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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第4章『三期生』
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2ndstreet聖夜祭②


 暫くの話し合いの結果、最初のゲームは大富豪に決定した。しかしまあ、この大富豪というゲームは中々の曲者だ。名前が地域やコミュニティによって『大富豪』『大貧民』と変わる事を筆頭に、地味にルールも地域性がある。


「勿論、八切りは有りですよね」

「イレブンバックは?」

「ジョーカーは何枚入れる?」

「無効化できるのがスペードの3だけなら一枚だよね?」

「ええ、3はスートに関係なくジョーカーを無効化出来るよね!?」


[ルールで喧嘩すんなwww]

[八切りと革命は基本]

[イレブンバックって何?]

[スートに関係なくジャックを出したら、そのターンは革命になるやつ]

[そもそも初手はスペ3持ってるプレイヤーなんだから、スートに関係なくジョーカーは無効化できるだろ?]

[なんでコメ欄まで争ってんねん]


 勿論、出身地のそれぞれ違う8人が集まったのだ。それぞれ、ルールの確認……というか自分の慣れたルールを少しでも増やそうと言い募る。流石にこれだけで出身地の特定はされないだろうが。

 それなりの時間を掛けて話し合いをした結果、ルールは八切り、イレブンバックが有り、ジョーカーは2枚で3はスート関係なしに無効化出来ることに決定。これだけで十分ほど時間が経過してしまった。


「それでは、全員手札は確認しましたか?」


 全員に手札が回ったタイミングで声をかける。今回は2ndstreetもかなりの手間を掛けてイベントを行っている。バーチャルでありながら、どこまで見やすくリアリティのあるゲームにするか。それはVTubarの永遠の課題の一つだ。

 普通なら、それぞれが一端末を操作してテレビゲームを行い、複数の枠を取った配信画面に映すものだ。しかし、今回は2ndstreet公式チャンネルの一つのみしか枠が取られていない。

 私達の後ろには、それぞれスタッフが一人付き沿う。リアルタイムで手札と捨札を確認し、それをデスクトップ操作係のスタッフに伝え、デスクトップが操作される。手間のかかる方法では有るが、新しくゲームをプログラムするよりは楽だと、この方法が選ばれた。


「では、最初は私ですね」


 まずは手始めに、と一姫嬢が4を場に捨てる。


「一姫ちゃん、慎重だね。私はこれ」


 続く一二三嬢はジャックを場に捨てた。この時点でイレブンバックになり、一ターンの革命状態になる。


「おいおい、詰めが甘いぞ?」


 フィリップは4を捨てた。


「私はパスかなぁ」

「……私も」


 4より強い札は3しか無い。いろはと瞳は持っていないのか様子見なのか、パスを宣言する。

 私と小春嬢、昼女嬢もパスを宣言し、場は一度空になる。次はフィリップからだ。ちなみに、ゴースティングにならないようにと私達はコメントを見ていない。

 結局この回はフィリップの独壇場となり、大富豪はフィリップ、富豪はお溢れに預かった私、貧民はいろは、大貧民は一姫嬢となった。


「では、第二回戦ですね。大貧民の一姫さんは2枚、貧民のいろはは1枚、それぞれ強い札をフィリップと私に」

「2とジョーカーが取られるのは残念ですね……」

「私もジョーカー持ってかれちゃう」


 大富豪は2回戦から他のゲームにない特殊なルールが適応される。それが、大貧民は2枚、貧民は1枚、自分の手札から一番強いカードを大富豪と富豪に渡すのだ。逆さに、大富豪は2枚、富豪は1枚、手札の一番弱い札を渡す。このルールによって大富豪の一番有名な特殊ルール、『革命』が現実味を帯びる。同じ数字のカードを4枚場に出すことで、カードの序列が逆に変わるのだ。

 また、大富豪はトップを取れなかった場合、強制的に大貧民になる。『都落ち』というローカルルールだ。


「では、スタートは大貧民の一姫さんからです」

「順当に、これですかね?」


 一姫嬢は場に5を落とす。続く一二三嬢は7を捨てた。


「俺はジャックだ」

「はい、八切り」


 フィリップがジャックを落とし、イレブンバックが適応されたタイミングでいろははターンをスキップした。


「ふふ、盛者必衰!」


 いろはは場に3を4枚捨てた。どうやら、むりやり自分のターンを取り、革命を決める作戦だったようだ。


「美旗、革命返ししてやれ!」

「あー、私はパスだ」


 私がパスを宣言すると、小春嬢と昼女嬢もパスを宣言した。


「私には好都合ですし、パスです」

「流石に返せる札はないかな……」


 革命によって有利になった一姫嬢はパスを宣言。一二三嬢もそれに続く。


「ちくしょう、3枚までしか持ってない!」


 フィリップもパスを宣言し、いろはのターンが続く。


「はい、キング」


 いろはは順当に弱い札から切っていく。私はそれに6を捨て、一気にペースを上げていく。


「あれ、美旗先輩。そんなに強い札から切ってって、息切れしちゃうよ?」

「私は富豪だからな。都落ちもしないし、このまま富豪になれれば問題ない」

「はたさん、陰湿」

「瞳、人聞きが悪い。策士って言え」


 強い札をある程度捨てきったタイミングで、私は八切りで自分のターンを持ってくる。


「いろは、悪いな。革命返しだ」


 私が場に出すのは4枚のエース。これで力関係がルール通りに戻った。


「なるほど。先生はこれを狙ってたんですね。パスです」

「私も」


 小春嬢と昼女嬢、一姫嬢らもパスを宣言した。


「……どうせ、そんな所だと思ったよ」


 いろははそう言うと、場に6を4枚捨てる。


「革命返し返し!ロベスピエールがやられても、市民が自由を求める気持ちは変わらないんだよ?」

「世界史選択にしか分からないネタはやめろ」


 いろはの革命返し返しに対し、全員がパスを宣言した。


「惜しかったな、美旗」

「美旗先輩が強い札ばっか切るから、何となく予想はしてたよ」

「まさか読まれてるとはな。それ、八切りだ」


 いろは、瞳の順に回ってきた手番を八切りでむりやり私の手番に変える。


「革命返し返し返しだ」

「ええ!?」


 私は場に2を3枚とジョーカーを捨てる。今度こそ返す札もないらしく、いろはは悔しそうに唸るだけだ。革命のせいで力関係の逆になった状況で強い札を残すこと、それはつまり革命が終わった途端に弱い札ばかりが残ってしまう。それに対して、私はこれを見越した捨札をしていた。いろはが革命返しを返して来るのは予想外だったせいで、幾つか目測は狂ったものの、富豪を目指すのにさした障害にはならない。結局今回のゲームもフィリップが大富豪、私が富豪という着順は変わらなかった。

 まだ暫く不定期になります。

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