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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第4章『三期生』
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面接②


「さて、ひとまずお昼休憩にしましょう」

「はい、お疲れさまです」

「諏訪さんは先程も申し上げた通り、申し訳ないですが外出は控えていただけると……」


 さて、予定通り面接は進んだ。想定していた三十分を過ぎることこそあれ、一回目を前倒ししたのもあり全体的に早めに四人目までを終えた。時間は既に12時を少し過ぎた所で昼食となる。

 前もって言われていた通り、私は昼休みだからといって外に出ることは出来ない。これは面接を終えた人と定食屋やコンビニでばったり出くわさないようにという理由だ。普通なら余程のことがない限り、私と諏訪美旗を結びつける人なんて居ないだろう。しかし、念には念を入れてと、私は予め用意されていたコンビニ弁当を温めて食べることになる。


「いやぁ、昨日までは複数人いらっしゃったので、そこまで寂しいことにはならなかったんですが」

「いや、私もコンビニ弁当を持ってきているんだ。美旗君、一緒にどうだい?」


 てっきり一人になると思っていた私に社長が言う。どうやら私一人では寂しいだろうと気を遣って居たようだ。岩田君と天神嬢は近所の定食屋に行くと外へ。私と社長はスタジオに残った。


「そう言えば、君と私だけで話すことはあまり無かったよね」

「そうですね。しっかり話すのは面接の時以来でしょうか」


 スタジオの端に置かれた長机をセッティングしながら話す。


「ピンと来たような人は居たかな?」

「……最初の人、甲斐さん以外はあまり」

「ふむ。理由を聞いても?」

「……似たようなキャラの人が他の事務所にいらっしゃるんです。その不利を覆せるような強みが感じられなかった、といった所ですかね」


 机の移動が終わった。二人で並ぶように椅子をおいて、弁当の封を開く。


「……それは、世間的にという事かな?それとも、VTuberの諏訪美旗として?」

「特に意識はしてませんでしたが、多分諏訪美旗としてだと思います」

「では、最初の男性……甲斐君はそんな強みが有ったと。私が話を聞いていた限りでは、あまりパッとしなかったように思えた」


 私は蕎麦の汁を容器に入れながら、甲斐君と話していた時のことを思い出す。


「何と言いますか、彼は底が知れないと思ったんですよ。話し方、言葉選びが単純に上手でしたね」


 最初こそ緊張があったせいか、硬い話し方をしていた甲斐君だが、一度場の雰囲気を掴んでからは、饒舌でこそ無いもののしっかりとした受け答えをしていた。それこそ、質問への模範解答を予め用意していたように。岩田君や天神嬢との問答を聞いていると、上手く会話を誘導しているような印象を受けた。それについて質問をしてみれば、「高卒で就職してからは、幾つかの企業に転職しました。その中で面接の受け答えの仕方ですとかが鍛えられたのかもしれません」という答え。


「うーん。言われてみれば受け答えが上手かった。ああ、私や岩田君達も彼を三次まで進めようと思っている」

「彼なら2ndstreet以外でも活躍できる人材だと思います。それを逃してしまうのは、勿体ない。まあ3期生の枠も決まっているようですから、他にも魅力がある人が居ると難しいかもしれませんが」

「はは、そこは大丈夫だ。必要とあれば枠ぐらいいくらでも増やすさ」


 ここまで話したところで、昼休みの時間も残りが少ないことに気づく。お互い、一度話は置いておいて食べるのに専念した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『失礼します!』


 あれから数十分。午後の面接が始まった。私は先程と同じく防音スタジオから、他の三人は会議室に居る。

 入ってきたのは女性……と言うか少女だった。名前は高梨胡桃たかなし くるみ。資料を見ると、高校3年生らしい。

 この名前には見覚えがあった。私が書類選考をした中での最年少。応募書類ではなく、添付されていた動画を見て二次面接まで上げることを決めた少女だ。動画は短く、他の動画が十分程度の物なのに対してたったの五分ほど。洋楽を流暢な英語で歌い上げていた、それだけの動画だ。自己アピールには中学までイギリスに居たと書かれていた。


『さて、高梨さん。……高梨さん?』


 少女は部屋に入ってすぐにフリーズする。座るように促そうとした天神嬢が心配そうに呼びかける。


『あっ、ごめんなさい!』

『いえ。どうぞそちらにおかけ下さい。体調が悪いようでしたら、言ってくださいね』

『あの、体調は万全なんですが……』

『男性が多いからね。ほら、岩田君もそんな怖い顔をしない』

『ちょ、社長。これが僕の普段顔ですよ!……そんなに怖いですかね?』

「岩田さん、私は岩田さんの顔は味があって良いと思いますよ?」

『諏訪さん、それ褒めてないですよね!?』


 高梨嬢が椅子に座った所で、社長が戯けたように言う。岩田君もそれに合わせて冗談交じりに言う。最後の方は本気で凹んでいるような雰囲気が有ったが。そんな私達を見て、高梨嬢の緊張も解れたようである。


『さて、今日の面接の最初の質問は諏訪さんがしていますから、どうぞ?』


 岩田君が私に言う。私が甲斐君にした質問は面接の掴みに合っていたようで、今日は計5回目の同じ質問になる。相手が答えにくそうにすれば冗談交じりに緊張を解き、しっかりとした答えがあれば評価はプラスになる。


「では、高梨さん。私達2ndstreetでの推しは誰ですか?」

『……です』

『ごめんなさい、高梨さん。しっかり聞こえなかったのでもう一度良いですか?』

『……その、先生です』


 少し俯いて高梨嬢が答える。


「……私ですか?」

『良かったですね、諏訪さん!5回目にして初めて貴方の推しですよ!』


 岩田君が私に言う。それに社長が「美旗君、君までフリーズしてどうするんだい」と言い、天神嬢が「ちょっと、社長!諏訪さんは今日初めての自分の推しに感動を噛み締めてるんですか、そっとしておいてあげてください!」と合いの手を入れる。


「それは、ありがとうございます、で良いのでしょうか?」

『わ、私としては寧ろ先生がこの世に居てくれてありがとうございますと言うか、お会いできて嬉しいですと言いますか、その、えっと……』

「はい、落ち着いてください。高梨さんは私の推しということですが、残念ながら私の一存では今日は合格に出来ないんですよ。なので、こっそり応援はしてますね」

『あ、ありがとうございます!……私、今日は何でも出来そうな気がします』

『それは何よりです。では質問を始めますね』


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