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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第五章『思惑』
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 そう言えば、去年の10月17日に投稿を開始して、一年と少しが経ちました。長かったようで短かった一年です。物語の中の時間軸が、一周して現実に追いつかれそうになってます。

 さて、なろうという小説投稿サイトは、謂わば棚です。私を含めた作者達は、書き上げた作品を棚に並べています。しかし、誰も触らなければそれは埃が積もっていくだけです。棚に飾られた物が誰かに触られることで埃が積もらないように、作品も読者の皆さんが拾い上げて読むことで埃が積もらずに、綺麗に飾られ続ける訳です。

 つまりどういうことが言いたいかというと、この作品が埃をかぶらずに居られるのは皆さんのお陰、ということです。たまに閲覧数を確認することがありますが、更新をしていない日にも閲覧をしている方が居ます。私はそれを見ると、心苦しいと思う反面、嬉しいとも思います。と言うか、嬉しいという気持ちが殆どです。

 皆さんのお陰でここまでこれました。これからもよろしく。


 風上昴


 私の教え子達の数は、優に100人を超えている。その中には、取り立てて模範的だった生徒も居れば、その逆も然り。黒井瑠香くろい るかという女生徒は、どちらかといえば後者だった。

 端的に言えば、彼女の学校に向かう態度は『生徒』ではなく『学生』だった。教導され、それに従うのが『生徒』。対して、自ら学びを広げるのが『学生』。

 2年生だった彼女の担任だった時のある日、数学科の教科担当から「柴田先生のクラスの黒井さんに『なぜ教科書を読めばわかることを延々と解説するのか』と文句を言われた」と文句を言われた記憶がある。翌日には同じ先生から「黒井さんが授業に出席していない」と苦情が来た。話を聞けば、一年生の時にも数学や物理、化学の授業に出席していなかったという。彼女の教科担当からの評価は理系と文系で大体二分され、理系の先生からは『不真面目』、文系の先生からは『真面目』という感じだった。なお運動は苦手らしく、体育の先生方からは特に何も言われて居ない。


 虚君=黒井瑠香嬢だと気づいた私は、返信をしようとしたタイミングでスマホの電池が切れていた事を思い出した。充電器を繋げ、充電をしながら自宅へ帰る。家につく頃には、既に時間は零時を回っていた。


諏訪美旗[ごめんなさい、スマホの充電が切れてしまって]


 引っ掛かりを感じつつも、今まで気づいて居なかったことを噯にも出さず、返信をする。一人称や声、気づく切っ掛けは幾らでも有ったはずだが、頭がそこまで回らなかった。情報漏洩か、同僚かと見当違いの方向に思考を進めていたものだから、仕方がない。

 ……今更だが、私は虚君のことを何と呼ぼうか。アバターや声は中性的だが、僕という一人称から君付けで呼んでいた。が、黒井嬢の事に気付いてしまったらそうも行かないだろう。


「まあ、本人に聞くしかないか」


 そんな事を考えていると、通知音が鳴る。見れば、虚君からの返信だった。


虚[柴田先生、やっと気付いたの?]


 文面で、虚君は私が気づいて居なかったことを察していた事がわかってしまった。まるで見透かすような言葉に苦笑が漏れる。


虚[先生、変なところで鈍いから]

諏訪美旗[そうでしょうか?]

虚[うん。自分から名乗ろうかとも思ったけど、それは何かイヤだったから、待ってたよ]

諏訪美旗[気苦労を掛けたみたいで、申し訳ない]

虚[僕、明日は大学だからそろそろ寝るね]

諏訪美旗[はい、おやすみなさい]

虚[おやすみ、先生]


 私はスマホをテーブルに置いた。久しぶりの虚君との会話(?)は、昔の黒井嬢の面影を感じさせる。一方で「大学だから」と時間を気にする姿は、社会科準備室に潜り込んでは理系の授業をサボろうとしていた黒井嬢の姿からは想像がつかなかった。私が担任では無かった高校3年生、そして大学の2年間が彼女を変えたのだろう。いつだって、教え子の成長を感じるのは楽しく、そしてほんの少し寂しさも感じる。

 生涯学習と嘯きつつ、亀の歩みを続ける私達大人とは大違いだ。成長は子供の特権だと、そんな事を思ってしまう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「いや、そんなことは無いでしょ」

「そうですね。先生はデビューから結構変わった気がします」


 そんな話を、偶然に事務所で出会った昼女嬢と小春嬢にしたところ、こんな答えが帰ってきた。


「そうか?私としては実感は無いんだが」

「ええ、自覚無かったんですか?」

「意外だね」


 小春嬢と昼女嬢が驚く。


「先生、最近とても楽しそうにしてますよ?」

「デビューしたときは結構反応が薄かったけど、今はそんなことないし」

「いや、デビューした時も結構楽しそうにしてなかったか?自分で言うのは変な話だが……」

「んー、デビューした時の先生って、その時その時で面白いことがあって笑うことはあっても、普段は無表情って感じだったじゃないですか」

「今は何て言うか、生きるのが楽しい!……みたいな?」


 二人の言葉に、私は「……そうか?」と首を捻る。岡目八目とはまさにこのことだろうか。

 話をしていると、ふと昼女嬢が私の方に顔を寄せる。


「……先生、煙草吸った?」


 昼女嬢が顔をしかめる。どうやら昨日、晴明君と吸ったときの臭いが残っていたようだ。


「言われてみれば……。意外です。先生って、そういうの好かなそうなので」

「私、大学の頃は結構吸ってたぞ?昨日、晴明君に一本貰ったんだ」


 昼女嬢が小春嬢の方を向いて言う。


「小春ちゃん、先生がこんな事言ってるけど?」

「ええ!?まあ、嗜好品ですから」

「そうじゃなくて、小春ちゃん的には良いの?」

「……?まあ、良いんじゃないですか?」

「だってよ、先生?」

「なんで私に振るんだ……」


 昼女嬢の突発的な行動に私と小春嬢で戸惑う。その後も、私達は暫らくの雑談を重ねた。



 結構前の温泉旅行の頃から勘違いを重ねる昼女。昼女の心理を計りかねる小春。懐かしくてドンキでアークロイヤルを購入し、さりげなくポケットに忍ばせている美旗。やっと本題に辿り着いて胸を撫で下ろす風上昴です。

 今回の章のメインパーソンは一姫と虚、山田社長と美旗を想定しています。更新日は不定期ですが、時間は基本的に深夜2時です。本格的に寒くなってきましたが、暫らくのお付き合いを。

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