2ndstreetオフ会③
さて、あれから料理も終わり、皆でそれを摘まみながら時間が過ぎていった。現在の時刻は19時55分ほど。
私達はそれぞれ、自分のシナリオについては知っているものの、他の皆のシナリオは知らない。そのせいで、PVを見るのが楽しみだ。
「テレビ、本当に大きいですね」
「給料の使い道が無かったので、取り敢えず良いものをと店員に言ったら、これが来たんです」
「美旗ってそこら辺豪快だよな」
「美旗先輩、こんど皆で映画でも見ましょう?」
「また押し掛けてくるつもりか……。まあ良いが」
テレビ画面には、PVの待機画面が映っている。今までは無用の長物であったミーチューブを見れる機能も、こういう時に使えるから侮れない。
「そう言えば先生、フィリップ達と私達への口調が違いますよね」
「唐突ですね」
「先生、私達にもフィリップ先輩と同じ口調で話してみて!」
「良い考えですね、昼女ちゃん。さあ、先生!」
「えぇ……。あ、始まりますよ」
「躱された!」
唐突な一姫嬢の発言に、昼女嬢が乗っかる。厄介なことになったと、取り敢えず話を逸らす。丁度画面には、2ndstreet新プロジェクトとロゴが踊っている。私の一言で一姫嬢達もそれに目を向けた。
PVはほんの2分。私達の曲もそれに合わせてサビまでが2分になるように作った。画面は、文字が溶けてなくなるように暗転すると、すぐに一姫嬢の横顔がアップで映る。
私達は、無言でPVに見入っていた。
「何と言うか……」
「凄いとしか言いようが無いですね」
たったの2分。一瞬で過ぎたようで、しかし永遠だったような、濃密な2分だった。最後にアニメーション:帝都アニメーション、ミュージック:シェヘラザードと表示され、暗転した。動画が終わり、再生ボタンが画面に映ったのとほぼ同時に、昼女嬢と小春嬢が口を開いた。
「同時視聴って、もう少しワイワイとやるものじゃ無いんですか?」
「全員、思わず無言になったな」
PVの構成は全員同じものだった。どこかからどこかに行く、無言の映像。違うのは、場所だ。
一姫嬢は街の路地裏。一二三嬢は学校の教室。フィリップはどこかの城。いろはは道場。瞳は近未来の街の大通り。私は学校の屋上。小春嬢は私室。昼女嬢は神社。それぞれの曲名も公開されていない今、これはどうにでも解釈出来るだろう。
「あ、トレンドに上がってるよ!」
エゴサーチをしていたようで、一二三嬢がスマホのトゥイッターを私達に見せる。
そこには、日本のトレンド三位になった[2ndstreet 新プロジェクト]のハッシュタグが映っていた。
私も軽く内容を見てみると、凄かったと言う感想から、各々の考察に至るまで、様々なトゥイートがされていた。
「やっぱ凄いな、この業界」
「それをお前が言うか、美旗?」
「まあ、ここまで有名になるとは思ってなかったからな」
「なになに、美旗先輩。そんなに年寄りくさいこと言って」
「まだまだこれから。もっと頑張らないと」
正直な話をすれば、バーチャルミーチューバーになっても、ここまで有名になるとは思っていなかった。それこそ、フィリップに「お前は絶対人気出るから」と言われても半信半疑だった。それが、同時期デビューの中でも頭ひとつ抜けた登録者数になっている。自分の事の筈なのに、他人事のように俯瞰した感想しか出てこない。
「そう言えば、フィリップも酒飲んでるが、大丈夫なのか?」
更に飲み会を続けて2時間。時刻は10時を過ぎている。ふと、回りを見回して聞く。当たり前のように酒を飲むからつい見逃していたが、フィリップは運転手だ。勿論帰るアテは有るのだろうと回りを見る。
「「あ」」
実に不安感を煽る答えを返したのは今回の企画をしたフィリップと昼女嬢。
「そう言えば、どうするんだ……?」
「ごめんなさい、考えてなかった!」
どうするんだ、じゃない。私の家は、少し片田舎に足を突っ込んだ場所にある。最終バスも、今からバス停まで走っても間に合うかどうか。
「取り敢えずフィリップは泊まるのも問題ないですが……」
これが男性だけなら問題は無いだろう。しかし、メンバーは女性が殆ど。泊まるにしても角が立つ。
「どうしようか……」
「困りましたね……」
それぞれ悩み出す。取り敢えずタクシー代は出そうと、バックの中の財布を探していると、いろはが言う。
「んー、美旗先輩、私も泊まって良い?」
「はぁ!?いやまあ、部屋は問題ないが……」
「いろはさん、さすがに……」
良いよどむ私に、止めようとする小春嬢。いろはに便乗するように、瞳も泊まると言い出す。
「はたさんが居るから変なことにはならないと思うけど、心配だから私も」
「瞳さんまで!」
「先生、私も泊まりたい!」
「昼女ちゃん!」
「さすがにご迷惑では無いでしょうか」
「えー、一姫ちゃん、楽しそうだよ?」
「一二三!もう、少しは慎みを……」
さらに昼女嬢まで便乗する。止めようとする一姫嬢に、一二三嬢までもが誘い出す。
「あの、ご迷惑ですよね?」
「いえ、部屋はあるのですが……」
ついに一姫嬢が揺らぎだし、私に聞く。部屋自体はある。のだが、布団は私の分を除いて五人分しかないのだ。上掛けのいらない季節とはいえ、手狭にもなる。
「ほら、心配なら小春ちゃんが私達を監視してれば良いじゃん!」
「……昼女ちゃん」
さらに、頼みの綱の小春嬢も揺らいだ。
「ですが、ファンからも余り良い目では見られないのでは……?」
私の最後の抵抗。それを、昼女嬢が良いことを思い付いたとばかりに両断する。
「なら、皆で配信しちゃえば良いじゃん!」
「昼女ちゃん、ナイスアイデア!」
それを持て囃すいろは。回りを見ると、全員乗り気になってしまったようだ。
まあ、お酒の入った女性陣をこのまま帰すのも、と思っていた私は、それに乗るしか無かった。
「そうと決まれば、用意しようか」
陣頭指揮をフィリップが取り出す。あっという間に、配信準備の分担まで決まってしまった。
「それでは、私はタブレットを使ってサムネ書きますね」
「私達は買い出しね!」
「頑張る」
「フィリップ、いろはと瞳だけだと心配だから、お前も着いていってくれ」
「了解」
「では、私達で軽く話題を決めましょう」
「頑張るぞー!」
「先生、任せて!一姫先輩、一二三先輩、よろしくです」
「はぁ、どうしてこんなことに……」
サムネは小春嬢。買い出しにフィリップといろは、瞳。配信内容を一姫嬢と一二三嬢、昼女嬢が決める。私は機材回りの用意だ。ため息を着き、私も動き出した。
お読みくださりありがとうございます。次回は2月5日更新予定です。気に入ってくださったらブックマークと評価をよろしくお願いします。