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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第4章『三期生』
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面接③


「ねぇ、先生!面接はどうだった?」

「何ですか、そのフワっとした質問……」

「だって今日が最終日でしょ?」


 あれから1ヶ月程。平日だけでなく休日もフルに活用し、2ndstreetではついに千人ほどの応募を捌いた。今日はそれの最終日。偶然にも防音スタジオには私達二期生の三人が揃った。


 今日は面接への応募者が少ないこともあり、面接は朝からではなく昼過ぎからとなっている。かと言って私達VTuberは外出は控えなくてはいけない。私と小春嬢、昼女嬢は長机に並んで弁当を食べていた。


「期待の子は居た?」

「ああ、そういうことですか。まあ、チラホラとは居ましたよ?」

「やっぱり。小春ちゃんはどうだった?」

「私は、あんまりかな?」

「んー、小春ちゃんは厳しいなぁ。でも、私達が他人の人生を決めるような選択をしなきゃいけないって、結構心に来るよね」

「まあその気持ちはわからないでも無いが……」

「むしろ私は、その人の人生を決めかねないからこそ、本気でやるべきだと思っています」


 昼女嬢の話題で話に花が咲く。他人の未来に関与する事に仕事柄慣れている私と、誰よりも努力家な小春嬢、感受性の高い昼女嬢。それぞれの性格にこそ違いはあれ、それぞれの価値観で面接に臨んでいた。


 話をしながらも食事を終えた私達は、弁当のケースを閉じてゴミを片付ける。


「そう言えば、今回の面接は『面接官ガチャ』とか言われてたらしいね」

「私も見ました、それ。傍から見ると、やっぱり受かる受からないが運だと思われちゃうみたいなんですね」

「私達が面接の全権を握ってる訳じゃないんだがなぁ」


 話は『面接官ガチャ』に移る。二次面接の面接官の一人が私達2ndstreetのVTuberになるという告知から、様々な所で囁かれるようになった言葉。私達の誰が面接官になるかによって合否に不平等が出るのではないか、という懸念だ。

 トゥイッターやスレを流し見していると、私達が周りからどのように思われているのかが一目瞭然だった。

 例えば私や一姫嬢は厳しそうとか、逆に一二三嬢や小春嬢は優しそうだとか。裏では誰かが『2ndstreet3期生二次面接で面接官になって欲しいVTuberランキング』などと言うものが作られていた。内容は下の通り。


1位:一二三嬢

2位:小春嬢

3位:フィリップ

4位:昼女嬢

5位:いろは

6位:瞳

7位:一姫嬢

8位:私


 何と私が最下位だった。それぞれ投票により選ばれていて、理由も追記されている。例えば一二三嬢は『外部コラボにも積極的に参加していてコミュニケーションが上手く、親身になって話を聞いてくれそう』とか、フィリップなら『とにかく話題が尽きなさそう。面接の雰囲気が賑やかになれば受かるチャンスがある』とか。私と一姫嬢はどちらも『厳しそうなイメージ』という理由で得票数が低く、一位の差を分けたのは『先生のほうが場馴れしていそうな分基準が高そう』という理由だ。まあ面接を受ける本人からしてみれば、推しに会える方が嬉しいという事もあってあまりランキングは意味を為していないが。


 ちなみに、何故こんなことを調べたかと言えば雑談のネタになるからである。流石に面接の様子などは言うことは出来ないが。


「まあ小春ちゃんの言葉を聞いてると、別に面接官が誰でも不平等では無さそうだね」

「何なら私、皆さんのイメージと正反対かも知れません……」

「単純に非公式の前評判だから気にすることは無いと思うぞ。『前評判と違いました!』なんてクレームは来ないだろ」

「そうだね。……さあ、そろそろ時間だよ」

「じゃあ用意しましょうか」

「面接官が遅刻なんて笑えないからな」


 話をしていると、そろそろ昼休みは終わりの時間になる。部屋は別では無いが、それぞれ部屋の隅の方に用意されたPCの前に座り音声を入れる。二人の声が聞こえるのはご愛嬌だ。それぞれの面接ではノイズとして処理されることは確認済みである。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……とまあ、こんな感じですね。面接の内容について詳しくはお話できませんが」


[ほーん]

[まさか公式が面接官ガチャについて言及するとは]

[相変わらずコンプラがしっかりしてるのかガバガバなのか……]

[二期生はやっぱり裏でも仲いいよなぁ]

[最初に告知が出たときは心配したけど、結構考えられてるんだよな]

[期待できそうな人は居た?]


 夜の雑談枠。帰宅してから配信用意や食事を済ませた結果、開始時間は深夜0時を回っている。普段は20時から枠を用意しているからか、同接は普段より少ない。


「期待出来そうな人……ですか」


 私は少し言い澱む。私とて、書類選考や面接に参加をして「これは」と思う人も数人居た。その中には二次面接を通過した面々も居れば、していないこともある。期待出来そうな人といえば、彼らのことだろう。しかし、ここで話題に上げてしまうのはフェアではないとも言える。


「……それについては、私が個人的にデビューして欲しいと思っている人は居ます、としか」


 結局、当たり障りのない答えしか返すことは出来ない。


「まあ、もう少しで二次面接の結果がメール宛に送信されます。一次でも申し上げましたが、参加した方は是非確認してくださいね」


 話題が途切れたタイミングで私はコメントに目を向ける。普段よりも勢いの少ないコメント欄では、普段気づかないコメントもそこそこ隠れているものだ。配信後にコメントを見返して、その時に何故取り上げなかったのかという面白いものもそこそこにある。

 勿論、それは好意的なものだけではない。普段は押し流されてしまうような否定的なコメントも同じく目に入る。今日で言えば、私が『二次面接で面接官になって欲しいVTuberランキング』について言及したことについてや、そもそも所属VTuberでありながら面接官として判断する立場に立っていることなど、それらについての否定的な意見も稀に流れる。


「……先生、ランキングで最下位になってることを気にしててワロタ、ですか」


[3期生、結構期待が上がってるよな]

[ちょっと待て!]

[草]

[何でわざわざ燃えそうなコメントを拾うんだよw]

[やっぱりコンプラガバガバで草]

[普通スルーするだろw]

[晒し上げになってて草]

[やめて差し上げろ]

[秤とコラボしてから遠慮が無くなってて草]


「まあ、先程も言った通り参考になったのは嘘では無いですが……。それはそれとして気にしますよ、やっぱり」


 先程よりも流れが早くなったコメントを後目に、私は話題を広げる。


「私って、傍からはそこまで厳しそうに見えますかね?」


[そりゃまあ]

[厳しいっていうかストイックな感じ?]

[わざわざアンチコメ拾うあたり、結構苛烈だよな]

[メンヘラみたいなこと言い出してて草]


「コメントでもどちらかと言えば厳しい方に傾いてますね……。3期生がデビューしてから怖がられないように、何かしらの対策を考えないといけませんね」

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