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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第三章『影』
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温泉と男性


 あれから数時間。鬼怒川温泉に着き、昼食を終えた私達は、とある温泉宿に来ていた。


「はい、日帰りで入浴を」

「かしこまりました。お支払いはお帰りの際になります。タオルなどは?」

「そちらもレンタルでお願いします」


 手早く受付を済ませ、私達は男湯と女湯に別れる。青い暖簾をくぐると、平日で貸し切り状態だった。手早く体を洗うと、湯船に浸かる。

 40度前後のお湯が満々と湛えられた湯船は、私が入ることで少しお湯が溢れる。そのまま肩まで浸かると、私は一息を付く。


「さて、昼女さん、少し心配ですね」


 小春嬢に、この温泉旅行の前に少し話を聞いた。どうやら昼女嬢は、何もない日にも事務所の防音スタジオを利用して歌の練習をしていたようだ。

 私としては、昼女嬢の歌は上手いと思う。基本的に明るい曲を好む昼女嬢の歌い方は、はつらつとした感じだ。かと言って、『偶像太陽神縁起』のようなダウンテンポな曲が苦手というわけでもないようで、時には歌枠でも歌っている。歌ってみた動画にも様々なコメントが付いていたが、あまり否定的なものも無かった。

 では、昼女嬢をここまで追い詰めるのは一体何なのだろうか。

 人間関係?いや、違うだろう。昼女嬢は人当たりも良く、明るい。人見知りの小春嬢とあそこまで早く仲良くなれる昼女嬢に限ってそれはない。

 ふと、思い当たる節があった。それは、私の登録者数が十万人を超えた頃からのこと。一姫嬢に続き、二番目に十万人を突破したのが私だったことで、フィリップ達に煽りが来たと聞いた。それは、[後輩に追い抜かれた気分はどうですか?]と言った、フィリップ達曰く「下らないもの」だったようだ。

 恐らく、小春嬢や昼女嬢にも似たようなコメントは来ているのだろう。無下には出来ない視聴者の言葉。彼らからすれば何気ない一言かもしれないし、あるいは悪意もあったのかも知れない。


「隣、良いですか?」


 ふと声をかけられ、我に返る。私と同年代の男性が、私の近くに腰掛けた。考え事をしていた間に、誰かが入ってきていたようだ。


「天気良いですね。ご旅行ですか?」

「ええ、はい。友人と仕事の息抜きに、と」

「それは。私、この辺に住んでいるんですが、良いところでしょう」

「とても。空気が綺麗ですし、窓からの景色も良い」


 男性と話が弾む。どうやら、この辺に住んでいるという彼は、都会での仕事に嫌気が差し、Uターンするように帰郷したらしい。


「私、結婚しているんです。すこし、家内の惚気話に付き合って頂けませんか?」


 どうやら、男性は仕事の同期の女性と結婚し、帰郷したようだ。


「これが、私には勿体無いほどの女性で、仕事の成績も同期でトップクラスで。料理も美味しいし、家事も得意で」

「それはそれは」

「で、彼女が仕事で一度、悩んでいたことがあったんですよ」

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