二期生コラボ③
私は、一段落したところで1度、用意していたお茶を飲んだ。コメントをみると[めちゃくちゃ褒められてて草][あまりにも自然な宣伝、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね][聞いてる俺らも恥ずかしいんだが……。先生キザだな]など書かれている。
『あ、あの、先生。昨日から、何で私を照れさせようとするんですか……』
「おそらく配信を見ている人はこういうのが好きなのかと思いましたので」
[草]
[バレてーら]
[養殖てぇてぇ]
[正直先生には助かってる]
[先生、褒めて伸ばすタイプだな]
『もう!私だって先生を照れさせます!』
『小春ちゃんには無理そうだよね』
『昼女ちゃん!?』
むむむ、と小春嬢がむくれてるのが通話越しでも想像できる。なお、私には小春嬢を照れさせるつもりは少ししかなかった。決して撮れ高になるとか考えては居ない。
『ここまで小春ちゃんが褒め殺されてるのを見ると、私も緊張するね』
「あ、昼女さんは褒めるところがないので安心してください」
『えっ!?酷い!』
さて、そんな雑談をしつつも、私は昼女嬢との顔合わせを思い出す。昼女嬢の自己紹介は最後だった。
「それでは香取さん。自己紹介をお願いします」
マネージャーは私と小春さんの会話が一段落したところで、もう一人……先ほどの茶髪の女性に言った。
「はい!初めまして、竹浪昼女の中の人、香取葵です。先生に小春ちゃんの後だと緊張しちゃうね」
「先生?」
「小春ちゃん?」
私と小春嬢が面食らう。
「そう。先生は先生だから、先生。小春ちゃんは可愛いから小春ちゃん。あ、私のことは呼び捨てでもちゃんづけでも良いよ!」
「いきなりちゃんづけ……お、恐るべし、コミュ強」
平然と答える昼女嬢に、何故か恐れ戦く小春嬢。会議室はそこそこに混沌としていた。
「私は二人ほど考えてここに来た訳じゃないの。配信をしたら、きっともっとたくさんの人と仲良くなれると思ったから、ここに来ました」
昼女嬢は続けて、好きなものややりたいことを話していく。
「私は歌うことが好き。いつか小春ちゃんには伴奏をお願いしたいな」
「え!?……わ、私はそこまで上手くないって……」
「なら、私と一緒に練習しよ!あ、先生は何か楽器できる?」
「楽器、ですか。ギターなら少々出来ますが、私もそこまで上手くは無いですよ」
「いいね!そのうち三人でバンド組もう!あと、私は可愛いものが好きかな。小春ちゃんとか」
「え!?」
昼女嬢は、話し上手だった。小春嬢や私を巻き込んでどんどん話を広げていく。なるほど、昼女嬢は配信者に向いているのかもしれない。
三人の自己紹介が終わると、デビューするに当たっての注意などをマネージャーが話し、解散となった。と言っても、私達はすぐには帰らなかった。と言うのは、昼女嬢の「せっかくだし、これからご飯行かない?」と言う発言に私が「良いですね」と返し、小春嬢が押しきられたからだ。
「次は昼女さんの第一印象ですね。昼女さんは話し上手な感じでした」
『へー、ありがと!』
『そうですね。私もビックリしました。昼女ちゃん、初対面なのに名前で呼ばれたし、打ち合わせの時も私が話に混ざれないようなことが無いように話を振ってくれるし』
『うー、小春ちゃんの言う通り、結構恥ずかしいかも。ちょっと暑くなってきたよ』
[昼女ちゃんも照れてるw]
[二期生仲良いな]
[先生の一歩引いた感じが良いね]
私の話に、コメントが反応する。私の予想とは違い、小春嬢や昼女嬢が私と絡むのを嫌悪する人も居ないようだ。
「昼女さんの凄いところは、アウェーな人が出ないように話せるところでしょうか。話しながらでも周りを見て、話しに入れない人が居たら話を振ったり、話題を変えたり。私も見習わないといけませんね」
『先生が私よりも話すようになったら、私の良いところがなくなっちゃうよ!』
「そんなことは無いですよ。昼女さんは名前の通り、太陽のように明るいですから」
『?名前の通りって、どういうこと?』
「ヒルメ、と言うのは日本神話の天照の事ですよ。ですから、名前の通り」
『へー、そうなんだ。やっぱり先生は詳しいね』
「後は……」
私が話を終えると、昼女嬢は『ありがとう!でも恥ずかしい』と返した。
「それでは、小春さん。用意は出来ましたか?」
『はい。大丈夫です!お二人の第一印象は……』
私は時間を確認しながら、小春嬢に話を回す。最初の質問だけで既に十分ほど時間が過ぎていた。マネージャーの言う通り、延長することになるだろう。
『お二人の第一印象は、どちらも話が上手いな、と。私は知っての通り、話が苦手なので……』
「まあ、それに関しては私は職業柄と経験がありますから。小春さんもこれから上手くなりますよ」
『そうそう!私達は嫌と言うほど喋らなきゃ』
『うう、自信無いです……。あ、先生はとっても物知りですね。昼女ちゃんは……』
小春嬢も、どうやら緊張は解けてきたようで、生き生きと話を始めた。
『昼女ちゃんは、結構怖がりなんです。さっきはホラーゲームやろうとか言ってましたけど。この前、デビュー前なんですけど、夜なのに怖い映画見て私と先生に通話掛けてきたんです』
『あー!小春ちゃんの、ストップ!』
『だめです。さっきのお返しですから。それで、怖くて眠れないから付き合ってって言って、結局朝まで話してたんです』
「ああ、そんなことも有りましたね。意外な一面でした」
『先生はこんなこと言ってますけど、昼女ちゃんが怖がるって判ってて怖い話ずっとしてましたね』
『そうそう!しかも話し方も怖いの』
「それも職業柄ですね。修学旅行前とか、生徒が浮わついていて、授業に集中できない時はそんな話をするんです」
[へー、先生って大変だな]
[そのうち配信でやって欲しい]
[昼女ちゃんが怖がってるのにそんな話するなんて、結構意地悪だなw]
[怖がってる昼女ちゃん……アリです]
[これはいよいよホラゲー配信が楽しみだw]
[一晩付き合うって、小春ちゃんも先生も優しいな]
[小春ちゃんら二人と話すときは緊張しないね]
小春嬢の話に、コメントが反応する。
『二人の第一印象はそんな感じです』
『小春ちゃん、絶対ホラーゲーム配信やろうね』
『なんでですか!?』
『私だけ怖がりって思われるのも悔しい!先生も、絶対驚かせるんだから!』
「期待してます」
小春嬢の話も一段落した。同接-同時接続者数-をチラリと見ると、五千人を越えている。コメントも、初配信では無かった名前が増えている。こうなると、初配信の反省は、初配信を見ていない人には受けないかもしれない。小春嬢と昼女嬢に、トークアプリで[初見の人が増えています。反省は巻きでいきましょう]と連絡し、「それでは、本題の反省にいきましょう」と言う。二人からは、それぞれ[わかりました][おっけー]と返信が来た。
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