか?





「クソッ…俺も異世界に行ければな……。」



 昼間、野人に聞いたことを思い出す。




「ほら、この学校からちょっと駅の方に行ったところに、めっちゃトラックの多い交差点があるだろ?あの、駅近くの交差点だ。」




「そこの交差点にな、夜の22時22分22秒に一台だけ、現れるんだ。表のナンバーが220で、裏のナンバーが284、そんで青と黄色の鳥のイラストが描かれたトラックが。そんで、そのトラックに轢かれると、異世界に行けるって噂だぜ。」




思い返してみても、やっぱりイかれた噂だな。




 夜22時22分22秒、青と黄色の鳥、前と後ろでナンバーが違うトラックか。いかにも都市伝説って感じの条件だ。まあ、そこまではいいとしても、問題は最後の一つだ。……トラックに、轢かれる。




 これマジで言ってるんだろうか?気軽に試すなんてどころの騒ぎじゃない。ハリオタの8と5分の3番線を試すのとじゃ訳が違う。噂が嘘なら死だ。あそこのトラックはどれもスピードが速い。ぶつかれば100%死だ。



あ、でも、天国行くなら、それもある意味異世界かな?




……笑えねえ。



…でも、本当にそれで異世界に行けるとしたら?



いや、そんな馬鹿な話…でも、本当にトラックが通るかどうか、試してみる価値はあるかも知れない。



 確かに、馬鹿げた噂だ。でも、もし、そんなおかしなトラックが通るとしたら。そうだとすると、この馬鹿げた都市伝説も、少しだけ信ぴょう性が増すかもしれない。それに、おかしなトラックが通るか確かめるだけならノーリスクだ。それだけなら死なない。



そうだ。今晩は時間がある。家事をすまして行ってみよう。







 そうして、俺は家事をすまし、出かける支度をすました。まだ20時20分。時間に余裕がある。道場に寄って、少し練習してから行くことにした。



 俺は、練習用具一式を抱えると、家を出た。









§












 22時。俺は××交差点を訪れていた。



 ××交差点はもう22時だというのに、無数の人と車で埋め尽くされていた。信号が変わるたび、たくさんの人とトラックが猛スピードで流れていく。たった一つの交差点が、現代社会の縮図のようだ。



 まあ今はそんなことはどうでもいい。俺はここに例のトラックが現れるかどうか確かめに来たのだ。正直、この現実で塗り固められた交差点に、そんな非現実的なモノが入り込む余地など、あまりないようにも見えるが、確かめてみないことには始まらない。




 現在手元の腕時計は、22時2分43秒をさしている。残り20分。果たして本当に現れるのか。もう少しで真相が分かる。






 そして、待つ事約20分。





22時22分ちょうど。





 片方の信号が青に変わり、人と車が動きだす。大量のトラックと大量の人。確かに、これだけたくさんのトラックがあれば、一台変なのが混じっていても普通気づくまい。






あと22秒。もうすぐだ。








 そして、22時22分22秒。





 






 『ソレ』は通り過ぎた。







最初に目に入ったのは、青と黄色の鳥の絵柄!




次は前のナンバー…………220!




走りすぎる瞬間、後ろのナンバー……………284!!!




間違いない!アレだ!!ほんとに通りやがった!!!





 時計をもう一度確認する。現在22時22分29秒……間違いなく時間ちょうどに現れた。青と黄色の鳥に前後で異なるナンバーのトラック。野人が言っていた通りのトラックだ。都市伝説は嘘じゃなかった。本当にそのトラックは存在していた。





 だが、ここで、一つ問題がある。これが重大な問題だ。都市伝説を信じるなら、あのトラックに轢かれれば、異世界に行けるという。問題は、これが真実かどうかわからないということだ。



 ここまで特徴の合致するトラックがあったならば、信じてもいいのかも知れない。だが、その場合、賭けるのは命だ。余りに対価が高すぎる。特に都市伝説なんてものは人づてに伝わっていくもの、伝わる途中で一部だけ変わってしまうなんてこともままあるだろう。『轢かれる』の一要素だけ間違っていたなんて可能性も大いにある。そんな風の噂に命を預けるなんてどうかしてる。



「はあ………。」



 思わずため息が出る。正直、どうせそんなトラックなんていないだろうと思いながらやってきていた。本当にトラックが現れた場合どうするかなんて、一ミリも考えていなかった。



(どうしたものか………)




 どうすればよいか。頭を悩ませていた時、





 地面が、大きく、揺れた。







 たった一揺れ。だがとても大きな縦揺れだった。突然のことに周りの人々がバランスを崩す。尻餅をついている人もいる。




(なんだったんだ…今n―――――――――――――――――)





 その時、俺の後方から、割れんばかりの悲鳴が聞こえた。





「「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」






 その悲鳴を合図に、交差点は地獄に変わった。





「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」」」




 最初の悲鳴の直後、更に多くの人の悲鳴が響き渡る。




(なんだ?何が起こっている!!??)




 俺の後ろの人々が突然走り出し、逃げ惑うように俺を追い抜いていく。俺の後ろに何かいるのか!?




 逃げることも忘れ、思わず、振り向く。人々が逃げたことで、その正体が分かった。





 そこに居たのは、ただのカエルだった。ただのカエル。だが、大きい。尋常じゃなく大きい。恐らく、俺より、大きい。




「何だよ………あのカエル……………!?………………あっ。」




 気づいてしまった。人々が逃げた理由。悲鳴を上げて逃げた理由は、カエルの足元にあった。



 カエルの足元。人の手。人の頭。……………血……………。





(う………………………………………うそ、うそだろ…。)





 突然の光景に、血の気が引いていくのを感じる。一秒が引き延ばされていくのを感じる。思考がままならない。体が動かない。











ダメだ!!!考えろ!!!!!!





思考を止めたら終わりだ!!!考えなければ!逃げなければ!次は俺の番だ!!殺されてなるものか!!考えろ!!




 まず、事の発端は最初の大きな揺れだ。現れたのが大きなカエルということ、そしてあのカエルの足元の状態を見るに、あの揺れは、カエルがやったもの。具体的には、カエルが落ちてきたことによるものだろう。あのサイズのものが落ちてきたなら、あの大きな揺れも、あの足元の惨状も説明がつく。




 そして、現れたのは、カエル………カエルの特性と言えば、そう、跳躍力だ…。



「あ…………そう…か。」




 カエルの跳躍力は凄まじい。カエルは己の体の何倍もの高さ、距離まで飛ぶことができる。




 もし、あのカエルも、己の体何倍もの高さまで飛べるとしたら…?



「ははっ…笑えないな……」




 もし、俺の推測が正しいなら、もう、どこに逃げても無駄だ。奴の跳躍力が普通のカエルと同じだとしたら、奴は一度に数十メートル、数百メートル先まで飛ぶことができる。そして、その着地地点にいる人を問答無用で踏みつぶす。名前も知らない、あの人のように。つまり、俺たちは、逃げた先にカエルが落ちてこないのを祈る事しかできない。





 そのカエルは、ゲコゲコと低い声で鳴いている。まるでこれから殺される獲物を嘲笑っているようだ。





 そのカエルの隣に、倒れこんでいるスーツ姿の女性がいた。カエルに驚き、腰を抜かしてしまったのか。




 カエルが、その女性を見た。




 そして、カエルが舌をだし、その女性を飲み込んだ。




「え………………。」





 血の気が引いていく。冗談が過ぎる。なんだよ。これ。本当に現実なのか?笑えない。笑えない。笑えない。




 カエルはその味を味わうように口の中で女性を転がしている。女性の輪郭が外からでもうっすらと見える。





 ははは…。なにがどうなってるんだよ。最近おかしなことばっかじゃねえか。ホラじいはいなくなるし。トラックは現れるし。カエルはクソデケえし。ははは…。ははは…。




 もう目の前の現実に思考が追い付かない。左目から何かが流れている。恐怖か、怒りか、悲しみか。もう何も考えず寝てしまいたい。










 ダメだ!!!考えろ!!!殺されてなるものか!!!これ以上!!殺させて!!なるものか!!!!!!






 そうだ。冷静にならなければ。俺は死にたくない。それに、こんな光景ももう見たくない。



 そうだ。最悪の光景だが、今ので分かった。こいつはカエルじゃない。カエルは人は喰わない。こいつはカエルの形をした何かだ。人類に対する、明確な脅威だ。





 こいつは、今、ここで、殺す。あいつには意思がある。人間を殺すという意思、あるいはそれに近い意思が。逃げようにも、多分、俺もあの女性と同じように飲まれる。それに、これ以上誰かが死ぬのは見たくない。ここで、仕留めるしかない。俺が。確実に。




 練習用具から木刀だけ取り出すと、残りを投げ捨てる。





 突きを狙い、構える。チャンスは一度だけだ。一発でやらなければ、殺される。




 剣道の突きの殺傷能力など、知らない。これでカエルが殺せるかどうかなど、俺には分からない。でも、これしか選択肢はない。




 カエルに向けて走り出す。怯える心を押しつぶすように、こう叫びながら。





「全国優勝!!!!!!舐めんじゃねえよおおおおお!!!!!!!!!!!!」









§











―警視庁―




「………………………………………………………………………………であるからして、……………………………………よって、…………………………………………………………………………その勇気ある行動に最大の敬意を表し、ここに感謝状を進呈する。」




「ありがとう、ございます。」






 警視庁の一室で、警視庁の偉い人(?)から、俺は感謝状を受け取る。2週間前のあの日、「カエル」を殺したことが評価されたためだ。



 表彰式を終えて、部屋の窓から都心の景色を眺める。その光景はまるで、あの日と変わっていないように見える。



 そうしていると、さっき表彰状を俺に渡した警視庁のお偉いさんっぽい人(辻さんという方だ)が話しかけてくる。



「それにしても工藤君、君は本当に凄いよ。民間人が、それもたったひとりで、『異形』を殺すなんて。」



「ありがとうございます。ですが、正直、辻さんもこんな表彰をしている場合じゃないんじゃないんですか。今の警視庁、ものすごく忙しいですよね。」



「あはは、痛いところを突いてくるね……。もう、警視庁に来て20年以上になるけど、こんなに忙しいことは初めてだね…。」






 この警視庁から見下ろす夕暮れの都心の光景は、2週間前と何も変わっていないように見える。








 だが、あの日を境に、世界は変わってしまった。









 あの日、俺はカエルを殺した。あの時放った突きは決まったが、それでは殺しきれず、泥沼の殴り合いになった。結果、多かれ少なかれ怪我は負ったが、なんとかカエルを殺すことができた。だが、その日は始まりに過ぎなかった。



 あの巨大カエルのような、地球に居なかった生き物『異形』が、世界各地に出現するようになったのだ。




 奴らは突然現れる。そして、あのカエルのように、人を殺していく。その姿は様々だが、カエルのようなこの地球に居る生き物と近いものもいれば、ライオンと鳥が混ざったようなキメラのような生物、そして竜のような地球にはいない生き物まで様々だった。だが、どの異形も共通して、人間を狙い、殺してきた。




 異形に対して、人類は果敢に立ち向かった。そして、その大半に勝利した。強さは異形によって様々だったが、強い異形でも自衛隊や各国の軍隊が倒せる程度。人類にとって異形は勝てる相手だった。






 しかし、致命的な問題があった。奴らは突然現れる。そして、その位置が完全にランダムだったということだ。



 もし、カエルの時のように、都心の中心に異形が現れたらどうなるか。通報を受けた自衛隊はすぐさま現地へ向かう。だが当然、すぐに駆け付けられるわけがない。自衛隊が駆け付けるまでの30分、あるいは1時間以上の間、異形が野放しになる。これが何を意味するか、言うまでもないだろう。




 あの日からたった2週間。既に世界中での死者は、100万をゆうに超えている。そして、それはいつ我が身にやってくるか分からない。一秒後、ここに異形が降ってこない保証はない。



 かろうじて、社会は以前の形を保っていたが、人々の心はそうではなかった。そして、このまま異形の出現が進めば、この社会も、いずれ―――――















 表彰式が終わり、家に向かう。その前に1カ所、寄る場所があった。






 例の交差点だ。






 交差点はあの日と同じように人とトラックで溢れかえっていた。あの日と違うのは、歩道の端においてある花束だけ。




 22時22分22秒になった。





 そして『ソレ』は今日も通り過ぎて行った。





 青と黄色の鳥、220と284のナンバー。怪しいトラックが今日も通り過ぎてゆく。




 あれから毎日のようにここに通った。そして、トラックが通るのを確かめていた。




 トラックは毎日欠かさず、22時22分22秒に通り過ぎていた。正確過ぎて、気味が悪いほどに毎日、一秒も違わず通り過ぎた。



(やっぱり今日も通るのか…。)




 毎日、トラックが通るのを確認するたび、都市伝説の信ぴょう性が増していく。少なくとも、あのトラックは普通じゃない。




 どう考えてみても、この1か月、普通じゃないことが起きすぎだ。そのどれもが無関係のようで、だが、無関係と切り捨てるのは何か違う気がする。トラック、カエル、異形。そして、ホラじいの失踪。




 ホラじいはまだ帰ってきていない。もう1か月以上音信不通だ。あのホラじいが1か月も連絡を取らないなど、考えられるのだろうか。ホラじいなら、異世界に行っても、ちょくちょく帰ってきそうな気もする。それも無いということが、俺の不安を強める。





(そう。ずっと、いやな予感がする………でも…………。)





 今すぐにでも異世界に行きたい気分だ。でも、異世界に行く条件は『轢かれる』こと。つまり賭けるのは自分の命だ。それには、余りにも、証拠が足りなかった。




 ここ10日間、俺は異世界、転生に関する情報をかき集めていた。だが、まともな情報は一つも無かった。当然だ。異世界なんて本来御伽噺のようなもの。白雪姫か、泉の女神様を探すくらい無茶な話だ。



 嫌な予感と足りない情報のせめぎ合い。賭けるのは自分の命。無理だ。100%の確信が無ければ轢かれるなんてできない。




(くそ…………。何かあと一つ、手がかりがあれば………)




 その日は、新たな情報を得ることなく、家路についた。








§









―次の日 学校―






 次の日の朝、学校。いつものように始業ギリギリにクラスに入る。そこはいつもと変わらない少し窮屈な世界。でも、あの日から、窮屈がどうとか言っている場合ではなくなってしまった。1秒後には死ぬかも知れない、そんな恐怖が横たわるこの世界で、窮屈さなど考えてる者は俺を含めて誰も居ないだろう。




 窓際の自分の席に腰を下ろす。今日は珍しく隣の野人はまだ来てないようだった。




(そういえば、あのトラックの手がかり、野人から聞いたんだったよな……。)




 あの日の野人との会話を思い出す。クソしょーもない恋愛話や、異世界転生の話。あいつ、あんなにハーレム作りたかったんだな……めっちゃハーレムハーレム叫んでたもんなあ………正直引いたなあ………



 といっても、一番有力だったのは、その野人の情報だった。あの情報が無ければ、俺はあの交差点にたどり着くことさえなかっただろう。



 そうだ。今日会ったら、野人からあの話を詳しく聞いてみるのもいいかも知れない。もしかしたら、あの噂の情報源を辿れるかもしれないな。




 そう考えていると、始業の鐘が鳴る。




(野人、遅刻か?こんな日にかぎって…)




 少し遅れて、担任が入ってくる。





 俺はその担任の纏っている気配がいつもと少し違う気がした。普段なら気づかないようなわずかな違い。俺は、少し敏感になりすぎたのかも知れない。



 教壇に立った担任が話し出す。



「今日はみんなに話さなければならない、大事な話がある。」





 その言葉を聞いて、クラスの空気が張り詰める。



 そう、俺は敏感になりすぎてしまった。次に担任が話す言葉が、分かるような気がした。分かりたくなかった。でも、担任が話した内容は、俺の想像通りだった。




「今朝、警察から連絡があった。昨日、府通野人の死体が発見された。」




「あ…………………。」



そんな…………………そんな……。






………………野人が、死んだ……。




「警察によると、彼は、『異形』に殺された、そうだ。」




野人が殺された…………そんな、そんなの………………。




 それはきっと、よくあることなのだろう。もう100万人が殺されている。この目でも、2人殺されたところを見てきた。明日は我が身だと、隣のやつが死んでもおかしくないことぐらい、分かっていた。




 分かっている、つもりだった。




野人が死んだ……?じゃあ、明日からこの席は空いたままなのか?もう二度と、野人と会うことは無いのか?もう二度と、野人と話すことは出来ないのか?




そんな馬鹿な事……そんな理不尽なこと、あっていいのか?あっていいはずがない。



本当に、野人とはもう、会えないのか?この世にはいないのか?







 それが、死ぬということだ。そんなことは知っていた。知っていた、でも受け入れられない。受け入れたくない。




野人はただの友達。でも…………………………でも…………………………。





 当たり前だと思っていたものが、この手のひらから砂のように抜け落ちていく。この世にとどまり続けるものなどありやしない。誰も逆らえない、この世の摂理。




「くそ、……………………………くそ!!…………………………………。」





 俺に何かできたことはあったのだろうか?いや、きっと無かった。俺がいくら抗おうとも変わりやしないことだったのだろう。





…………………………こんなの、余りに理不尽だ。





 それなのに、何かできなかったのかと考えてしまう。いや、今からでもいい。死者を蘇えらせる方法はないのか!?何だっていい。野人が生き返るなら、悪魔に魂を売ってもいい!!!!




 分かっている。死者は生き返らない。誰一人として抗えない、自然の摂理。





「くそ!!………………………………………くそ!!!!!。」





 静かな教室に、光の叫びだけが響き渡った。










§








 また、来てしまった。



 何故、またやってきてしまったのだろう。



 夜22時の××交差点。家路を急ぐ人々。昼夜を問わず何かを運ぶトラック。地球上で100万もの命が散ったというのに、まるで何事も無かったかのように変わらぬ光景を映し出す。今日も飾られたままの花束だけが、この世界の変化を告げている。



 この世界は変わってしまったと思っていたが、案外、この花束程度の変化なのかもしれない。この交差点をこの世界を全体に例えると、変化したのは花束の部分だけ。100万の命も、世界の1%に満たない、些細な変化なのかもしれない。





 でも俺には、その1%が大きすぎた。



 ホラじいが姿を消した。そして、野人が死んだ。







 そして俺は、またこの交差点に居る。



 結局、転生できる根拠は見つからなかった。つまり、自らの命を賭けるに値する情報は得られなかった。



 轢かれることは出来ない。理由は単純だ。俺は死にたくない。まだまだ生きていたい。



 でも、野人の、ホラじいのいない世界に、生きる意味などあるのだろうか?





 ………………………………………いいや、生きる意味なんてなくたっていい。それでも生きていたい。




「死にたくねえよな。そりゃ……………………。」




 それでも、死にたくないというのにこの交差点にまた来てしまった。そして、俺はその理由に気づいていた。





「………………もう、もう、たくさんだ…。人が………………死ぬのは。…………もう、後悔したくねえ。」




 自分に言い聞かせるように、そうつぶやく。



 カエルに顔も知らぬ人が潰されていた。スーツ姿の怯える女性が飲み込まれた。そして…野人が、野人が殺された。



 死んだ人は、帰ってこない。



 二度と会えない……。二度と話せない……。そんなの………そんなの、嫌だ!!!!



 俺がここで轢かれなかったら!!!ホラじいと二度と会えないかも知れない!!!!ホラじいと二度と話せないかも知れない!!!!ホラじいが…ホラじいが死ぬかもしれない!!!!!




そんなの、嫌だ!!!!!!!嫌に決まってるだろ!!!!!!!!!






 現在22時22分ちょうど。その時は目前に迫っていた。



 交差点の前の方に立つ。信号が青に変わる。




 根拠なんて無くていい。足りない部分は、覚悟が補ってくれる。



 もうすぐだ。一歩、交差点の外に踏み出す。




 その時、声が聞こえた気がした。





「…………どうした光?なんか今日、ヘンだぞ?」




 野人の声だ。俺はその声に笑って答える。




「ははっ!いかれちまったのかもな…………!」









22時22分22秒。






 そのたった一秒の間に交差点を通り抜ける一台のトラック。そのトラックが交差点に進入しようとしているのを確認すると、俺は歩道から飛び出した。




 青と黄色の鳥、前のナンバーが220、後ろのナンバーが284。間違いない、このトラックだ。





 そして、俺はそのトラックと衝突した。




 全身に激痛が走る。声にならないほどの痛みが、体中を駆け巡る。



(くっううう…………………………!!??)



 痛い、痛い、痛い。竹刀で打たれるのとは比べ物にならない程の痛み。全身を骨が粉々に砕け散るのを感じる。痛い、痛い、痛い。全身の臓器がかき回されている。痛い、痛い、痛い。



 そして、コンクリートの上に打ち付けられる。



「がはっっっ!!!!!!」




 体が一ミリも動かない。思考がままならない。全身が悲鳴を上げている。



「あっ……………………………………………………」



 声が、でない。もう、喉すら、満足に、動かない…か。意識、が、落ち、ていく。この、まま、では…死、…でし、ま…う。死にた、く………しに……………………た………………し………………………………









§











 どれだけの時間が経ったのだろうか。



 思い出せない。俺は誰だ。頭がぐらぐらする、痛い。なんで俺は眠っているんだ。なんで俺はここにいるんだろうか。頭が痛い。




 体が溶けてしまいそうなほど熱い。いや、脳の隅まで凍りついてしまいそうなほど寒い。己の体と己の周りの世界の境目が、無くなってしまいそうな感覚。それとも世界の全てが己になってしまったのか。何が現実で、何が虚構か分からない。



 何か考えなければいけないような気がする。このまま眠ってしまいたい。もう何も考えたくない。このまま眠っていてはいけないような気がする。




 そう…一分一秒でも早く、ここから抜け出さなければいけないような気がする。俺は誰だったのか。俺は何故ここに居るのか。




 思い出せない。思い出さなければならない。思い出したくない。





…俺が、生きる、理由か?





 何か、やるべきことが、あったはずだ。











 ……………何か、声が、聞こえる。










「……て、……さい!お…て、く…さい!起きて!ください!!!」




「はっ!!!!」



 声に気づき、目を覚ます。



 俺は、眠っていたのか。



 朧気に感じた意識がはっきりしている。もう全て思い出せる。名前も、目的も。己の体と世界が交じることも、ない。




さっきのは一体、なんだったんだろうか。





というか、ここは、どこだ?




 辺りを見渡す。辺りは一面が真っ白だった。真っ白の空間。だが何もないという訳ではなく、少し遠くに真っ白の宮殿のようなものが立っている。





 そして、俺を呼び起こしたのは1人の女性。端正な顔立ちで、少し背が高く、白の法衣(?)を纏っている。そして、背中に白の翼がある。



 その女性(翼あるけど、女性であっているのだろうか?)が、俺に話しかけてくる。



「あなた…一体誰ですか?どうやってここに……?転生者を呼び寄せたわけでもないのに、どうして人間が………?」



「俺…ですか?」




 状況を掴めないが、きっと敵ではないだろう。翼のある女性に、ここに来た経緯を説明する。




「ええぇぇっっっ!!??自分からトラックに突っ込んだ!?!?!?確かに、あの交差点には転生用トラックが走っていますから、転生は可能です……。ですが、都市伝説を信じて自殺するなんて、狂酔にもほどがありますよ……………」



「じゃあ俺は、ちゃんと転生できたんですね………。」



 どうも、転生はうまくいったようだ。トラックに突っ込んだ前後のことは、うまく思い出せないが、正しく転生できていたらしい。



 それより、この女性は一体何者なのだろう。というか、なんだ?この翼??とりあえず尋ねてみようか。



「その、あなたは?」



「私、ですか?私は、『東の神』です。まあ、神、といっても多くの人間が考えるような、そんなに偉いものではありません。私はあなたの星、『二百二十の星 地球』のある宇宙を始め、25個の宇宙の管理者です。そうですね…アパートの管理人、みたいなものだと思ってもらって構いませんよ。」




 アパートの管理人……。神様、と言えばもっと尊大なイメージだったのだが、随分と気さくそうな人だ。



「それで、ここは?」



「ここは、神の宮殿です。普段は私たち神しか入れませんが、あなたのような転生者も、一度ここに訪れるのです。」




 そうなのか……。神の宮殿、か…。



 東の神様が、俺に尋ねる。



「それにしても光さん、どうして転生なんて、無茶なことをしようと思ったのですか?」




「地球に突然異形が現れる少し前、俺の育ての親、ホラじいが失踪したんです。ホラじいはいつも、自分は昔、異世界で王様をしていたと言っていました。その時は、真に受けていませんでした。」



「でも、ホラじいが姿を消した日、何故か俺達の部屋にいた女性がいました。その女性はこういったんです。『本来の役割のために、異世界に帰ってもらった』って。」



「俺は地球の異変も心配です。ですが、それ以上に、いつまでも帰ってこないホラじいが心配なんです……。何か大変なことに巻き込まれてるんじゃないか、って。神様は、ホラじいの行った世界に、心当たりはありませんか!!??」



 俺の訴えを聞いた神様は、何かを思い出そうとしているかのように唸っていた。そして、真剣な目で、一つのことを問いかけてくる。



「光さん。そのホラじいという方の本名は、分かりますか。」



「え?…………ホーランス、ですけど………?」



「…ホーランスさん!!間違いありません!!勇者、ホーランスさんじゃないですか!!」



「え…………………勇者、ホーランス??勇者、って、王様じゃなくて!?」





「はい。勇者、といっても40年以上前の話ですから…。異世界からの追手を警戒して、身分を偽っていたのでしょう。」




 ??全く意味が分からない。ホラじいが昔、異世界の勇者だったって……意味が分からない。




「神様。全然話が見えてきません。ホラじいが昔、異世界の勇者で、それに追手……?」





 そう神様に尋ねるも、神様は再び首をかしげ、何かを考えだす。そして俺に、こう尋ねる。




「………。待ってください。光さん、光さんがホーランスさんが失踪した日にあったというその女性、もしや、背が高くて、金髪で、それに紫色のドレスを纏っていませんでしたか?」




「……………え。その通り、です、が……………どうしてそれを、神様、が…………!?」




「…………………………………………光さん。……………………………それは、非常に、まずい、です。……………光さん、あなたが出会ったのは、二百八十四の星の魔王です。魔王、ラミアです。」



…………は?…………………魔王?



「え………………………………。まお、う…………??待ってください、魔王、ですか。全然、話が、見えてきません。」



 困惑する俺に、神様が答える。



「混乱するのも、無理ありません。一から説明しましょう。光さん、あなたには、全てを知る権利があります。」





「………!」








 そして、東の神様が話を始める。




「これはもう、50年以上も前の話です。平和な星、二百八十四の星に一体の魔王が出現しました。その魔王、ラミアは軍を作り、二百八十四の星を侵略し始めました。」



「その侵略は瞬く間に進み、ものの数年で、星の半分を手にしました。このような出来事に、私たち神は普通介入しません。ですが、その魔王は余りに暴力的で、抵抗するものを1人残らず嬲り殺しにしてきました。余りに非人道的で、星そのものが滅亡しかねないと判断し、私たちは一人の転生者を送ることにしました。」







「それが、ホラじいだったんですか。」




「はい。私たちは地球から、その時事故で死んだ一人の青年、ホーランスさんに再度命を与え、二百八十四の星の邪悪を抑えようとしたのです。ホーランスさんは生前、剣術の覚えがあり、それに私たちから能力をもらったことで、一時は圧倒的な快進撃を見せました。」



 なるほど、ホラじいは勇者だったのか。確かに異世界の王様から、剣術の稽古を受けるなんて、考えてみればおかしな話だ。勇者だったと言われた方が、余程自然だ。




 だが、そこから、東の神様の語調が暗いものに変わる。



「しかし、そのホーランスさんの力も、最後の敵、魔王ラミアには通用しませんでした。ラミアは圧倒的にレベルが高く、ホーランスさんの実力を持ってしても敵いませんでした。」



………そうか。ホラじいは、ラミアに勝てなかったのか。……しかし、一つ、引っかかることがある。




「でも、どうして、ホラじいは地球に?ラミアにはリベンジしなかったのですか。」




「ええ。ホーランスさんは逃げざるを得ませんでした。何故なら、ラミアはホーランスさんの力を狙っていたからです。」



………力…………?ホラじいはラミアより弱かったのに?何か特別な力でもあったのだろうか。



「ホーランスさん………それに、あなた、光さんのような転生者というのは、誰にもなれるものではないのです。」



「?…なんの話ですか?」



「光さんあなたがやったように、トラックに轢かれ、時空の乱れに身をゆだねたとしても、誰もが転生できるわけでは無いのです。稀に生まれる転生者というのは、転生するための力、転生該、言うなれば、転生エネルギーをその身に宿しているのです。」



「転生エネルギー、ですか…。それを持たない人間は転生できないのですか?」






「ええ。だから光さん、あなた、もし転生エネルギーを持っていなかったら、生き返ってませんでしたよ?」




 転生エネルギー…………。そんなものがあるのか。俺が、転生エネルギーを持っていなかったら、生き返っていなかったのか。ゾッとする話だ。




「つまり……………ラミアは、そのエネルギーを狙っているのですか。」



「ええ。星の殆どを手に入れていたラミアは、その世界に飽き足らず、他の世界を侵略することを考えていました。」



「そして、ホーランスさんの身に宿る転生エネルギーを取り出せば、異世界へと侵略できることを知り、執拗にホーランスさんを狙うようになったのです。」





「それで、止むを得ず、地球に逃げてきたのですか。」




「ええ。そして、身分を隠して、地球に住むことになったのでしょう。」






「そして、ここからの話は私の推測です。きっと地球に帰ったホーランスさんは、まだ異世界を救うことを諦めていなかったのでしょう。ですが、ホーランスさんは異世界での度重なる激戦で、体は限界でしたし、それにその時既に、かなりの年を重ねていました。だから、その希望を次代に託すことにした。」



「それが光さん、あなたです。」




「………………………俺?」




「ええ、異世界を救うためには、転生エネルギーを持つものが必要です。だから、転生エネルギーを持つ光さん、あなたを見つけて、引き取り、育てたのでしょう。」



「つまり、孤児の中からホラじいが俺を引き取ったのは、俺がたまたま転生エネルギーを持っていたから、ということですか。」



「そのはずです。そして光さんを引き取ったホーランスさんはあなたに、厳しい稽古をつけたのでしょう。私にもわかりますよ。あなたから、凄まじい力がほとばしるのを。」



「……………。」



「そして、つい先日、あなたの育ての親ホーランスさんはラミアにさらわれた。ラミアは限定的に異世界にワープする技術を手に入れたのでしょう。そして、その技術を完成させるために、ホーランスさんをさらったのです。」



 つまりあの日、ラミアが、ホラじいの転生エネルギーを利用するために、ホラじいをさらったということか…?つまり、今、ホラじいは転生エネルギーを吸われている……のか?



 まてよ、もし、ホラじいが転生エネルギーを吸われているとすると、そのエネルギーの使い道って…………………!



「………………………。待ってください。じゃあ、突然、地球に魔物が現れたのって、もしかして……………!!」





「……………はい。ラミアはホーランスさんをさらい、転生エネルギーを取り出すことに成功した。そして、その転生エネルギーを使って、地球への侵略を、開始したのです。」




「……………………………ホラじいは、無事なんですか。」



「まだ無事だと思います。転生エネルギーを取り出すにしても、ホーランスさんが生きている方が効率がいいはずですから。ですが、転生エネルギーを吸い出す事は同時に寿命を削っていきます。ですから、時間の問題かと…………。」



 じゃあつまり、今、地球への攻撃は、ホラじいの命を削って行われているのか…………!?



「そんな……………。じゃあ……早く行かないと!俺を早く!その世界に連れて行ってください!!!」



 それを聞いた神様は、俺を諭すようにこう言う。



「あなたをその世界に連れていくことは構いません。ですが、今からあちらの世界に行ってレベルを上げても、恐らく、間に合わないでしょう。」



 間に合わない………………。



 いや、当然か。俺の想像するような異世界の通りなら、レベルが低いものは高いものに勝てないのだろう。そして、魔王は、ホラじいですら、全盛期のホラじいですら勝てなかったのだ。魔王のレベルは非常に高かったのだろう。俺が今更行ったところで、どうしようもないのかも知れない。




「でも………………………それでも!!!!俺は行かなきゃならないんです!!!!例えそれが、僅かな可能性だとしてもっ!!!!!」



「……………………………………そうですか…………分かりました。自らの命を投げうってまで、この世界に来た覚悟、止めても無駄ですよね。」



 そういうと東の神様が、両手を空に掲げる。そして、こういう。



「これは、私からの餞別です。もしかしたら、あなたのその覚悟。それがあれば、この2つの星の、滅びゆくだけの運命を、何か変えられるかも知れませんから…………………」




 神様の両手が光りだす。柔く暖かい光だ。そして、同じ色の輝きが、俺の全身を包んでいく。



「これは…?」



「これが、私が光さんにあげられる全てです。転生者にあげられる転生ボーナス、超成長です。他にもいろいろな能力の候補がありますが、今の光さんにはこれが最適かと思います。」




「……超成長?」



「簡単に言えば、あなたの得られる経験値が3倍に上昇する能力です。少しでも、魔王にたどり着く時間を短縮するのに、役立つでしょう。」



 経験値が3倍、か……。確かに、俺に今一番足りないのは時間だ。こうしている今も、ホラじいの寿命は削られているのだ。間に合う可能性が少しでも上がるなら、ありがたいことこの上ない。



「ありがとう、ございます………!」






「そして、あちらに、二百八十四の星の門を開けておきます。しかし、魔王ラミアは、魔王城を転生門に非常に近い位置に建てています。転生した直後、光さんは、魔王城の目の前に出ることになるでしょう。」




「ですから、上手く近くの村に逃げて、レベルを上げてから挑んでください。……………近くの村と言っても、魔王城から一番近い村は、だいぶ遠い場所にありますが…………………あ、後、武器も必要ですね。」



 そう言うと神様は、どこから取り出したか、刀を一本俺にくれる。



 そして、真っ白な世界に一つの門が現れる。あそこから、ホラじいのいる世界に行けるのか。そして、魔王城の目の前に行けるのか。




 神様には悪いが、この状況、利用させてもらおう。




「私ができるのはここまでです。………………………光さん、ご武運を。」



「ありがとうございます。」



 門の目の前に立つ。門の扉は開いており、中は宇宙のような色の世界が広がっている。この先が、異世界か。







「待ってろよ。ホラじい……。」









 門の中へ飛び込む。残された僅かな可能性に賭けて……………







§








 腐食された大地。




 空は昏く、地は草木の一本さえ生えていない腐った大地。昏い空には蝙蝠が、飛び交い、遠くから得体の知れない不気味な唸り声が聞こえる。遠くに見える沼は、毒沼なのだろうか。腐ったとしか表現しようのない、おどろおどろしい色をしていた。




 そして、俺の目の前、少し離れた位置にそびえたつのは、一つの不気味な古城。間違いないだろう。あれが魔王城だ。




 俺は神様の世界のあの門に飛び込んですぐ、この世界に到達した。降り立った世界は完全に腐りきっていて、まさに魔王が支配しているというべき世界の姿だった。




 そして目の前に立ちはだかる魔王城。不気味な雰囲気と嫌な緊張感がここまでほとばしってくる。




 東の神様は、俺がこの世界に降り立つ前、近くの村に逃げてレベルを上げるように言っていた。でも、それには従えない。



 このまま、魔王城に乗り込む。





 俺には、時間が無いのだ。既にホラじいが攫われてから、かなりの日数が経過している。東の神様はまだ生きているだろうといっていたが、それも定かじゃない。多分あの神様はかなりのお人好しだ。俺の心境をおもんばかって、生きていると言った可能性も無くはない。



 少なくとも、がっつりレベルを上げていたら間に合わないのは間違いないだろうし、それに、多少レベルを上げたところで、焼け石に水だろう。それなら、ホラじいが生きていることに賭けて、最短距離で突っ込むのが最善だ。




 俺………………死ぬかもな。いや、死ぬ可能性の方がずっと高いよな。ここは魔王の城。魔王は若き日のホラじいでも逃げるので精いっぱいだった敵。だいいち、低レベルでは魔王に辿り着くのさえ無理かもしれない。




 でも、俺は、あの交差点で一度命を捨てている。そして、命を投げうってでも、ホラじいを救うと決めた。ホラじいを救えるなら、命だって惜しくはない。





 待ってろよ。ホラじい。





 そして、魔王城に向けて、駆け出す。








 決戦が、始まる。







 駆け出してすぐ、城の目前まで迫る。城の前方をたくさんの兵が守っている。推定70体といったところか。中にはもっとたくさんの敵がいるのだろう。簡単に通してくれるはずはない。だが、俺には時間が無い。正面突破だ。他に選択肢があるものか。




 転生者は眼前の敵のレベルが見れるらしい。右目に力をこめる。すると敵のレベルが表示された。右端から22、24、20、18、26………平均20以上といったところか。俺のレベルは1。普通のRPGなら百に一つも勝ち目はない。




 だが、奴らは間違いなく雑兵だ。そして俺には奴らにない物がある。





 現在敵陣の推定100メートル前方。どうやら、敵もこちらに気づいたようだ。だが、まだ魔物たちは俺が敵かどうかの判断がついていないようだ。判断させる時間など、与えない!!!





 現在敵陣の推定30メートル前方。ここまで近づいて、ついに奴らのうちの一匹、二足歩行のトカゲみたいなやつ(リザートマンってやつか?)が俺に声を掛けてくる。





「おい!!!貴様!!!止まれぇ!!!何者お――――――――――――!!??」




 そう俺に言う雑兵。だが、その雑兵の首は、言い終わらないうちにあっけなく飛んだ。





 やはり、レベルがいくつであろうと急所は急所らしい。レベル21の雑兵の首は驚くほどあっさりと飛んだ。レベルが上がれば、首も硬くなるのかも知れないが、レベル1で切れる程度の強度。やはり急所は急所なのだ。





 その光景をみた周囲の雑兵たちはあまりに突然のことに、驚き、怯んでいる。だが、それは悪手だ。一秒でも早く、逃げるか、俺を殺しに来るべきだった。




 やはり、雑兵だ。





 さっきの攻撃から、切れ目なく剣を構え、次の敵めがけて振るう。驚き怯んでいたリザートマンの首が飛ぶ。そして、間髪入れず、次の敵、また次の敵。




 そうして瞬く間に6体を仕留めた。



 その時、敵のうちの1体が、ようやく声を上げる。



「敵襲っ!!!敵襲だ!!!!!」




 その声を聞いたリザートマンたちが我に返る。



 そしてリザートマンたちが、さっきまでの怯みが噓のように攻めてくる。




「殺せ!!!殺せええええええ!!!!」







 問題は、ここからだ。奇襲は上手くいっても、今後は容易に急所を狙わせてはくれないだろう。数の差、レベルの差。覆すのは至難の業だ。






 そう思った直後、突然、脳内に声が響く。





「レベルアップ!!6体のリザートマンを倒し、レベルが14、上がりました!!!これにより、魔法・はじまりの炎舞を習得しました!!魔法・氷結を習得しました!!!さらに!……………」



 ……………レベルアップだ!!今、リザードマンを倒したことで、俺のレベルがあがったらしい。これなら、いける!!!!





 眼前に7匹のリザートマン。槍を持って突進してきている。その動きは素早く、スピードだけなら俺より上だろう。恐らくレベルの影響だ。俺のレベルが14上がったと言えど、まだ相手のレベルの方が上。普通に考えたら、1対1でも勝てるかどうか、怪しいだろう。




 だが、問題ない。



 迫りくる敵の槍を、次々にいなしていく。最初の槍が狙っているのは俺の腹、次の槍は右手の辺り、その次の槍に至っては躱さなくても当たらない。敵の攻撃の軌道が手に取るように読める。いくら速かろうと、軌道が読めるものは俺には当たらない。




 全ての槍を避けると、即座に反撃に移る。一匹、二匹、三匹………と、次々と刀で切り、倒していく。首を狙う必要はない。多少弱い部分を狙えば十分だ。レベルの差が小さくなったお陰で、無理に致命的な急所を狙わなくても一撃だ。





 あっさりと七匹倒すと次の敵が襲い掛かっている。敵数11。四匹増えたところで誤差だ。





 この敵たちはやはり雑兵だ。レベルが高くスピードやパワーに優れていようとも、優れた戦士が持つべきもの、技が、技術が、致命的に不足している。いくら力があろうとも、それを使いこなす技術が無ければ、俺の敵ではない。これなら、地球で戦った幾多の剣士たちの方が、万倍強かった。




 次の敵も問題なく倒していく。敵を倒す度、頭の中で声が鳴り響く。



「レベルアップ!!………レベルアップ!!…レベルアップ!!レベルアップ!!…レベルアップ!!………レベルアップ!!…レベルアップ!!……レベルアップ!!…レベルアップ!!…………………」




 その声が脳内で響くたび、自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。手元の僅かなズレが、全国優勝しても尚、残っていた手元の僅かなズレが修正されていくのを感じる。自分の体格、筋量からは想像できないような力が溢れてくる。



 練習を通じて高めてきた己の限界が、こうも簡単に引きあがるのは、少し気持ち悪いようにも感じるが、今はこの上なくありがたい。俺には時間が無いのだ。(簡単に、といっても、普通はレベル上げも大変なはずだ。本来こんなレベル差で敵を倒すのは無理なはずだし、超成長の影響も大きい。レベル上げだって、こつこつやる物だろう。)





 そうして、あっさりと城前の敵をせん滅する。そして城へと全力で駆け出す。





 やって来た敵の増援をせん滅しながら、城の扉の前にたどり着く。



 5メートルはあるであろう巨大な石の扉。その扉は閉じられている。当然開けてくれるはずはないだろう。扉の鍵を探す時間も無い。






 確か、今の俺のレベルは26だったか…………。レベルの恩恵がどれほどかは分からないが、このレベルなら扉くらい蹴とばせるか………?試してみるか。






 扉に向かって走り出す。そして自身の力の全てを込めて、そして、






蹴とばす!!!!







 巨大な扉が、粉々になって砕け散る。そしてその勢いで魔王城の内部に飛び込む。





「マジで行けた……」




 思わず声が出る。つい1分前なら、一生かかっても壊せなかったであろう扉が、あっさりと崩れ落ちていく。レベルってスゲエな。




 その時、部屋の奥の方から大きな声が聞こえた。




「貴様ぁ!!この神聖な魔王城の扉を破壊するなど!!!何者だとしても!許さんぞ!!!!」





 そう叫びながら現れたのは、巨大な二足歩行の牛の魔物。めちゃくちゃでかい歩く牛だ。




「我は四天王が一角!!!鎌世の牛魔王だ!!!!魔王城に踏み入る不届き者を!!!灰も残さず消し去ってくれるわ!!!!」





 四天王……………………。四天王!?





 そう名乗った牛の魔物のレベルを咄嗟に確認する。すると、そのレベルは何と53。今までの敵とは文字通り次元が違う。今の俺のレベルでは確実に歯が立たない。…………………つーか!なんで四天王が魔王城の玄関に居るんだよ!!!!!




 これは非常にまずい。大物と戦う可能性は想定していたが、こんなに早くに戦うことになるなど、想定外だ。レベル差が大きい。その上奇襲にもならない。一旦引いて態勢を立て直すべきかもしれない。だが、こうして困惑している間にも、ホラじいは生命エネルギーを吸われているだろう。





 ………………くそっっ!!!!やるしかねえ!!!!






 策はない。だが、それ以上に時間が無い。全速力で牛魔王に突っ込む。



 最もまずいのが、相手が巨体であることだ。身長5メートルはあるだろうか。相手のサイズが大きすぎて、急所である首が狙えない。これではさっきのリザートマンのように、強引にレベル差を覆すことができない。今のレベルなら、ジャンプして首を狙うこともできるかもしれないが、それでは奇襲にならない。そんな手で急所を切らしてくれるほど、甘い敵ではないだろう。




 ……………うん………?急所?……きゅうしょ??………急所??…………………急所????






 牛の魔物って、キ○タマって、急所なのだろうか?






 他に策はない。試してみる価値はある。ダメだったら土下座して逃げよう。そうしよう。





 牛の魔物めがけて急速にスピードアップする。すると牛の魔物が巨大な斧を振り上げる。反動が大きそうな技だ。これなら懐に入り込める。




 牛が斧を振り下ろすのに合わせて急速に加速する。そして振り下ろされた巨大な斧と巨体の間に入り込み、そして、股間に狙いを定める。







そして、蹴り上げる!!!!!!!!!!!!!






 蹴りが牛の股間にめり込む。完璧な一撃だ。



 そして牛が声を上げる。





「……………………………?きゃっっっっ!?ぎゃあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!いや~~~ん!!!!!そこはあああああ!!!!!!!そこはあぁ!ダメえええええええぇえええええぇぇぇえええぇええぇ/////////////」








………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うっわ、気持ちわる。





 牛が奇声を上げ、股間を抑えながら倒れこむ。気持ち悪すぎるが、動けなくなったのは間違いない。俺の勝ちだ。








 早く次行こ。










§




 それから、魔王城の攻略は瞬く間に進んだ。



 最初に、牛の四天王を倒せたのが大きかった。奴を倒したことにより、レベルが43まで一気にあがったのだ。お陰で、その辺の雑魚は全て一撃、中には、徒党を組んで襲い掛かってきたり、魔法を使ってくるものもいたが、レベルの差、技術の差で一方的にねじ伏せた。もう1体の四天王と戦うときも、レベル差がないお陰で、技術の差で、強引に倒すことができた。(残りの2体とは遭遇しなかった。)





 そして、魔王城の最奥、魔王の部屋へと、辿り着いた。





 その部屋にたどり着くと、その奥には、一人の女性が立っていた。あの日、ホラじいがいなくなったあの日、俺たちの家にいた女性だ。



 長い金色の髪、水色の澄んだ瞳。すらりとした体でありながら、つくべきところにつくべきものがついている。もし地球に居れば、絶世の美女と持て囃されただろう。



 だが、今はその全てが、不気味に映る。




「やっぱり、お前だったのか。魔王、ラミア。」




「人の城に侵入して、人の部下を散々殺してくれて、挙句の果てにお前、とは失礼極まりないニンゲンですね。私が部下の死にどれほど心を痛めたのか、分かりますか。」




 間違いない、こいつが魔王ラミア。全ての元凶。




「……………地球を攻めてきて、散々荒らして、人を殺して………!!!!………そして!………そして!野人を!!野人を殺したのは!!テメエらだろ!!!!」



 ラミアは一瞬考えると、笑みを浮かべながら答える。



「……………………復讐、ですか。復讐すればまた、新たな憎しみが生まれます。それでも復讐に走るとは、ニンゲンは、愚かですね。」




「奇麗事を並べる資格はテメエらにはねえだろ。それに、そんな事ほんとは思ってねえんだろ??俺を煽りたいだけなんだろ?」





「聡明ですねえ………。ご想像の通り、私はあなたのようなニンゲンの、歪んだ顔が見たいだけですから。」





「そもそも、復讐はここに来た目的じゃねえ。俺は、ホラじいを返しにもらいに来ただけだ。」




 その言葉を聞いたラミアの顔が豹変する。舌を出し、妖艶に嗤う。




「ホラじい………?ああぁ。あの、勇者、ホーランスのことですか。そうですねえ。そういえば、あなた、ホーランスの家に居ましたねえぇ。いいですよ。会わせてあげましょう。」




「何っ!?」




 ラミアがそう言うと、魔王城の奥の扉が開く。




 開いた扉の奥を見る。その扉の奥から無数の触手がうねうねと出てくる。部屋の中は触手に埋め尽くされているようだ。



 その無数の触手の中に、ホラじいが縛られていた。





「ホラじいッッッ!!!!」




 縛られているホラじいは息をかなり上げている。意識はあるようだが、触手からエネルギーを吸われているのかかなり苦しそうだ。生きていてよかった、と言うべきだろうが、本当に生死の境目、といったところであるだろう。



 縛られているホラじいが、こちらを見た。そして、小さな声でいう。




「……………、ひ、か…る……………なの、か。」




「ホラじいっ!!待ってろ!!今助けてやるからな!!」




「ひか…………る、来ては、ダメじゃ………………逃げるん、じゃ、ラミ…………ア…には、勝てん。お主…………だけ、でも、逃げるん………………じゃ。」




「何言ってんだよ!!ホラじいは!ラミアを倒すために!この世界を救わせるために!!俺に剣道を教えたんだろっ!!!!」




「あ……あ。その………通り、じゃ。ワシは、光を………この世界の救世主に………ひかるの人生を、自由を………犠牲にして、この世界を救おうとしたんじゃ。」




「…………じゃが……わかったんじゃ…………わしが、間違っていた。光の人生は………光の物じゃ。……………わしが勝手に、光の人生を決めるなど、勝手に世界の重荷を背負わせようとするなど、あってならんかったのじゃ。」




「それに、……わしは………………光が……………元気なら………………それで、いいんじゃ。それ……だけで、わしは………幸せ……じゃ。…………じゃから……逃げるんじゃ。……………光、だけ、でも、ぶ、じ……で…………………………………………………………………………………………」




 そういいながらホラじいが小さく笑う。全てを言い終えたホラじいが、気を失う。もう喋る元気も、残っていないのか。




「ホラじい………………!!!!!!」




 ごめんな。ホラじい。ホラじいの言うことには従えない……。待ってろよ。今、助けてやる。




 一通り、俺とホラじいの会話を聞いた魔王ラミアが、嗤いながら言う。




「ふふふ。お別れの挨拶ご苦労様あぁ。あとは、あなたの死体を、ホーランス……………………………いや、ホラじいに、見せてあげるだけね。」




 このラミア、清清しいまでに性格の悪い奴……まさに魔王、という訳か。この上なく、イライラするが……落ち着け。今は落ち着くんだ。



 そうだ、こいつさえ、こいつさえ倒せば、ホラじいを助けられるんだ。




「うふふ。ホラじいが言う通りに、逃げないのかしらあぁ?もしかしてえぇ、私を倒せるとでも思ってるのかしらあぁ。馬鹿ねええぇ。無理よ。絶対、無理♡」



「そんなの、やってみないと分からないだろ。」



「無理よ。だって、私は、魔王なのよ。」




 そういうと、ラミアの下半身が光りだす。そして下半身が巨大化していく。






 あれが、ラミアの正体か。





 巨大化した下半身が、巨大な蛇に変わっていく。巨大な8本の蛇。その8本から蛇の顔が現れる。その上に小さな上半身。これが蛇の魔王なのか。



 ここまでの戦いで、俺のレベルは58まで上がっている。奴のレベルは……91。






 91か。





 今までの敵と比べても、比べ物にならないくらいレベルが高い。四天王の比ではない。俺とのレベル差で見ても、今までで一番差が大きい。流石魔王、これがこの世界の頂点か。ホラじいが逃げろと言っていた理由がよくわかる。




 ラミアの8本の蛇の頭がうねうねと蠢いている。その一本一本が容易く人一人を押しつぶせる大きさだ。あの蛇に潰されれば、一撃で死んでしまうだろう。レベル差を考えると、薙ぎ払われただけで、全身の骨が割れてしまうかも知れない。




 俺の全身から冷や汗が沸き上がってきている。死と隣り合わせ。この魔王城に入ってからずっと死と隣り合わせなのだろうが、ここまで明確な脅威を覚えたのは初めてだ。こいつを倒す以外に、生きて帰る道はないだろう。



 ラミアを警戒し、様子を伺う俺に、ラミアがいう。



「あらぁ~。攻めてこないのかしらああぁ~??もしかして、怖気づいちゃったのかなあああああぁ??いいわよおぉ。なら!!私から行ってあげるぅ!!!!!!!」



 ラミアの8本の足が、超速で迫ってくる。



 ラミアのいう通り、少しビビっていたな。だが、怯んでいる場合じゃない。俺はホラじいを助けだすために来たんだ!負けるわけには!!いかない!!!




 8本の蛇が迫ってくる。凄まじいスピードだ。




 まず、この蛇の足にあたる訳にはいかない。受け流すのも可能な限り避けたい。もし、受け流すことができなければ、一撃で戦闘不能になるだろう。下手すりゃ死ぬ。技で流すのは最後の手段だ。



 とりあえずこの攻撃は直線的な一撃だ。これならこのスピードでも容易く躱せる。



 迫りくる8本の蛇を大きく跳ねて、回避する。




 回避した後、床とラミアの蛇の足が衝突する。その時、強烈な音が響き、床がえぐれていく。アレに当たったら100%死ぬな。






 地面に降り立ち蛇の足とラミアの様子を伺う。足は地面をえぐった後、壁の端まで届いて停止している。ラミアは巨大な足の上、上空約8メートルに位置している。恐らく弱点が本体だと予想されるが、狙うのは簡単じゃないな。



 8本の蛇を躱されたラミアが、俺に向かって言う。



「ふ~ん。思ったよりいい動きするじゃないぃ。なら、これはどうかしら!!??」



 ラミアの8本の蛇が俺に迫る。そのうち2本の蛇が動き出し、こちらに向けられる。



 そしてその2本の蛇が迫ってくる。スピードは先ほどの8本と同様か。



 問題ない。躱せる。2本の蛇の攻撃を避ける。




すると別の2本の蛇が再び俺を狙って迫ってくる。これも躱す。




 さらに、間髪入れず、2本の蛇が追撃。今度の攻撃はうねるように迫ってくる。




 今までの攻撃と違って直線的でない、横幅の広い攻撃に意表を突かれる。




「…………!!」





 だが、なんとかすんでのところで躱す。






 危なかった。





 何とか回避はしたが、その差、僅か、数ミリ。もし躱し損ねていたら、相当のダメージを負っていたのは間違いない。




 再び、別の2本の蛇が攻めてくる。




 次は、その2本が俺を狙って何度も突いてくる。





 これは、厄介だ。先ほどの8本同時攻撃と違って、繊細な攻撃だ。2本の蛇が正確に、俺を狙ってきている。





 なんとか躱しきる。



 ぎりぎりとはいえ、攻撃を躱し続ける俺に、ラミアは苛立ちを覚え始めていた。





「おのっれ………!!生意気な餓鬼だっ!!!いつまでも、逃げ回りやがって!!」



 苛立つラミアの8本の足が動き出す。




 次は8本の足が攻めてきた。



 8本の足が代わる代わる、時に2本、その次は3本と、俺を狙って絶え間なく攻めてくる。



 なんとか躱し続けるが、これはまずい。一度でも当たったらゲームオーバーだというのに、絶え間ない攻撃を続ける大量の蛇型の足。本数が増えて躱すのもギリギリだというのに、攻撃の切れ目がないせいで、じりじりと体力が奪われていく。




 くそっ!!なにか打開策は無いのか!!!





 明確なアイデアが浮かばないまま躱し続ける。早く何か考えなければ……………。時間はもう多くない。このレベル差で躱しきれているだけでも奇跡的なのだ。次の攻撃を躱せる保証はない。限界が訪れる前に何か策を………………………………






 ………………………………………………あれ、思ったより躱せるな?





 そう、思ったよりも躱せるのだ。8本の蛇型の足による攻撃は変則的な上に高速。レベル差も考えると彼我の実力差は歴然。普通に考えると躱しつづけるのは不可能なはず。いくら技術があるといっても、これだけスピードの差があると、最初の数撃で当たってはずだ。だが、何故か躱せている。





 そう……………この攻撃、どこかで見たことがある気がする。




 いや、そんなはずがない。地球にはこんな蛇の魔物なんて当然いなかったし、戦うのは初めてのはずだ。見たことあるなんてあり得ないはずだ。




 強いて言うならば、似たような状況になり得ることと言えば、8人の剣士と同時に戦うとか、そういう状況かも知れない。だが、そんな馬鹿げた稽古、やったことない。やる意味も無いし、やるはずがない。






 その時、不意に、ホラじいの声が、散々聞いた、あの声が、俺の脳裏で響き渡る。




「ふーーーーーーはっ!はっ!はっ!!!!どうじゃ!!これが若き日のワシが編み出した奥義!!!真剣・八刀流じゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!」





 あ…………………………。あったわ。あのクソ馬鹿稽古じゃん。










 そうだ。あのクソ馬鹿稽古とこのラミアの攻撃、一見全く違うように見えるが、共通してる点がある。




 あの時のホラじいと同じでこいつ、何本で攻撃していようとも、繊細なコントロールができるのは2本のようだ。残りの6本は、攻撃しているように見えても俺を狙えていなかったり、力が籠っていなかったりしている。



 あの稽古の時の感覚が、俺の無意識に残っていたから、躱しきれたのか。







 そうか。ホラじいのあの意味の分からん稽古は、ラミアと戦うための物だったのか。…………ちっ、ホラじい、俺に逃げろとか言っといて、やる事やってたんじゃねえかよ………!





 ホラじい。ホラじいのやって来た事が間違ってなかったって事、俺が証明してやる。




 ラミアの4本の蛇が迫る。




種が割れた今なら理解できる。本命は前方2本の蛇、後方2本はブラフだ。躱すべき蛇は2本だけ。



 前方2本はこれまで通り躱し、残りの2本は剣身で受け流す。




 本命でない2本にはてんで力が籠っていない。レベルの低い俺が受け流せる程度だ。これなら体力の消耗も少なくて済むし、次の攻撃に備えやすい。






 そして………。だとしたら、弱点も、同じはずだ。




 迫りくる足を躱し、受け流しながら考える。ホラじいのアホみたいな八刀流の致命的な弱点。





 少し……試してみるか。




 暫く躱し続けると、魔王の攻撃が途切れた。なかなか攻めきれないのに苛立ちを覚えているようだ。今が良いタイミングだ。全力で煽ってやろう。



 ラミアに聞こえるように声を上げる。





「あ~~~~~~あぁ。魔王っていうから、どんなに強い奴が来るかと思ったが、こ~~~んな、クソ雑魚のろま野郎だったとはあぁ。ほんと、残念だなあああああぁぁぁぁぁ。ちょっとぐらい、ダイエットした方があぁ、いいんじゃないかあああああぁぁぁぁ??????」



 俺の煽りを聞いたラミアの反応は劇的だった。



 ラミアが顔を真っ赤にし、苛立ちの全てをぶつけんばかりの声で、怒りを叫ぶ。




「き、さ、まあああああ!!!!ちょっと攻撃を躱したくらいで、いい気になりやがってえええええぇぇ!!生意気なあああああ!!!!もういい!!!ぶち殺してやる!!!!!!!」




 8本の足が同時に襲い掛かってくる。ラミアは、完全に頭に血が上っている。







 直線的な攻撃。やはり、繊細な扱いができるのは2本まで、それに怒りで攻撃が単調になっている。これなら、数が多くても、余裕だ。下手をすれば、さっきの方が手ごわかったかも知れない。




 迫りくる八本の足を次々に躱す。全て躱すと、攻撃の反動で、大きな隙ができている。




 絶好のチャンスだ。狙うのはたった一つ。ラミアの本体だ。




 ラミアめがけて大きく飛び上がる。







 ラミアの胸元に飛び込む。突然のことに、ラミアは完全に無防備だ。魔王ともあろう者が、随分と情けない姿だ。きっと、その力に溺れて、基礎的な鍛錬をしていなかったのだろう。



 だが、そんな事はどうでもいい。





「俺はホラじいの息子だああああぁぁぁ!!!!舐めんじゃ!!ねえよ!!!!!!!!」






 剣を構え、ラミアを切り裂く。






 ラミアの本体が、真っ二つに割れた。







「がほっ、おあ、おああああぁあああああぁぁぁあああ!!!!!おの!!おのれえええええぇぇええええ!!!!!こんな!こんな!!!!雑魚にぃ!!!このわたしがあああああああぁぁぁあぁぁああああ!!!!」




 巨大なラミアの全身が、のた打ち回り、痙攣している。恨み節や怒りの声を上げ続けているが、あとは倒れるだけだろう。




 その時、脳内で声が響く。




「レベルアップ!!ラミアを倒し、レベルが8、上がりました!!!これにより、魔法・真紅の炎が光輝の炎に変化しました!!魔法・超氷結が極氷結に変化しました!!さらに!……………」




 レベルアップの合図だ。ラミア倒したことでレベルが上がったのだろう。魔王を倒した以上、レベルなどどうでもいいが、この合図が来たということは、ラミアが戦闘不能だということだ。つまり、ラミアに奥の手などが残っていないということの証明だ。警戒を怠る訳にはいかないが、勝負はついた。




 そんなことより、ホラじいだ。





 「ホラじい!!!」





 魔王の部屋の奥に駆け込み、ホラじいを縛っていた触手から救出する。




 ホラじいの息を確かめる。良かった。まだ生きてるみたいだ。



「ひ……かる、なの…………か。」



 意識もおぼろげなホラじいが俺に向かってそう言う。



「ああ。ラミアは倒したぞ。ホラじい。」



「………………まさ、か、あの、ラミアを。………………ありがとう。光。」



 そういうとホラじいが目を閉じる。安心したのか、眠ってしまったようだ。







 後方のラミアの姿は、消滅した。全てが終わった。もう、戻ってこないモノもある。でも、一つだけは、守りきれた。





 ホラじい、帰ろう。地球へ。










§









「へ?????光さん??どうしてもう帰ってきたのですか?………………………って、ホーランスさんじゃないですか!!!???なんで、ホーランスさんと光さんが!?!?!?一体、何がどうなっているのですかあぁ!!!???」




 魔王との戦いが終わり、元の世界に帰るため、俺とホラじいは再び、神様の世界を訪れていた。魔王城にあった食料を頂戴し、多少の休憩をとったホラじいは、俺の肩を借りれば歩けるまで回復していた。




 それにしても神様、なんかめっちゃ困惑してるなあ…。とりあえずあっちの世界であったことを説明するか。




 魔王を倒した経緯を説明する。






「へ………………???いや、だって、まだ光さんがあっちの世界に行って2時間くらいじゃないですか……………………いえ、ちょっと待ってください。世界水晶で確認しますね。あっちの世界と時間差はありますが、そろそろ見れるはずです……………」




 東の神様はそう言うと、懐から水晶を取り出すと、水晶に両手をかざして力を込める。そして水晶をのぞき込む。





「間違いありません……………。二百八十四の星の魔王、ラミア・スケイルが倒されています…。それも、一時間以上前に……………!?!?」



 そこまで言った、東の神様が、頭を抱え、尋ねてくる。



「光さん?もしこの水晶の通りだとしたら、あなたは、たったの29分と32秒で、魔王を倒したことになりますよ!?一つの星を100年近く苦しめたラミアを!!たったの!!!29分で!!!!!!!」





「まあ……そういうことになりますね。」




「光さん!?あなた凄いですよ!?たった30分で!!世界を救ったんですよ!!??」



「まあ、ホラじいのお陰ですよ。」




 そういうと、ホラじいが喜んでいう。




「光にそう言ってもらえて、おじいちゃん嬉しいんじゃあああああああああああああああ~~~光、好きじゃあああああああああ~~~~~」



「……………気持ちわりい。」



 ホラじいが抱き着いてくる。クソほど気持ち悪い。



 抱き着くホラじいを見た東の神様が凍り付いている。神様はホラじいのこんな姿を見たのは初めてなのだろう。完全に引いている。そうだよな。やっぱりホラじいはイかれてるよな。



 東の神様がイかれホラじいを見なかったことにして、話始める。



「とにかく!魔王が倒された以上、二百八十四の星はもう大丈夫でしょう!魔王の力が無ければ、現地の住人でも、5年あれば、星を取り戻せるはずです!」



 どうやらあっちの世界はもう大丈夫らしい。あの星の住人と会うことは無かったが、瓦解した魔王軍になら勝てるということは、意外と実力ある戦士の揃った星だったのかも知れない。



「そして!!世界を救ってくださった光さんには!!!私から特別なプレゼントがあります!!!!」



…………………ん?…プレゼント?



「光さん、あなたの願い!!なんでも一つだけ!叶えてあげますよ!!!」




……………願い…………!?…………神様、今、願いっていったか??




「それ、マジですか!?なんでも、叶うんですか!?」




「はい!!!なんでもですよ!!!!たくさんのお金だって、無限に湧き出る力だって、簡単です!!」





 ほんとに願いが叶うのか………。神様っていうのはスゲエもんなんだな……。だとしたら、あの願いしかないな。俺の願いはたったひとつだ。






「じゃあ…………………じゃあ、地球に魔物出現したあの日から今日までに、殺されてしまった人をすべて、生き返らせることは、できますか!?」





「へ?そんなことでいいんですか?私の力だったら、大富豪になることも、世界最強になることも、簡単ですよ?」




「ええ。この願いで構いません。…………いや、この願いでお願いします!!」




「そうですか。勇者というのは、思いやりのある人なんですねえ……………」




 そういうと神様が両手を空にかざす。両手に光が煌き、その光が閃光のように弾ける。





 弾けた光がこの神様の世界に、雪のように降り注ぐ。






 落ちてくる光の一つに手をかざす。その光はとても、あたたかい光だった。








「はい。これであなたの願い、叶いましたよ。」






「ありがとう、ございます………………」




 これで、また、教室に帰れば…………教室に帰れば、また…………………





 クソウザい、ホラじいとの生活も、居心地の悪い、教室の中の世界も、誰かを失う恐ろしさに比べれば、なんてことはない。愛おしくさえ思えてくる。もとの世界に帰ればまた、あの日常が、帰ってくる。



 神様にも、ホラじいにも気づかれぬよう、小さく笑う。そして、神様に告げる。



「神様、本当にありがとうございました。俺たち、もとの世界に帰ります。」




「はい。お二人とも、お元気で。」




 東の神様を背に、地球へとつながる門へと向かう。



 その時、ホラじいが話しかけてくる。




「光、さっき笑っておったのう!!!!!そんなにわしと再会できたのが嬉しかったのか!!!!????光!!!ワシも好きじゃあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!結婚しよう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」





 そういって、ホラじいが抱き着いてくる。























 ダメだ!!!!!やっぱ、クッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッソ、気持ち割いわああああああああぁあああああああああああぁぁああぁああああああああああああああああああぁぁぁぁあぁああああああああああああぁあああああああぁぁああああああああああああああぁぁあぁぁあぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!















Tier.Sキャラに転生バフをのせて、特攻敵(魔王)を殴ってみた結果wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww



→30分で、世界を救えた!!!!!!!!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしい作品ですね!☆5個つけさせて頂きました。これからも頑張って下さい!
2021/11/07 21:43 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ