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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第4章『三期生』
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面接①


「美旗君、今日はわざわざありがとう。この前も書類選考を手伝って貰ったのにね」

「気にしないでください。実は私も楽しみにしているんです」


 2ndstreet事務所。私と2ndstreetの社長――山田貴明は防音スタジオの中で話していた。予定の時刻に5分ほど早く到着した私、一体いつ休んでいるのか毎日のように事務所にいる社長。今日の面接の担当四人、他にスタッフが二人だ。彼らは面接の場所となる会議室の準備をしている。

 今回は私達2ndstreet所属のVTuberが面接に参加することになったが、まさか素顔のままで「こんにちは」というわけにもいかない。私は別室、この防音スタジオから会議室の画面を通して応募者と話すことになる。機材トラブルで面接を台無しにしてしまうのは口惜しいと、スタッフの力の入れようは物凄い。「私達面接官がやるべきことは、相手が自分の最高のパフォーマンスで面接に参加できるようにすることですから。トラブルのせいでテンパってしまったら勿体ないでしょう」と活き活きと話すスタッフには脱帽である。


 さて、今回の2ndstreetの面接について、世間では色々なことが言われていた。その一つが『面接官ガチャ』という言葉。自分の推しが面接に参加する日に運良く面接になるか、同じVTuberでも誰は厳しそうだが誰は優しいだろうとか。

 この面接の一番の特徴はその日その日で面接官一人が確定していることだ。例えばこの日は私、この日はフィリップと言うように。面接を受けるにしても、どういった話をするか、どんな人間として振る舞うか、対策は取れるのだ。そうなると、その日一番の面接を受けた人は不利に、最後の方は有利になりかねない。2ndstreetでは対策として『面接に関わることは二次面接が完了したと2ndstreet公式より声明が出るまでは、誰にも情報を渡してはいけない』とルールを定めた。このルールに違反した場合は、面接の結果如何に関わらず無条件で落選となる。

 案外このルールは応募者のネットリテラシーを知る一つの指標となった。VTuberになれば、表には明かせない情報も少なくはない。デビュー後の情報漏洩のリスクは減るだろう。社長にそんな意図もあったのかと聞いてみれば、「さあ、どうだろうね」との返事。

 既に二次面接が四日目となった今日時点で、40名程がこのルールに抵触して落選となった。勿論これはSNSなどで話してしまったもののみで、隠れて情報を提供している人間も居ないわけでは無いだろう。


 丁度予定時刻になると、防音室にスタッフがやってきた。モニターの設置などを終え、これからの事前打ち合わせの後に最終チェックをしてから面接開始となる。


「これが今日の面接の予定です。大体一人三十分程度で収めるように回していきましょう」

「ありがとうございます」


 胸に『岩田』と名札を下げた男性が私に資料を渡してくる。一日の面接の回数は10回。何とか6千人の応募を千人ほどまで減らしたものの、単純計算で百日かかってしまう。さらに日数を減らすために日によっては3つの会議室をフルに使い、一日30人を捌いている。とはいえ私達VTuberにも配信やその他の予定があるわけで、常に3人が待機することは出来ず、四日目の時点でまだ100人程度しか面接が終わっていない。予定では2ヶ月弱で3次の面接に移る事になっている。


「諏訪さんは一次の書類審査を手伝ってくださったので、なるべく諏訪さんが通した人を回しています」


 隣のもう一人のスタッフ、『天神』と名札を下げた女性が言う。今日時間を取れたVTuberは私だけだったため、社長も私と面接に参加する。これで四人の面子が揃った。時間が惜しいとすぐに打ち合わせが始まる。


「まずは諏訪さんに軽い注意事項をご説明しますね」


 岩田君が口を開く。内容は私達VTuberが面接を通して応募者に逆恨みされない為に、なるべく参加者の味方として面接に臨んでほしいとの事だ。社長も初回で同じお願いをされたようで、黙って頷いている。

 それが終わると、それぞれに対しての質問事項などを詰めていく。


「二次面接で人数を10人程度まで減らしますから、殆どの応募者はここで落としてしまうことになります。だからこそ、お互いに悔いのない時間にしたいと思っています。多少の延長は致し方ないですし、寧ろ想定済みでタイムキープをしています。社長や諏訪さんにも積極的に質問をしてもらいたいんです」

「わかりました」

「では、そろそろ一人目の時間になります。数が多いですから、前倒しで始めてしまいましょう」


 そう言うと、三人はスタジオを出ていった。私は設置されたPCの前に座り、画面を見る。画面は会議室のモニターに付属したもののようで、会議室の一番奥からドアや参加者の座る席に向けて映っている。暫くすると扉が開き、先程の三人が入ってきた。


『それでは、諏訪さん。資料の一番上から順番になります。お一人目は……』


 面接が始まった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



『失礼します!』


 一人目の応募者が扉を開いて入ってくる。服装はスーツで髪や身なりをしっかりと整えた男性。年は私と同じか少し下、二十代といったところだ。

 資料に視線を落とす。名前は甲斐雅人(かい まさと)、年齢は私の2つ下となっている。私が書類選考を行った中にこの名前があったかを思い出そうとするが、記憶にない。恐らく添付された動画を見て通したのか、もしくは私以外が選考をしたのか。

 そのまま読み進めると、学歴と職歴の欄に辿り着く。どうやらこの男性は高卒で就職し、IC関連の仕事に就いたようだ。


『おはようございます。まずは2ndstreetに応募いただき、ありがとうございます。本日の面接を担当します、岩田です』

『同じく、天神です』

『おはようございます。2ndstreetの社長の山田です。今日はよろしくおねがいします』

「おはようございます。ご存知かもしれませんが、2ndstreetの二期生、諏訪美旗です。今日は社長が居たりと中々に豪華な面子ですが……」


 四人の紹介を軽く済ませる。男性は緊張したように自己紹介を返す。


『ほ、本当に2ndstreetの皆さんが面接に参加していたんですね……』

「ええ。ちなみに、私達の中での推しは誰ですか?」

『諏訪さん、この場面で貴方以外の名前は出せないですよ……』


 私の問いかけに苦笑いをしながら天神嬢が言う。それもそうですねと私が答えると、どうやら少し緊張も収まったのか男性が言う。


『その、私はひふみん……楠一二三さんのファンで』

『そうなんですか』

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