2ndstreetオフコラボ③
8人がそれぞれの話を終えた。次は、私達シェヘラザードの曲についての話になるだろう。
「それでは、最後にシェヘラザードの曲についてですね。オープニングのミーティングは全員来てたので、そちらからにしましょうか」
「美旗、酒が無くなったから取ってきても良いか?」
「フィリップ、流石に飲みすぎだ」
「美旗先輩も結構飲んでるけどねー」
「今飲んでるお酒、度数どれぐらいですか?」
「40度ですね。今日はレミーマルタンのエクストラです」
「よく酔いませんね」
話を始めようとすると、フィリップが声を上げる。自分の酒が無くなったと言いつつも、おそらく周りのグラスも確認してから言っている。こういう場面では気が利くのがフィリップの良いところだ。
[もう2時間はたってる]
[時間が過ぎるの早いよなぁ]
[俺はここで落ちるわ]
[酒持ってこよ。明日平日だけど]
コメント欄も、落ちる人と見続ける人で別れている。既に時間は0時を回り、夜も遅くなってきている。
「ビールもらうわ」
「私はほろ酔いで」
「先生、牛乳頂きます」
冷蔵庫からビールを取り出すフィリップに、小春嬢の分のほろ酔いも取り出す昼女嬢。こういう場面では気を使う一姫嬢は、牛乳と言いつつ、中にウイスキーを入れている。数分で全員分の飲み物も揃い、本題に入る。
「では、シェヘラザードの話に移りましょう。ご存知無い方に、いろは、説明を」
「はいはーい。シェヘラザードは、私と瞳、美旗先輩とフィリップ先輩のバンドです」
「俺はベース、美旗がギターとボーカル、いろはがドラムに瞳がキーボードを担当してる」
「コンセプトは、賢者と語り部。2ndstreetの物語の語り部の位置づけ」
「と言うことで、オープニングとエンディングを担当しています」
「『賢者は斯く語る』ははたさんが原案、『わたしらしく、あなたらしく』は私の原案」
「じぁあ、美旗先輩から話して」
軽く『シェヘラザード』の説明をしつつ、私に話が回ってくる。私は、どこまで話すべきかと考えながら話し始める。
「『賢者は斯く語る』は、2ndstreetの皆さんにシェヘラザードが唆すイメージです。この世界は不満だろ、と」
「相変わらず、美旗先輩はそう言うのが好きですよね」
「こればかりは好みですから」
「『革命主義者』譲りましょうか?」
「要らないです。私は『理想主義者』ですから」
続けて、瞳が話す。
「『わたしらしく、あなたらしく』は、『賢者は斯く語る』のアンサーソング。対になるように意識した。いくつかパロディしてる」
「明るいのは俺やいろは担当だったから、弾いてて驚いた」
「デモではそこはカットしてるから、実際に買って確かめてね!」
いろはがうまく締めくくる。取り敢えず予定通りに話すことは話し終えた。そろそろ配信を終わろうかと周りを見ると、昼女嬢が私のギターを持って私のところへ来る。
「先生、弾いて!」
後ろを見ると、小春嬢が昼女嬢の裾を引っ張って止めている。
「昼女ちゃん!流石にすぐには無理だよ!」
「えー!コメントのみんなも先生のギター聞きたいよね?」
今度は、コメント欄に助太刀を求める。コメントも、弾いてほしいと言うものがチラホラと。とはいえ、エレキギターはアンプやエフェクターの準備もあり、たしかに小春嬢の言うとおり直ぐには出来ない。
私はため息を付き、昼女嬢に言う。
「昼女さん、そこまで言うのでしたら、私が何か弾くので歌ってください」
「え!?」
私のカウンターに昼女嬢が止まる。席を立ち、壁のアコギを取る。クリップのチューナーでチューニングをしながら昼女嬢を見ると、コメント欄の圧力に屈したのかいそいそと立ち上がる。
「何を弾きましょう?準備は全くしてなかったので、私が出来る物で」
「先生、用意早いよ!私だって心の準備が」
「昼女ちゃん、自業自得だよ?」
「これは昼女さんが悪いですね」
呆れたように言う小春状態と一姫嬢。フィリップは笑い転げている。酔いがかなり回ったのか。
「フィリップが限界に近いので、一曲だけですよ」
「じゃ、じゃあ『紅蓮華』で……」
昼女嬢が選んだのは国民的人気を誇ったアニメのオープニングだった。
「TVサイズでいいですね?これは本当に初合わせなので、少しミスしても笑って流してくださいね」
一言念を押し、昼女嬢の歌いだしに合わせてギターを弾く。
「……ありがとうございました。『紅蓮華』2ndstreetアレンジです」
「いやぁ、緊張した」
「これに懲りたら、少しは反省してくださいね」
コードやアルペジオで誤魔化しつつ、何とか弾き終えた。私達の裏で小春嬢達が配信終了の用意をしていたようで、この後は軽く挨拶をして配信は終了となった。最高同接数はゲリラだったにも関わらず十万人を超えており、2ndstreet過去一位となった。