コラボ[放課後連合]
さて。コラボの発端はデビュー初日に遡る。小春嬢の配信の中で一姫嬢と一二三嬢の配信トラブルをネタとしてこすったところ、ファンの中で炎上と言うほどでもないが少々物議を醸すことになった。事前承諾なく行った為、その事を含めて一姫嬢と一二三嬢に謝罪のメッセージを送った。すると、その中でお二人からコラボの誘いが来た。どうやら、お二人で私達二期生を交えた雑談コラボのようなものを企画していたようで、私の行動を見てこの期を逃す手はないと考えたらしい。
私達の同期コラボが翌日に行われたのはかなりイレギュラーなことらしく、もともとは一週間から二週間たった辺りで同期コラボを行い、その後にコラボの誘いを掛ける予定だったようだ。[まあ、諏訪さんは結果を出してますから、誰も文句を言えませんし、言いませんよ。私達も巻き込んで貰えて、むしろありがたいと思います]とは一姫嬢の言だ。
コラボ告知から二晩が経ち、コラボ当日。時間は、いつもより早めの20時から開始。打ち合わせは19時半からとの事で、19時には夕食を終えていた。ふと、配信の待機所を覗くと、既に3千人以上が待機をしていた。一姫嬢も一二三嬢も、共に登録者は10万人を越えている。一期生のデビューから一年間、知名度が0の2ndstreetが伸び続けたのは彼女達一期生の功績だ。一姫嬢の圧倒的な個性。一二三嬢の縁の下での努力。他の3人も含めて、誰かが欠けたとしたら2ndstreetはここまで来れなかったかもしれない。
『こんばんは。先生、お早いですね。まだ十五分前ですよ?』
「こんばんは。一姫さんこそ、お早いですね」
打ち合わせ用のグループ通話に一姫嬢が入ってきた。目覚まし時計を見ると、時間はまだ十五分前。先に居た私が言うのも難だが、早い。時間ギリギリに滑り込んでくる昼女嬢とは大違いだ。
『たぶん、一二三は少し遅れますから、早く入る必要はなかったのですが……』
「癖ですので、気にしないでください」
私がそう言うと、少し無言の時間が出来る。私は自分から話すタイプではないが、一姫嬢もそうなのだろう。
『あの……、先生』
「なんでしょう?」
『いろは達と旧知の仲というのは本当ですか?』
「はい。龍生達とは同じ大学でした」
一姫嬢が言った「いろは達」とは、他の3人の一期生だ。椿いろは、勿忘瞳、フィリップ・安曇野。3人がこの名義でバーチャルミーチューバーをやっていることを知ったときは、ずいぶん驚いた。なお、龍生とはフィリップ・安曇野の本名である。
『では、2ndstreetでデビューを決めたのは、それが理由で……?』
「はい。と言うか、龍生に誘われたんですよね」
『なるほど……。そうだったんですね。お仕事だった先生は、それで辞めたんですね?』
「ああ……。実は、お恥ずかしい話なのですが、教師はその前から辞めるつもりではあったんですよ……」
『お疲れ様!2人とも、お待たせ!』
『わっ!……一二三、突然声を出すのは驚くから辞めてって前から……!』
「こんばんは、一二三さん」
『ごめんね!大事な話してた?』
いつの間にか、時間は19時半を過ぎていたようだ。私と一姫嬢に、グループ通話に参加した一二三嬢が声をかけてくる。一姫嬢は声に驚いたようで、可愛らしい悲鳴を上げる。私と一姫嬢の話が重要なことか、一二三嬢が聞いてくる。私が「大丈夫ですよ」と返すと、落ち着いたのか、一姫嬢が打ち合わせを始める。
『それでは、今日の大まかな流れから……』
前回の二期生コラボは、大まかな流れを私が決めつつ、事務所から用意された内容のわからない質問を消化していく流れだった。初めてのコラボ、しかも予想される同接も多かったため、司会としての台詞はある程度台本を作りつつ、アドリブを交えるように進行した。一方、今回のコラボの話題は、コメントからの質問を拾いつつ進行するようだ。一姫嬢と一二三嬢は、私に対して『答えにくい質問でしたら、それとなく躱してください。フォローは私達がしますから』と心強い言葉を頂いている。
『それでは、そろそろ時間なので、私が合図を出したら入ってください』
一姫嬢が最後にそう締めくくる。私は、一度通話をミュートにして配信画面を開いた。
[【三週連続】一姫と一二三の新入生歓迎会【2ndstreet】]
配信の扉絵は、小春嬢のイラストだ。左右には一姫嬢と一二三嬢のミニキャラ、私は中央にバストアップで描かれている。20時になると同時に、画面が扉絵から配信画面に変わった。中央にコメント欄、左に一姫嬢と一二三嬢の立ち絵が置かれている。
『皆さん、こんばんは、桜木一姫です。2ndstreet二期生がデビューしてから一週間が経ちました。配信を見ている人も、見ていない人も、まだまだ知らない一面がきっとあるのでしょう。今回は私達[一一二三]で二期生をお呼びしてあんなことやこんなことを聞いてみようと言う企画です。まずは、一二三?』
『こんばん一二三~!2ndstreet一期生の楠一二三です!今回は一姫ちゃんと2人で新人さんをサンドバックにしようと思います!』
『まったく、今回のゲストは大層な大物ですよ。何てったって初日に私達の事をネタにするんですから』
『そうそう!私はともかく一姫ちゃんを弄るなんて、命知らずだよね!』
『と言うことで、もう一人のゲストです。2ndstreet二期生、通称が先生、職業も先生の諏訪美旗さんです』
『わー、パチパチ!』
2人の掛け合いを見ていると、いつの間にか私の出番も来たようだ。ミュートを切り、私も声を出す。
「こんばんは、皆さん。2ndstreetの二期生、諏訪美旗と申します。……ここが校舎裏ですか?」
私の挨拶に対して、コメント欄が反応する。
[先生きちゃ!]
[今日はがんばれ]
[草]
[校舎裏www]
[草]
[恐れを知らないw]
『本当に大物ですね。と言うことで、最後のゲストは先生です』
『配信では初めまして!これからよろしくね!』
「まずは、裏では一度申し上げましたが改めて。お二人とも、先日は大変失礼な事を申し上げました。改めて謝罪を」
『気にしないでください。私も一二三も気にしていませんから』
『うんうん。私達にとっても、今となってはいい思いでだからね』
私の謝罪に対し、一姫嬢と一二三嬢が朗らかに笑う。
「二期生コラボは私が司会でしたから、ゲストとしては初めてとなります。お手柔らかに」
『ええ。それでは早速やっていきましょう。今回は私達やリスナーからの質問に答えて頂きます。……良い質問がありましたね。[先生から見た2ndstreetはどんな感じですか?]。私達は一期生ですから、客観的な事務所のイメージはありませんでしたからね』
『それ、私も気になる!私達はどんな風に見えてたの?』
一姫嬢がコメント欄に呼び掛けると同時に、一気に書き込みが増える。その中から、一姫嬢が一つの質問をピックアップした。
「そうですね。2ndstreetを知ったのは、生徒経由です。確か一姫嬢が登録者5千人ほどだった時でしょうか。「こんなバーチャルミーチューバーが居るんだ」とお薦めされたのが最初です。それからは、ちょくちょく授業準備をしながら見ていましたね」
『……結構初期から見てらしたんですね』
『先生の高校でもバーチャルミーチューバー流行ってたんだね!』
私の答えに対して、少し驚いたように一姫嬢が言う。一二三嬢は、相変わらずの明るさで合いの手を入れた。
『先生の初配信で、私や一二三がコメントをしても驚かないので、てっきり私達の事をあまり知らないのかと』
「いえ、内心では驚いていましたよ?しかし、私が視聴者を差し置いてファン根性は出せませんから」
『そういえば、コメントの私達のあだ名にはすぐに反応してたからね。ちゃんと知られてたのか~』
[先生初期から見てたのか]
[生徒とそんな会話出来るってことは、生徒から好かれてたんだな]
[知ってたのに初配信無感情だったのかよw]
[先生結構真面目だからな]
[まあ知らなきゃ小春ちゃんの配信でも話を出せないよな]
コメントでは、私の初配信の反応がネタにされているようだ。話が一段落したのを見計らって、一姫嬢が次の話題に移る。
『では、次は一二三、好きなのを選んで良いわよ』
『わかった!そうだね~、あっ、これにしよう。[先生は、2ndstreetでは誰が一番推しですか?]だって!』
「それ、答えなくてはダメですか?」
『ダメです』
『答えて!もちろん私だよね?』
二つ目の質問で既に答えに窮する。フィリップ達3人はもともと友人だから、その中から一人を選ぶと角が立ってしまう。一方で一姫嬢と一二三嬢から選んでもあまり良い未来が見えない。
「……ど、同期2人でしょうか」
『日和りましたね』
『え~、私じゃないの?』
「やはり、小春さんと昼女さんには、同期なせいか特に思い入れがありますから」
『先生と2人って、手のかかる生徒と放っておけない性格の先生みたいだからね』
『……そのうち一二三もその手のかかる生徒枠に入りそうね』
「ノーコメントでお願いします」
[草]
[ひふみん生き生きしてるなw]
[先生の困り顔初めて見たw]
[良いぞひふみん]
[地味に番長も助けなくて草]
[二期生全員推しワイ大歓喜]
[日和ってて草]
[ひふみんw]
[たしかにそのうちひふみんも手のかかる生徒枠に入りそうだな]
[先生も否定しないw]
結局、私は同期2人を答えに選んだ。一期生の中でと言う指定はなかったという屁理屈を言っておく。
『さて、次は……』
こうして、私と一姫嬢、一二三嬢のコラボは進んでいった。なお、私達3人のコラボタグで[校舎裏連合]と言うものが出来たようで、それがトゥイッターのトレンドに入っていた。
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