偶像
ドラマツルギー。人は舞台役者であると誰かが言った。誰しもが人の理想を押し付けられ、それに縛られている。
「あなたは天才ね!」
私を最初に縛り付けたのは母親だろう。
「君は本当に理解が早いね。しかも人付き合いも得意だ」
そんなことを私に言ったのは小学校の先生だったか。
「ねえ、あなた人前で話すの得意でしょ?発表任せたよ!」
クラスメイトはそう言った。
「お前は努力の天才だ!将来は学校の先生かな?いや、弁護士にもなれる。医者だって夢じゃない!」
中学校のテストで学年一位を取った私に父親はそう言った。
どれも、私を褒めるつもりで言ったのかもしれない。いや、クラスメイトは違うか。私はそんな言葉に縛られた。
天才で在れ。陽キャで在れ。秀才で在れ。そんな言葉をかけられる度、私は努力した。もともと、勉強も運動もコミュニケーションも得意じゃない。でも、周囲は私にそう求めてくる。幸運なことに、処世術は得意だったようで、私の周りにはいつも人が居た。
まるで檻のように。
人は自由だとか、そんなのは嘘っぱちだ。自由になるには社会的地位が要る。社会的地位は努力しなくては手に入らない。
PCを立ち上げる。今日の定期配信の時間だ。継続は力なり。VTuberに取っての力は登録者数だ。忘れられてしまう、そんな恐怖に怯えるくらいなら毎日配信する方が楽だ。
本当は見たくないアンチコメントも目に入ってしまう。歌が上手くない?知っている。だから練習するのだ。
最近は自炊もしなくなった。時間が無いのだから。カップラーメンやコンビニ弁当の残骸もシンクに溜まっている。そろそろ片さなくては。
同期の二人と私の登録者数を見比べる。明確な強みを持った二人に対して、私の登録者数は伸び悩んでいる。もっと頑張らなくては。
そう、もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。
ふと、メッセージアプリの通知が来る。
青山小春[こんばんは。明日、時間はありますか?]
青山小春[私と、お出かけしませんか?]
私は、少し悩んでから返信を返した。
竹浪昼女[夜は配信あるけど、お昼なら大丈夫!どこ行こうか?]
私は、『太陽神』なのだから。
お読み頂きありがとうございます。
第三章は、私がこの話を書き出すに当たって、最初から構想を練っていたものです。叙述トリック、好きなんですよね。影響を受けたのは入間人間先生の『たったひとつの、ねがい。』でしょう。