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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第三章『影』
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みるくらじお


 私の軽い炎上から1ヶ月。特に事態は重くなることもなく、直ぐに沈静化した。そもそも根拠に乏しく、殆ど言いがかりに近いそれに、そこまでの話題性は無かったようだ。人の噂も七十五日と言うが、七十五日も持たなかった。

 そんなVTuber界隈を現在賑わせているのは、王姫嬢らの所属する事務所、みるくらいぶの新人の話題だ。前回の新人から約3ヶ月。人数は5人で、うち一人が男性らしい。


「皆さん、こんばんは。はじめましての方も多いでしょう。2ndstreetの二期生、諏訪美旗です」


 さて、何故この話題をピックアップしたのかと言えば、私にも関係のある話だからだ。私は現在、渦中のみるくらいぶ事務所にお邪魔している。


「と言うことで、みるくらいぶ公式週一ラジオ『みるくらじお』。本日のゲストは2ndstreetの諏訪美旗さんです!」


 私の隣には王姫嬢が居り、マイクに向かって話している。何気に、リアルで合うのは初めてである。

 みるくらいぶでは、公式チャンネルで週一回、『みるくらじお』と言う配信を行っている。基本的にはみるくらいぶ内のライバーが持ち回りでパーソナリティを担当しているが、稀に外部のVTuberをゲストにしている。今回は、私に白羽の矢が立った訳だ。


「いやー、今週は私の担当だったんだけど、新人のデビュー前に告知をして欲しいって言われまして」

「では、なぜ私に?王姫さんなら、親しい人は他にも居ると思いますが」

「まあ、それは本題に入ればすぐ解るよ?では、本日のお品書きです」


 配信画面には、[本日のお品書き]という画像が映されている事だろう。私の手元には、台本と共にカラーの資料が置かれている。


「まずは1つ目、そして本題!みるくらいぶ新人紹介のコーナー!」

「はい。来週の土曜日みるくらいぶさんより5人の新人VTuberがデビューします。……私が紹介するのもアレですが」

「気にしない、気にしない。どうやらマネージャー達からは、私の手綱を握れる珍しい人って認識らしいから」

「自覚があるのでしたら、暴走は辞めてください。では、私がお呼ばれした理由も含め、お願いします」


 配信のコメントでは、嬉しいことに私を知っている人も多いようで、親しげなコメントも多い。


「じゃあ、取り敢えずシルエットをバックにお話しましょう。先生は、歴史の先生なんだよね?」

「はい、そうですね。高校の日本史を担当していました」

「今回の新人は、ズバリ日本の過去からやってきた子達です」

「なるほど、過去からのタイムスリッパーですか。それで、私は何を?」

「先生には、それぞれの紹介をしてもらいます。と言っても、本人ではなく、歴史の人物として」

「それなら、私が適任ですね。みるくらいぶさんも、王さんの手綱を握るだけのために呼ばれた訳ではないと」

「うーん、スタッフの人がカンペで『それがメインの理由です!』って言ってるね」

「貴女の信頼度が心配です」


 目の前で機材の調整をしていたスタッフさんが、私に申し訳無さそうに目礼する。私も行く困ったように目礼を返した。


「じゃあ、一人目、厩太子ちゃん。名前からも分かる通り、これは世を忍ぶ仮の姿。実は、飛鳥時代からのタイムスリッパー、聖徳太子なんです!」

「そこで貴女が明かしたら、忍ぶも何も無いでしょう。それにしても、いきなりギリギリのラインを攻められますね」

「ん?どういう事?」


 みるくらいぶさんには、既に今日私が話そうとしている内容は伝わっている。


「聖徳太子は、実在の人物ではありません」

「え、いきなり爆弾が飛んできたんだけど!」


 コメントでも、学校で習うのに?と言った疑問が出ている。正確に言えば、聖徳太子と言う名の人物は居ないと言うのが正しいのだろう。


「高校の日本史の授業を受けて、聖徳太子は『厩戸王』と言う名前に変わることに疑問を持った人も多いと思います」


 聖徳太子とは、厩戸王(当日そう呼ばれていたと推定される)に後世で与えられた号である。何故わざわざ当時に呼ばれていた名前で教えられるかと言えば、人々のイメージする『聖徳太子』と厩戸王の実際の功績が噛み合わない為である。例えば冠位十二階は当時有力者であった蘇我氏の権力を背景に行われ、彼一人の功績とは言えないものの、人々は聖徳太子の功績として認識している。このようなギャップから、専門的に日本史を教える高校からは厩戸王と言う名前で扱われるようになったのだ。


「あれ、じゃあ何で中学までは聖徳太子のままで教わるの?」

「中学生に厩戸王なんて難しい漢字で教えられるか、と言う理由ですね」

「なるほど」


 ……みるくらいぶからのゴーサインは出ているが、本当にこんな話をしても良いものだろうか。


「早速ズッコケちゃったけど、次に行こう!」


 気を取り直すように、王姫嬢が言う。


「次は二人目。安倍晴明君!何と、平安時代では陰陽師をやっていたらしいよ!」

「これまた……」

「え!?安倍晴明も何かあるの?」

「そもそも、陰陽師は妖怪退治の仕事ではありませんよ?」


 陰陽師とは、古代朝廷の陰陽寮に所属する官人だ。本来、天体を観測し、暦や祭事の日付を設定する仕事である。


「え、妖怪退治しないの?」

「暦は、奈良時代から体系が作り上げられたので、平安時代になると陰陽師は暇になります。そうすると、貴族の物忌や怨霊騒ぎに引っ張り出される訳です」


 歴史学では、怨霊の研究が分野として存在する。と言っても、本当に怨霊が存在すると考えられている訳ではなく、疫病何かを出汁に、政権に人々が不満をぶつけるのだ。


「安倍晴明は実際には妖怪退治はしていません。後世、土御門家が先祖である安倍晴明の英雄譚を作り上げたものが、我々のイメージとして定着をしただけです」

「……なんか、ごめんね?清明君」


 本当に大丈夫だろうか、この企画。

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