2ndstreetオフ会②
さて、全員が集まって一時間ほど。既に誰が発端か一人一缶酒を開けており、私の家は騒がしくなっていた。現在、私達は全員トランプを握っている。
「八切り。上がりですね」
「あー、ずるい!」
「美旗、イカサマしてるだろ!」
「お前が最初から高い札切ってるからだ」
私達が興じているのは、大富豪である。地域によっては大貧民とも呼ぶようだ。3を1番下に、2を最強の札とするトランプのゲーム。トランプは昼女嬢が気を利かせて用意したものである。
「あ、私もこれで上がりです」
私が抜けて、最後の一枚をそのまま場に出し小春嬢が上がる。大富豪の札の切り方にも個性が出ていた。基本的に手番を考えて出す私に、堅実に上位をキープする小春嬢。最初の貧民から勢いを取り戻せない一姫嬢に、それを狙って順位をキープする一二三嬢。フィリップは何も考えずに手番を取ろうとするせいでずっと大貧民のままだった。
「そう言えば、夕食はどうしましょうか」
『あっ』
私が唐突に言った一言に、全員が呆然とする。どうやら、勢いに任せて何も考えていなかったようだ。
「取り敢えず材料は有るので、適当に用意しますか?」
「私も手伝います!」
「小春さんはお客さんですから、気にしないでください」
「いえ、押し掛けただけでもご迷惑お掛けしてますから!」
「……なら、宜しくお願いします」
「先生、小春ちゃん、私も手伝うよ!」
「昼女さん、料理は出きるので?」
「昼女ちゃんは何と言うか、大雑把で……」
私が夕食を用意すると言うと、小春嬢が手伝いを名乗り出る。と言っても、小春嬢は巻き込まれただけだと考えると、手伝わせるのも忍びない。断ろうとすると、押しきられてしまった。更に昼女嬢も名乗り出るが、何となく心配になり小春嬢に聞くと、微妙な回答が返ってくる。
「ごめんなさい、私、料理は苦手で……」
「一姫ちゃんは家事全般苦手だよね」
「うるさい、一二三」
「気にしないで寛いでいてください。家の事はフィリップ達に聞けば解るので」
「ごめんなさい……」
「私も手伝うよ?」
「一二三さんには、フィリップ達が変なことをしないか一姫さんと監視して貰えると」
「おい、どういう意味だ!」
「そのまんまの意味だよ!」
続けて申し訳なさそうに言う一姫嬢と、それを茶化す一二三嬢。二人には、フィリップ達のお目付け役を頼む。
「取り敢えず軽く摘まめるものでも」
「では、お握りとかはどうですか?」
「私も握るよ!」
「あ、昼女さんはサラダを作って貰えますか?」
「酷い!」
軽くメニューを決める。小春嬢のお握りに、私は直ぐに仕込みを始めて唐揚げや数品、昼女嬢には取り敢えずサラダを頼む。
「道具や材料はわからなければ私に聞いてくださいね」
「炊飯器お借りしますね。用意したら先生の方手伝います」
「野菜とか勝手に使っちゃうよ」
一人で使うには広すぎたキッチンは、珍しく賑やかになっていた。生姜をおろしたり鶏肉の下ごしらえをする私に、流しで米を磨ぐ小春嬢、豪快にレタスをちぎる昼女嬢。
「そう言えば、さっきいろはさんに聞いたんですが……」
「先生、いろは先輩振っちゃったの?」
「昼女ちゃん、言い方!」
「はぁ、いろはと瞳はどこまで話したんですか」
ふと、小春嬢が私に聞く。昼女嬢の言い方からも、大学時代のことをいろはと瞳が勝手に話したことは確実だろう。
「そうですね。いろはに告白された事はあります」
「私が言うのも変なことですけど、いろはさんって悪い人じゃないですよね。何で断っちゃったんですか?」
「ああ、そこは聞いてないんですね。……そうですね、強いて言うなら、そう言う対象としていろはを見れなかった、と言うのが答えです」
あれは、私が大学3年の頃の話だ。当時2年だったいろはが私に告白をした。私が優しかったからとか、カッコよかったからとか、そんなことを理由で言っていた。しかし、私にとってのいろはは明るい後輩で、友人ではあったものの、そう言う異性としては見ていなかった。
「流されて付き合ってしまったら、いろはを傷付けてしまうと思ったんです。疎遠になってしまうと思ってたんですが、結局私達がまだ4人で居られるのは、いろはがあの後も気にしないで過ごしてくれたからですね」
「……いい人ですね」
「本当にそう思います」
「いえ、いろはさんだけでなく、先生もです」
どう言うことかと小春嬢の方を見ると、小春嬢は下を向いて作業を再開していた。長い髪のせいで、表情も伺えない。
何か私から話し掛けるのも変な気がして、無言のまま暫く料理を続けた。
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