表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第三章『影』
39/78

道中


 昨日、小春嬢から連絡があった。


青山小春[あの、先生。今、通話しても良いですか?]

諏訪美旗[大丈夫ですよ]


 数十秒で着信音が鳴る。


『夜遅くにごめんなさい……』

「いえ、気にしないでください。どうしましたか?」

『その、昼女ちゃんの事なんですが……』

「ああ、なるほど。それで、私は何をしましょう?」


 基本的に、私たち二期生がアクションを起こすときは、小春嬢が陣頭に立っている事が多い。私の5万人記念の最後を企画したのは小春嬢だった。今思えば、小春嬢が凸待ちを私に勧めたのは、あの企画を通すためだったのだろう。


『あの、恐縮なお願いなのですが、お車を出して頂けませんか?』

「わかりました、良いですよ。目的地は決まってますか?」


 即決する。小春嬢の事だ。自分がどこかに出掛けたいからとか、そんな理由では無いだろう。恐らく、昼女嬢の気分転換でも、と考えたのだろう。

 私としても、昼女嬢は大切な同期だ。断る理由もなければ、必要も無い。


『あの、本当に良いんですか……?急ですし、先生もお忙しいでしょうし……』

「気にしないでください。私も、少し気分転換に出掛けたいと思っていたところですから」

『ありがとうございます!では、場所なのですが……』


 小春嬢から目的地を聞いた私は、軽く下調べをして翌日に備えた。


「おはようございます、先生!今日は本当にありがとうございます」

「おはよー、先生。今日はありがとう!」

「気にしないでください。さて、ロータリーでずっと車を停めるのも迷惑ですから、乗ってください」


 集合時刻は朝の8時。都心からは少し離れた駅のロータリーが待ち合わせ場所だった。とは言え、通勤の往来は多く、バスも多い駅前でずっと車を停めるのも宜しくないと、小春嬢と昼女嬢を招く。


「先生の車に乗るの、初めてだね!」

「昼女ちゃん、シートベルト締めて!危ないから」

「小春さん、お姉さんみたいですね」

「いいね、それ!ね、小春お姉ちゃん?」

「先生、からかわないでください!昼女ちゃんも乗らない!」


 雑談しながらも、二人がシートベルトをしたことを確認し、車を発進させる。駅から離れると、車通りも少なくなった。


「それでは、高速に乗ります。朝早いので、お休みになってても構いませんよ」

「流石にそれは……」

「私達で賑やかにするね!」


 高速に入ると、平日なこともあってかそこまで混んでいない。2時間ほどで目的地には到着しそうだ。


「そう言えば、先生。私達にはフィリップ先輩達と同じように話してくれないの?」

「その話ですか……」

「小春ちゃんも気になるよね!」

「わ、私ですか!?その、少しだけ……」

「ですが、あの話し方だと少し怖くないでしょうか」


 大学生の頃、私はフィリップ達と話すような口調で普段も過ごしていた。が、周りからは話しかけにくかったようで、授業で仲良くなった人以外とはあまり会話しなかった。

 教師になってからは、常に丁寧な口調を心がけ、2ndstreetに入ってからもそれは変わらなかった。

 怖いのではないか、という問いかけに、昼女嬢は答える。


「うーん、初対面であれだったら怖いけど、先生は優しいって知ってるからね」

「……そうですか。小春さんも?」

「……私も、怖くは無いです」

「ほらほら!じゃ、先生。3、2、1、キュー!」


 やけに押しの強い昼女嬢にキュー出しされ、私も腹を括る。


「この口調だと、呼び捨てになるぞ」

「先生、先生!私の事呼んでみて!」

「……昼女」

「あの……、私の事も呼んでもらえませんか……?」

「……小春」


 せめてもの抵抗も意味をなさず、寧ろカウンターを食らう。昼女嬢は後部座席で荒ぶり、小春嬢は口元を抑えて下を向く。


「あの、やめても良いですか?」

「だめ!」

「だめです!」

「即答ですか……」


 話をしながらも車は順調に進み、埼玉に入って東北道に移る。今日の目的地は鬼怒川温泉だ。日帰りで昼女嬢の息抜きになるような場所として小春嬢が選んだ。と言っても、そこに男性である私も誘う小春嬢の無防備さは心配だ。まあ、そこまで私を信用しているのだとすれば、嬉しい限りである。


「もう9時だな。一度休憩にしようか」


 パーキングエリアの標識を見て、二人に声をかける。この口調も慣れてきた。同意の答えを聞いて、ウインカーをつけてパーキングに入る。平日のせいかそこも空いていて、直ぐに停めることが出来た。


「やっぱり、空気が綺麗ですね」

「そうだね!あ、コーヒー売ってる」


 昼女嬢がパーキングの珈琲店に私達を連れて行く。メニューはブレンドコーヒーから豆乳ラテなど、様々な物が並んでいる。


「先生は、私が奢りますね」

「私も出すよ!先生には運転してもらってるしね」

「いや、そこまでしてもらう訳には……」

「はいはい、文句禁止。どれが良い?」

「ありがとう。じゃあ、ブレンドを」

「では、私もブレンドにしますね。昼女ちゃんは?」

「私はカフェラテ。はい、三百円」

「それでは、ブレンド2つとカフェラテ1つお願いします」

「かしこまりました。六百円丁度、頂戴します」


 朝から仕事の店員さんに、3人で「お疲れ様です」と声をかける。コーヒーが入るまでの間に、店員さんが声を掛けてくる。


「皆さん、ご旅行ですか?」

「そうですね。少し温泉に」

「良いですね。何処ですか?」

「鬼怒川温泉です」

「ああ、そこなら、お客さんに聞いたんですが、良いお蕎麦屋さんがあるらしくて」

「へー、どこですか?」


 店員さんの話を聞き、昼食の場所が決定する。その後トイレなどを済ませ、車に乗り込むと鬼怒川を目指した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ