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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第4章『三期生』
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逆さてるてる

 おまたせしました。次回は三日後の更新予定です。


 今日の日付は12月24日。クリスマス・イブだ。外を歩けば、ファストフード店やコンビニは稼ぎ時とばかりにチキンの販促を行っている。ケーキ屋は前日だと言うのにケーキの予約をカラフルな広告で募集している。それ以外の店でも、飾り付けはクリスマス一色だ。駅前にはサンタクロースの格好をした人が、寒さに負けないような張った声で広告を配っている。

 宗教行事に縛られないのは日本人のお国柄だろう。殆どの人はクリスマスを騒ぐための日だとか、売上が増える日だと思っている。しかしまあ、近所の寺で『クリスマス法会』なるものを主催しているのには面食らった。これが本当の神仏習合だろう。


 勿論、クリスマスが稼ぎ時なのは飲食店に限らない。私達VTubarに取っても、クリスマスは重要なイベントだ。『四天王なのに5人居る』で定評のある、VTubar草創期を担った有名VTubar達はそれぞれライブを行うようだし、それ以外の個人・箱も個性的なクリスマスイベントを用意しているようだ。

 勿論、それは2ndstreetとて例外ではない。三期生のデビューを1月に控え、このタイミングは今年最後のバフ掛けになる。明日は久しぶりに、一期生と二期生合同のクリスマスコラボを行うことになっている。今は、その打ち合わせの帰りだ。


「ケーキ、買っておくか」


 何となく、目についた一つのケーキ屋に入る。店内を見回せば、クリスマスツリーやサンタの置物など、一年でこのタイミングしか使わないような飾りがあちこちに置かれている。


「いらっしゃいませ!」


 タイミングが良かったのか、店内には私以外に人影は無かった。レジに進めば、店員が笑顔で迎えてくる。


「ご予約ですか?それとも、ご購入ですか?」

「あー、あのケーキを一つ、お願いします」


 ショーケースに並べられたケーキのうち、切り株を象ったものを注文する。ロールケーキの表面にチョコが掛けられ、その上に雪を意識したようなクリームが乗っかっている。これなら、他の誰かがホールケーキを買ってきたとしても、被ることは無いだろう。


「飾りは付けますか?」

「いえ、無しで大丈夫です」

「畏まりました。3200円になります」

「クレジットカードで」


 当たり障りの無い会話で購入する。VTubarになってからは、外での口数がより少なくなった気がする。そこまで有名になったという自意識は無いが、それでも最悪を考えてしまうのだ。声色を変えたりは余り得意ではないから、どれほどの効果があるのかは解らないが。


「ありがとうございましたー」


 暖房の効いた店内を出ると、寒さに少し身震いする。今日の最高気温は、朝確認した時点で12℃らしい。既に3時を周り、日の陰りが見えてくるこの時間はきっと、もう少し寒いのだろう。近年冬でも暖かい日は多いが、今年は例外のようだ。明日は運が良ければ雪が降るとの予報だった。フィリップにこの話をしたら、「なら家に帰ったら逆さてるてるを吊るさないと」と笑っていたことを思い出す。


 大学生から時を重ねても変わらないフィリップに、少しの羨ましさを感じる。話をしていると、まるで私だけが歳をとってしまったような錯覚を覚えてしまう。きっと、十年後も二十年後も私はフィリップに同じ感情を抱くのだろう。いや、もしかしたらフィリップも段々と変わるのかもしれない。一年後の未来さえ解らない私には、それを知るすべは無いのだが。

 そんなことを考えながら歩いていると、直ぐに家についた。私一人しか住んでいない割には広い家に入り、靴を脱ぐと台所に直行してケーキを冷蔵庫に仕舞う。店員曰く、ケーキは明後日までは保つようだ。

 手を洗い、リビングに座る。眼の前に置かれたティッシュの箱を見て、私は徐ろに一枚を手に取る。それを適当に丸めると、直径2センチ程の玉が出来上がった。もう一枚でその玉を包むと、カッパの裾のように端を広げ、首を輪ゴムで括る。

 ペンは探しても見当たらない。諦めて、のっぺらぼうになってしまったてるてる坊主を物干し竿に逆さに吊るす。


 さて、明日は雪は降るだろうか。降るとしたら、交通機関が止まらない程度に積もってほしいものだ。「折角作ったんだから、ちゃんと頼むぞ?」とのっぺらぼうずに一言声をかけて、私は室内に戻った。

 今年のクリスマスは、今までよりも楽しいかも知れない。

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