3期生に怖がられないようにしたい②
あの後、一姫嬢は一二三嬢に何度もダメ出しを貰った。その後、一二三嬢の『このままじゃ駄目だよ、一姫ちゃん。……とりあえず、先生の会話を参考にしてみようよ』という発言で、今度は私と小春嬢が大きなウィンドウの方に移った。
『それじゃあ、私が後輩役ですね。頑張ります』
『一姫ちゃん、ちゃんと先生の話し方を参考にしてよ?』
『まったく、一二三は厳しすぎるんですよ』
雑談もそこそこに、私と小春嬢の会話が始まる。
『は、はじめまして、先生!2ndstreet三期生としてデビューする、青山小春です』
「はじめまして。小春さんとお呼びしても?」
『大丈夫です』
[おお、いい滑り出し]
[敬語なのも相まっていい感じ]
[先生は話し方とかより、行動がヤバい奴だからなぁ]
[後輩にも怖がられるより引かれる事が多そう]
[炎上させた奴とコラボするとか、みるくらいぶでもそうそうやらないだろ]
[草]
[VTuber界隈を代表するヤベー奴集団のみるくらいぶ以下とかwww]
「そう言えば、小春さん。初配信で炎上したらしいですね」
『えっ、そういう設定なんですか!?』
「困った事が有ったら、相談に乗りますよ」
『えぇ……、ありがとうございます、で良いのかな?』
[待て待て!]
[設定が常識外れで草]
[小春ちゃん困惑してて草]
[初配信で炎上とかどんな状況だよwww]
[あ、ひふみんから強制ストップ入った]
何食わぬ顔で話を進めようとすると、一二三嬢が『ストーップ!』と割り込む。
『どんな設定なんですか!』
「初配信で炎上した設定です」
『あり得ないよ!?小春ちゃんも困惑してないで止めてよ!』
『ご、ごめんなさい。台本完全無視だったので……』
『台本とか言わないでよ!?』
[草]
[そりゃ困惑するわ]
[番長マイク切って大爆笑してて草]
[台本www]
一二三嬢が一度場面転換を提案する。
『……とりあえず、私は一姫ちゃんと先生の初対面が気になるよ』
『あ、私も気になります』
一二三嬢の提案で、私と一姫嬢の初対面を再現することになった。
『では、先生。思い出しながらやっていきましょう』
「そうですね。……どんな感じでしたっけ?」
『確か、初配信で私達の事をイジった事の謝罪からでしたよ』
とは言え、この流れは台本では無かった。当時の事を思い出しつつ、私は一姫嬢に話しかける。
「はじめまして、2ndstreet二期生の諏訪美旗です」
『はじめまして。初配信の一番手は緊張しますよね。好調な滑り出しだったようで』
「はい、お陰様で。そう言えば、初配信ではあんなことを言ってしまって、申し訳なかったです」
『いえいえ、表ではああ言いましたけど、私は気にしてないですよ』
「それに、コラボも誘って頂いて。今日は胸をお借りするつもりで頑張りますね」
『ええ、頑張りましょう』
「……とまあ、こんな感じでした」
『先生は初対面から謙虚でしたね』
とまあ、ここまで終えたところで、一二三嬢が言う。
『……ちょっと待って、何か副音声が聞こえた気がするんだけど』
『一体何を言ってるんですか、一二三』
「そうですよ、一二三さん」
『新人のくせに弄って来やがって、とか思ってませんよ?』
「弱みを晒したほうが悪い、とかこれっぽっちも思っていません」
『うふふ』
「あはは」
『怖いよ!?』
[怖い怖いwww]
[ネタだとわかってても冷や汗出るわ]
[本当にネタだと思う?]
[ヒッ!]
[三期生がこの配信見てたら怖くて話しかけられなくなりそう]
[番長と先生、ガチ不仲説]
[笑えねぇ]
[放送事故反復横跳びしてて草]
[それ、片足放送事故に突っ込んでるじゃん]
さて。この配信の打ち合わせで、私と一姫嬢は一つのコンセプトを決めた。
それは、『どうせ怖がられるなら、徹底的に怖がられてしまおう』というもの。勿論、何の考えもなしにこんなことをしているわけではない。
私と一姫嬢が変に箱のファンから怖がられているのは何故か。逆に言えば、私達の推しは私達の事を怖がってはいない。
それに対して、私達は一つの仮説を立てた。それは、『箱推しのファンは私達を詳しく知らないからそう思っているのではないか』というもの。
一姫嬢の切り抜き動画で一番再生数が高いのは、『2ndstreetの清楚枠桜木一姫、実は番長だった』。勿論件の通行人大虐殺事件の切り抜きである。
では私はというと、『諏訪美旗VS天秤秤』。これは天秤秤と私の初コラボ、即ち私の謹慎明け一発目の配信の切り抜きである。
これらの切り抜きの再生数が特に高いのは、題名、そして内容のインパクトが頭一つ抜けているためだろう。再生数が高ければ、切り抜きはサジェストの上位に上がりやすい。それが再生数をさらに増やす切っ掛けになる。こうして、例えば一姫嬢は『番長』、私は『天秤秤と直接対峙した男』としてのイメージを持たれているのだ。
人の固定観念というものは中々に変えにくい。誰しも、学校や職場でそれに苦しめられた経験は有るだろう。
それを変えるためには、それ以上のインパクトを用意するか、いっそのこと開き直って「こういうキャラです」と言い張るかしか無い。
私達は後者を選んだのだ。そして、一姫嬢の『どうせなら悪役になっちゃいましょう』という発言に繋がる。
斯くして、私達は三期生のデビュー前夜、悪役となったのだ。