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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第三章『影』
42/78

騒動は、終わったかに思えて


 私は、男性と温泉を上がった。


「いや、長話に突き合わせてしまって申し訳ない」

「いえ、気にしないでください。私も楽しかったので」


 タオルで軽く体を拭き、浴場を出る。


「そう言えば、私の家内も一緒に来ているんですよ。もしかしたら女湯でお連れさんに会ってるかも知れませんね」

「そうだったんですか」


 男性と私は、持ってきていた服を着て、更衣室を出る。外の待合室には一人の女性が居た。


「あら、あなた。そちらの方は?」

「お待たせ。この人は、男湯で一緒になった人だよ。お兄さん、ご紹介します。私の家内の鶫です」

「はじめまして」


 どうやら、男性の話に出てきた女性のようだ。男性が私を紹介し、女性が私に挨拶をしてくる。私も挨拶を返し、しばらく3人で話す。


「そういえば、あなた。男湯はその人だけだったの?」

「そうだね、僕と彼だけだったよ。どうして?」

「ふーん、この人が……。いえ、気にしないで」

「私の連れが女性なので、女湯で会っているかも知れませんね」

「それって、女の子二人よね?活発そうな子と、静かな子」

「ええ、その二人です。どうやらお世話になったようで」

「いいえ、若い子と話せて私も楽しかったから」


 女湯の暖簾が揺れる。中からは、小春嬢と昼女嬢が出てきた。二人とも、ほんの少し頬が赤らんでいる。どうやら、温泉を楽しんできたようだ。心做しか昼女嬢の顔が晴れ晴れとしている。


「あ、先生!お待たせ!」

「お待たせしました」

「いえ、私も今上がったところだから」


 二人は、私と話していた女性を見て、声をかける。


「あっ、さっきのお姉さん」

「あら、さっきのお嬢さん達。やっぱり、このお兄さんと一緒だったのね」

「そうなんです。そちらの方が?」

「ええ、私の主人」


 どうやら、温泉で惚気けられたのは私だけでは無いようだ。しばらく、5人で話をする。


「そう言えば、さっきお嬢さん達には言ったのだけど、私と主人、この辺でバーを開いていて」

「ああ、そうなんですよ。このあと、お時間があればいかがですか?」

「そうだな、どうしようか?」


 二人のお誘いにも小春嬢達の方を見る。昼女嬢は、確か今日の夜も配信をすると言っていた。


「私は大丈夫ですよ」

「うーん、私も行く!」

「では、ぜひお邪魔させて貰えれば」


 どうやら、昼女嬢も行く気のようだ。私は昼女嬢に耳打ちをする。


「……昼女、配信は?」

「……告知はしてないから大丈夫。今日はお休みにするって、後でトゥイートしとくね」

「……なら、大丈夫ですね」


 どうやら、昼女嬢も何か思うところがあったようだ。雰囲気が明るくなった気がしたのは、気のせいでは無いのだろう。ひとまず、小春嬢の企画は成功のようだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 竹浪昼女@2ndstreet二期生


 みんな、今日は配信をお休みにします。楽しみにしてくれてた人は、ごめんね!


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さて、あれから数時間。私達はバーを出て車に乗り込む。

 私はハンドルキーパーなのでノンアルコールで、二人はカクテルを楽しんでいた。


「じゃあ、動くぞ。シートベルトは?」

「大丈夫です」

「おっけー!」


 帰りの高速も空いていて、行きと殆ど同じ時間に都心まで帰ってこれた。途中の道の駅では2ndstreetの事務所にと、いくつかのお土産を購入した。


「あのね、先生、小春ちゃん。お願いがあるんだけど……」

「何でしょう?」

「私達ができる事であれば」


 車の中。ふと、昼女嬢が言う。バックミラー越しに映る昼女嬢の顔は、暗くてよく見えない。しかし、申し訳無さそうに、しかし明るい声で言う昼女嬢の声を聞くと、彼女の暗雲はすでに払われたのだろう、と想像できた。


「私達がデビューした時に、私が言ったこと、覚えてる?」

「一緒にバンドを組もうって話ですか?」

「そう。先生、私に曲を作るって、出来る?」

「それなら」

「小春ちゃんには、それの伴奏をして欲しいの」

「良いですよ」

「ありがとう!じゃあ、後で相談するね!」


 そのような話をして、私は二人を送って帰路についた。

 斯くして、昼女嬢の件は何とかなった。しかし、2ndstreet全体へのアンチ問題は解決していないのも確かだ。VTuberという、世間に露出する機会の多い職業に取って、アンチ問題は常につきまとう。有名税といえばそれまでだが、これから2ndstreetが大きくなるにつれ、ただ過激化するのを傍観は出来ない。私は、とある企画の構想を練りながら、布団に入った。

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