天秤秤
念の為に申し上げますが、この作品はフィクションです。特定の人物、団体、その他を侵害する目的で書いている訳では有りません。なお、この回の更新予約をしているのは4月2日です。何かあっても邪推は辞めてください。
私の謹慎が解けた。あれから約一週間、予想通り、本物(と思われる)アカウントと偽物(と思われる)アカウントの間で相互の矛盾から対立が起こり、見るも無様な惨状になっていた。当事者であり被害者である私からすれば、実に愉快な現状である。
小春嬢や昼女嬢からは、毎日のように[大丈夫?]といったメッセージが届き、隔日ペースで雑談の通話もしていた。どうやら、私のメンタルを気にしていたようである。二人は、私がそんなことをする筈はないと、端から疑ってすらいなかった。
「私は何ともないから、気にしなくて良いぞ?」
『いえ、そちらも心配だったのですが……』
『どちらかと言えば、先生の行動の方を心配してたかなー。とんでもない事をしそう』
「失礼な。そんなことはしないって」
……二人は、私を爆弾魔か何かだと思っているのだろうか。流石にこの状況で火に油を注ぐことはしない。……するかもしれない。まあ、謹慎になるかどうかで動きは変わっていただろうから、断言はできない。
先日のメッセージは、無視されるかとは思っていたが、どうやら受けてくれたようである。今日は、そのコラボの用意をしていた。
「皆さん、お久しぶりです。最近、既婚者であるとか実は教員免許を持っていないとか、新しい設定が追加され続けている諏訪美旗です」
[草]
[おかえり!]
[帰ってきた途端不穏で草]
[www]
[気にしてないだろうなとは思ってたが、ここまでとは]
[メンタル超合金で笑う]
「メンタル超合金、響きが良いですね。設定に追加しておきましょう」
[さらに草]
[王水でも腐食しなさそう]
[謹慎明けに問題発言で謹慎になりそう]
[このコメントは削除されました]
[おっ、お客さんいたぞ?]
[初見さんかな?w]
「はいはい、煽らないでくださいね。配信者として一番心配なのは、コメントで殴り合いが起こる事ですから」
コメントがおかえり!という文面で溢れる。リスナーも私に気を使っているのか、アンチコメントを流すようにコメントが増えていく。その文面が煽りにしか見えないのは問題だが。
「まあ、当たり屋に当たられてトラブルも起きましたが、今日からは普段通りに配信をして行きますね」
現在の配信画面は、『復帰記念コラボ』という文面が踊っている。先程から、コメント欄でもコラボ相手は誰なのかと疑問が流れている。あまり焦らすのも良くないと、私はコラボ相手を呼ぶ。
「さて、お相手は誰だと思いますか?ヒントは、最近私と縁があった人物です」
[せーめー?]
[一番ありそうなのはみるくらいぶの新人だよなぁ]
[でも、このタイミングでお相手がゴーサイン出すか?]
[フィリップなら気にせず飛び込みそう]
[フィリップは俺ら以上にアンチ煽りしそうだから無いだろ]
[ごまだんご先生とか?]
[二期生コラボが順当だよなぁ……]
『こんばんは。この世の不条理を量って裁く!個人勢VTuberの天秤秤だ』
「こんばんは。配信でははじめましてですね」
『俺も、まさかオファーが来るとは思ってなかったけどな』
天秤秤が声を入れると同時に、私は画面に立ち絵を表示する。
[!?]
[は?]
[おい企業所属!]
[これは流石にまずい]
[いや草]
[当たり屋に当たってくスタイル]
[メンタル超合金とは、言い得て妙]
[初見です。相変わらずイカれてますね]
[↑初見じゃないだろw]
「と言うことで、今回のコラボ相手の、天秤秤さんです」
『今回は、諏訪美旗を裁きに来た。……アウェー感が凄いな』
「ちなみに、事務所からは許可が出てます。かなり渋られましたが」
『だろうな。真っ当な感性を持ってたらこんな事しないだろ』
「さて、皆さん。彼に思う事もあるかも知れませんが、今回は私のお客さんですから、失礼の無いように」
『なんなら呼ぶこと自体失礼まであるだろ』
彼とは、配信前の一時間ほど通話をしていた。話す限り、やっている事は兎も角としても、なかなかに取っつきやすい人物ではあった。
「本日の配信は、[リアル逆転裁判]でトゥイートしてくださいね」
『おい、諏訪美旗。コメントで、同接十万越えたって来てるぞ?』
「本当に貴方、活動内容以外はマトモですね」