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バーチャル教師の指導案  作者: 風上昴
第一章『重圧』
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青山小春:初配信

 さて。私、柴田悠人の同期二人の印象を話そう。

 青山小春。私の次に初配信を行う子だ。本名は木村遥。初対面での印象は、小動物だ。オドオドしていて、警戒心が強い。簡単に言えば、守ってあげたくなるような女性。本人の言によると、イラストを描くこととピアノが得意らしい。私は音楽は少しばかり出来るものの、絵心については教員時代に日本地図を書いて笑われる程に皆無な為尊敬する。私ともう一人の同期のトゥイッターの背景は彼女の描いたミニキャラになっている。青山小春の設定も引っ込み思案な感じなので合っていると言えるだろう。

 さて、もう一人の同期。名前を竹浪昼女と言う。本名は香取葵。配信は小春嬢の次、我々の殿である。昼女の名前の通り、太陽のような活発な女性だ。ゲームは苦手らしいが会話はうまく、雑談がメインの予定らしい。また、歌うのが好きだとの事で、歌枠も取りたいと言っていた。初対面で私と小春嬢を夕食に誘うような行動力は尊敬できるが、外で配信の話をしようとするなど、危うい部分ある。


『あのっ、おま……お待たせしました……』


 ヘッドセットから、小春嬢の声が聞こえた。時間を見ると22時3分。コメントを見ると[待機画面のままだよ!]とか[画面は変わったけど今度は声がw][もしかしてもう鼓膜破られた?]などなかなか問題があったようだ。


『せ、2ndstreetの二期生、2番手、青山小春です……』


 声が小さい。マイクが遠いのか、それとも音量の設定を失敗しているのか。コメントもそれを指摘しているが、気づいていないようだ。運営や先輩らもコメントをしているようだが、それもスルーしている。

 ふと、スマホのトークアプリに通話が来ている。


「はい、柴田です」


 着信相手はマネージャー。


『諏訪さん!突然で申し訳ないのですが、今時間大丈夫ですか?』

「ええ。小春嬢の事ですか?」


『話が早くて助かります。青山さん、コメントを見ていなくて……。一期生の方々や我々が電話をかけたら更に、悪化しそうで。本来なら同性の竹浪さんの方が適任なのですが、初配信前に登場させるのもあまり宜しくないので……』


「わかりました。出来る限りフォローしてみますね」


 マネージャーの電話を切り、小春嬢に電話をかける。配信の方では小春嬢が小さく悲鳴を上げる。


『ひぇ、す、諏訪さん……先生から電話が』


 コメントの方にも反応が起きる。


[先生、助けて!]

[ナイスフォロー]

[初配信が逆凸のパターンは初めてだなw]


 通話に小春嬢が出る。私は少しほっとしつつ話しかける。


「配信中に申し訳ありません。視聴者の皆さん、初めまして、もしくは先程ぶりです。2ndstreetの二期生の諏訪美旗です」

『あ、あの、どうしましたか……?』

「私も視聴していたのですが、設定を失敗しているようでしたので助け船を」

『嘘っ……、わっ!コメントが!どうしよう……』

「とりあえず、落ち着きましょう。はい、深呼吸」


 小さく、すーはーと聞こえる。少しは落ち着いたようだ。


「さて、とりあえず音量をどうにかしましょう。できますか?」

『あの、設定はマネージャーさんに教えてもらって……、どうすれば良いのか』

「そうですか。なら、教えます。まずは……」


 小春嬢に操作を教える。どうやら音量は直ったようだ。


「音量は直りましたね。では、私はこれで……」

『待ってください!あの、これからどうすれば良いのか、頭が真っ白で……。自信もないし……』


 小春嬢の言葉が尻すぼみになっていく。良くあることだ。一度ミスをすると、後を立て直せない。踏み出した一歩目が空ぶれば、誰でも不安になる。


「小春さん。もう一度深呼吸しましょう。できましたか?」

『は、はい』

「初配信に来ている人たちは、完璧な貴女は求めていません。配信タグも挨拶も何もかも、今すぐに決める必要はありません。そんなものは後でも良いのです」


[草]

[さすが先生、教えるのが上手いな]

[配信者とは思えないセリフw]

「視聴者は貴女の事を知りたくてここに来ています。失敗を恥じなくても良い。むしろ、さらけ出しなさい」

『で、でも……』

「ここに居る人達は、人の長所を見つけ、楽しむ事のプロです。九九の言えない先輩の配信を見て笑ったり、一切声のしない、待機画面のままの配信でどんなことを言っているか予想しながらコメントして楽しむ事の出来る人達です」


 それぞれ、一姫嬢-番長-、一二三嬢-ひふみん-の配信で起きた事件だ。勝手に名前を出したことは、後日謝ろう。コメントを見ると、面白いことになっている。


[まさか後輩に、一日に二度も煽られるとは。後で校舎裏です]

[私まで巻き込まれた!番長と校舎裏で待っています]

[先生、怖いもの知らずだな……]

[草]

[どうも、人の長所を見つける天才です]

[良いこと言ってるはずなのに笑いが止まらんwww]


「私達一般人には理解できない、狂人のような感性ですが、そんな人々が世界に少なくとも10万人前後居るようです」


[まさか俺達にまで飛び火するとは……]

[狂人www]

[10万人前後って?]

[たしか番長とひふみんの登録者数がそれぐらい]

[ちゃんと先輩の事も知ってたのか]


「だから、安心して好きなことをしなさい。反省は後ですれば良いのです。反省会には付き合います。ほら、コメントの皆さん。女性が落ち込んでいるときには、とりあえずがむしゃらに慰めるものです」


[先生と名乗っては居たけど、本当に先生みたいだな]

[クサい事言ってるけど、声が良いから似合ってるのが悔しい]

[俺達は何があっても小春ちゃんを推すぞ!]


「もう大丈夫そうですね。では、私は先輩二人から校舎裏に呼ばれているのでここで失礼します」

『あ、ありがとうございます……』


 通話が切れた。小春嬢も落ち着いた。事務所も、なんの理由もなく彼女をデビューさせた訳でも無いだろうから、心配もない。ヘッドセットを通して、小春嬢の声も聞こえている。私のやることと言えば、一姫嬢と一二三嬢に謝罪に行くことだけだろう。


お読みくださりありがとうございました。もともと、一週間に1話のペースで更新する予定でしたが、書き溜めがあるので、しばらく3日ペースで更新します。次回は10月28日です。気に入ってくださったらブックマーク、評価をよろしくお願いします。

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