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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第4章『三期生』
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【案件】魔王軍の参謀になって魔族を救うゲーム


 先日の配信は、私達の計画通りそこそこの反響があった。幾つかのシーンは切り抜かれ、私と一姫嬢は2ndstreetの悪役として、無事に名を挙げることが出来たのだろう。

 この影響は通常の配信やコラボ配信にまで及んでいる。一姫嬢は『そういうキャラ』として外部に露出する機会も多くなった。私はといえば、コラボのお誘いが目に見えるほどに増えた。どうやら、今までの私の印象は『マジメそう』という理由で取っ付きにくかったのが、分かりやすい『表ではニコニコしながら、裏では神算鬼謀を巡らせている』というキャラとして受け入れられた。

 私や一姫嬢の発言に[怖い怖いwww]というコメントをする流れが配信でも出来ており、初見でも配信のノリに参加しやすいという嬉しいトゥイートも見かけた。

 三期生のデビュー予告でじわじわと話題を集めていたタイミングで投下した爆弾は、私達の予想以上の威力で二期生までの登録者数の増加という結果を残した。


 さて、裏では着々と進んでいた三期生の最終面接はついに終わったらしい。全員の面接を終え、これからアバターの用意が始まる。2ndstreetでは、面接の前に予めアバターを用意する方式を取っていない。社長曰く、『最初にアバターを用意してそれに合わせて面接をするのでは、先入観に囚われてしまって本人の適性をしっかりと見極められないだろう。それは、本人にもファンにも失礼だ』とのこと。

 今回の面接では、当初3人デビューの予定であったものの、予定が変更されて5人がデビューすることになった。最初にアバターを用意するのではこのような予定変更は出来なかっただろうと考えれば、社長の考えも賛同できるものがある。とは言え、事務所に用事があって行くたびに納期やら手配やらでバタバタしているスタッフを見ると、良くも悪くも社長のカリスマで回っていると思ってしまう。

 さて、表では三期生のデビューで話題が持ちきりな訳で有るが、裏では別の事でわちゃわちゃしている。


「諏訪さん、ごめんなさい!私のミスで……」

「……まあ、大丈夫だと思いますよ。少し時間が押してしまいますが」


 私のマネージャーが変わった。以前のマネージャー、津田マネージャーは三期生のマネージャーを務める事になったようで、新しく入ってきた武藤凛むとう りん嬢がシフトするように私のマネージャーに着任した。

 しかしまあ、武藤嬢は少し……いや、結構おっちょこちょいのようである。

 今日は、私はとあるゲームの案件で事務所に来たわけであるが、武藤嬢が私に伝えた時間が間違っていたようである。1時間程度なら可愛らしい――迷惑ではあるが――ものだが、その時間はなんと2時間。13時と午後3時を間違えたようである。時間になっても来ない私を心配した津田嬢が連絡してきた事で事態が発覚した。

 案件配信の時間は16時からで、私が到着したのは14時過ぎ。配信には間に合うが、事前の打ち合わせの時間が減ってしまっている。


「本当にごめんなさい!」

「いや、謝っている時間の方が勿体無いですから、取り敢えず案内してください」


 私の進路を塞ぐように前に立ち、申し訳無さそうに言う武藤嬢に言う。完璧に道を塞ぐその立ち位置に、実は確信犯なのではないか、なんて邪推をしそうになってしまう。

 私の言葉に謝ることをやめた武藤嬢は、慌てて私を会議室に案内する。会議室には、定刻通りに到着していた案件先の男性が座っていた。


「遅れてしまい、申し訳ありません。諏訪美旗と申します」

「いえ、事情はお聞きしていますから。むにソフトの荒川です」


 柔らかい笑顔で答える荒川さんに、さらに申し訳なく思ってしまう。荒川さんは「慣れてますから」と続ける。


「悪口では無いですが……。他の事務所の方で、単純な寝坊で配信を一時間ほど遅らせたことも有りましたからね」

「それは……」


 あはは、なんて笑いながら言う荒川さん。それは社会人としてどうなのか。もう少し怒っても良いような気がする。

 名刺を渡される。そこには『むにソフト』という社名と共に、『広報部 部長補佐』という肩書が書かれている。そこそこの立場なのかと思っていると、荒川さんが私の考えていることを見透かしたように、「部長補佐と言っても、やっていることは普通の社員ですよ。役職にすれば残業代が無くなりますからむりやり昇進させられたようなものです」と言う。


「さあ、それでは打ち合わせをしましょう。今回美旗さんに紹介して頂くゲームは……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[【諏訪美旗】悪の参謀になって魔王城を防衛するゲーム【むにソフト】【ガーデン・オブ・魔王城】]


「みなさん、今日は。2ndstreet二期生の諏訪美旗です」


[始まった]

[今日は案件か]

[このゲーム知ってる]

[むにゲームはタイトルがなぁ]

[先生ゲームあんまり上手くないけど大丈夫?]


「さて、今日は『むにソフト』さんのタワーディフェンスゲーム、『ガーデン・オブ・魔王城』をやっていきます。ですが、その前に今日は天の声が居ますから、そちらの紹介を」

「みなさん、はじめまして。今日は諏訪さんのゲームのサポートをします、天の声の荒川です」

「音量は……、大丈夫そうですね。いつも見ている人ならご存知かもしれませんが、私はゲームがあまり上手くないので、荒川さんに教えて貰いながらやっていきます」

「任せてください!……とはいうものの、私もテストプレイをしただけなので……」


[天の声、誰?]

[普通に考えれば、案件先の誰か]

[流石に先生もサポートがあれば大丈夫だろ]

[荒川さんwww]

[いや、それは言っちゃ駄目だろwww]

[この時点で先行き不安で草]


 今日は普段と違い、私の手元にはスマホが置かれている。スマホにはゲームのタイトル画面が表示され、それが配信画面にもトラッキングされている。


「それでは諏訪さん。画面をタップして頂ければ、ストーリーが始まります」

「こうですね」


 タイトル画面が暗転し、ストーリーが始まった。ボイスの無い地の文を私は読み上げていく。


「このゲームは地の文以外はフルボイスですね」

「はい。風のうわさだと、全編フルボイスにしたせいでかなり制作費が高かったとか」

「荒川さん、それは言わないほうが良いですよ、きっと」


[草]

[制作費www]

[天の声ぶっちゃけすぎで草]

[これ、本当に案件だよな……?]

[地の文読んでくれるのはありがたい]

[聞きとうなかったそんな裏話]


 先程の打ち合わせのテンションで言わないほうが良さそうな事を言う荒川さんに思わず突っ込む。


「あ、最初の戦闘ですね」

「ここでゲームの操作方法の説明があります」


 ここまでのストーリーを簡単に纏めると、以下の通り。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ここは地球とは別のとある世界。魔王を旗印に纏まる魔族軍は、人類の侵攻を受けていた。身体能力に於いて人類を大きく上回る魔族が徐々に戦線を後退させなくてはいけないのは、人類が異世界から呼び出した勇者の圧倒的な突破力が原因だ。

 人類が異世界から勇者を呼び出すのであれば、魔族も異世界から勇者を呼び出せばいい。こうして、主人公は魔族に異世界から召喚された。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ゲームでは、魔王(見た目は10歳ほどの少女)が主人公にチュートリアルの説明をする。指示通りにキャラを動かすと、無事にチュートリアルが終わる。


「これでチュートリアルは終わりです。画面右上のボックスアイコンをタップしてみてください」

「これですね」

「魔王軍の参謀になった諏訪さんには、魔王軍の中から優秀な前線指揮官を選抜してもらいます。所謂ガチャですね」

「これがそのためのアイテムですか」


 画面に、『クリスタル×5 を入手しました』と表示される。どうやら、このクリスタルがゲーム内通貨らしい。


「それでは、ガチャを……それですね。一回引いて貰えれば」


 荒川さんの指示通り、ゲームの画面をタップする。

 画面に虹色の魔法陣のようなものが表示され、白転する。


『参謀ど……「おお、☆5ですね!運がいい」

「あの、折角制作費をかけたボイスがかき消されて聞こえなかったんですが……」


[草]

[ボイス聞こえないんだがwww]

[荒川さん……]

[地味に☆5をここで引けるのは運いい]

[本当にこの配信大丈夫……?]


 魔法陣から現れたキャラの声に被せるように荒川さんが言う。その声に掻き消され、残念ながらキャラの声が聞こえなかった。


「では、今度はキャラの育成について解説しますね。先日、このゲームの解説だと不十分だと開発陣にクレームが入りまして」

「荒川さん、それも言わないほうが良いやつです」


[待て待て!]

[荒川さんぶっちゃけすぎだろwww]

[先生が思わず突っ込むレベル]

[草]

[誰か荒川さんの手綱を握ってくれ……]

[まあ、話題になるという意味では案件として間違ってない……よな?]


「このゲームでは、キャラクターにはそれぞれ攻撃・防御・知能の3種類のステータスがあります。キャラアイコンを長押ししてみてください」

「こうですね」

「例えばこのキャラクター、アリシアは攻撃が高く、変わりに他のステータスは微妙です」

「微妙とか言わないでください」

「ゲーム上での解説は3つを平均的に上げるか、足りないステータスを強化することを薦めていますが、このキャラクターは非公式の攻略サイトでは攻撃にステータスを多めに振ることが推奨されています」

「非公式……」


[ちょっと誰かコイツを止めろ]

[放送事故ってレベルじゃねーぞ]

[草]

[微妙www]

[非公式www]


「運営としては、パーティのキャラは攻撃系がニ体と防御系二体、知能系一体を推奨していますが、実際の攻略では攻撃系三体と防御系一体、知能系一体の組み方が一番楽との事です」

「随分と脳筋なパーティになりますね」

「はい。結局、相手を早く倒すのが一番楽な攻略ですね」

「なら何で三系統に分けたんですか……」

「大人の事情です」

「大人の事情……」


[そろそろ本当にまずい]

[笑えない]

[天の声はっちゃけ過ぎて突き抜けてるwww]


 さて、育成の解説が終わった所で、荒川さんが「実際のゲームプレイはここまでです」と話を切る。画面はゲームのトラッキングから、用意されていた画像に切り替わる。

 中央に『重大発表』とポップな字で書かれている。


「それでは、諏訪さん。今日は最後に重大発表を持ってきました」

「メタい事を言ってしまえば、内容は知ってますが、何でしょうか」


[おお!?]

[順当に行けば2ndstreetコラボ?]

[地味に初見がチラホラ居るけど、重大発表待ち?]

[メタいメタいwww]

[先生も遠慮しなくなってて草]


「『ガーデン・オブ・魔王城』と諏訪さんのコラボです!」


 画面が切り替わり、中央に先程のキャラクターと同じステータス画面が表示される。中央には、ゲームの世界観に合った服を着た私のイラストが書かれている。


「何とこのキャラクター、知能系でありながら攻撃と防御のステータスが平均的に高くなっています」

「なるほど」

「スキルは『炎の道を征く者』。攻撃と防御の大幅な上昇という破格のスキルです」

「ネーミングに悪意が感じられますね」

「開発陣曰く、『諏訪さんと言えば……というコンセプトで考えました』との事です」

「開発陣に私のアンチが混じってませんか?」


[おお、ステ結構高い]

[スキルの名前に悪意が……]

[先生はそんなに炎上してないだろ!……そうでもない?]

[草]

[開発陣www]


「こちらのコラボは今夜24時から2週間、12月18日までとなっています!」

「因みに、ボイスは全て私が収録していますので、ぜひ皆さんのパーティに加えて頂けたらと」

「更に!この配信を見てくださった皆さんには特別にプレゼントをご用意しています!」


 画面の画像が私のステータス画面から変わる。中央には『プレゼントコード 諏訪美旗』と書かれている。


「このコードをプレゼントコードの枠に入力して頂くと、10連召喚分のクリスタルが手に入ります。ぜひこのクリスタルで諏訪さんを引いて貰えれば!」

「新規にも優しいサービスですね。……これ、私が入力してもクリスタルは頂けるんですか?」

「勿論です。では折角ですから、最後は諏訪さんの10連召喚を見て終わりましょうか」


 荒川さんの思いつきに、スタッフがスマホのトラッキングの用意をする。


「因みに、荒川さん。荒川のオススメのキャラクターは誰ですか?」

「そうですね……。非公式の攻略サイトを見るので、少し待ってくださいね」

「もう、荒川さんはそういうキャラだと思うことにしますね」


[草]

[最後まで締まらないなぁ]

[公式が非公式のサイトを参考にしないでもろて]

[荒川さんwww]


「……今のところ、リセマラランキングの一位は『メタモルフォーゼ』というキャラクターですね。ふむふむ、全キャラクター一位の攻撃が魅力らしいです」

「やっぱり脳筋戦法なんですね……」

「さあ、諏訪さん。用意が出来たようですよ?」


 こうして、配信は私の爆死によって終わりを迎えた。

 更新設定をミスったこともあり、書き溜めが虫の息になりました。

 これから暫くは、不定期での更新になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 3話一気に来たとおもったらそういう理由で… どんまいです!ありがとうございます!
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