5万人記念配信⑥
取り敢えず5万人記念配信はここで終わりとなります。
「少々お待ちください。状況が解り次第、再開します」
取り敢えず、配信を一度中断し、私は2人の話を聞くことにした。
「あの、辞めないでとはどう言うことですか?」
「えっと、私は先生が辞めちゃうって聞いて……」
「私も……」
「誰に聞いたんですか?」
「マネージャーに」
「では、マネージャーもこっちに来てください」
事情把握の為に、マネージャーもスタジオに呼ぶ。すぐに、スタッフルームからこちらに来た。3人に事情を聞くと、原因は先程の私のオープニングにあるようだった。
「つまり、私の先程の曲のデモを聞いて、私が辞めるのではないかと思ったと」
「……はい、そうなります」
「そして、小春さんと昼女さんに協力を仰いで、先程の行動に至ったと」
「……はい」
「なるほど。取り敢えず事情は理解したので、配信を再開しましょう。マネージャーも参加できますか?」
「はい。元々ライバー側の手違いで配信に声が乗ってしまうと言うことも有るとは覚悟していましたので、問題有りません」
「では、小春さんと昼女さんも、マイクの接続は大丈夫ですね?始めます」
確認を取り、配信を再開する。コメント欄を確認すると、なかなかに賑やかになっている。
[めちゃくちゃトラブってて草]
[先生辞めちゃうの?]
[行かないで]
[草も生やせないトラブル]
[いや、辞めないって言ってたから大丈夫だろ]
[先生の動揺を見れただけで眼福]
[おっ、再開したぞ]
[とりま説明プリーズ]
「お待たせしました。取り敢えず、人数が増えましたので、紹介から入ります。まず、小春さん」
「はい。2ndstreet二期生の青山小春です。皆さんには、ご迷惑お掛けしています」
「ありがとうございます。次に、昼女さん」
「2ndstreet二期生、竹浪昼女です。ごめんなさい……」
「ありがとうございます。では、最後に私達二期生のマネージャーです」
「はい。二期生のマネージャーをしております。便宜上、マネ子とお呼びください」
「少々トラブルが有りましたので、人数を増やしてお送りします。立ち絵は……小春さんと昼女さんの分は大丈夫ですね。カンペが……[マネ子さんの立ち絵が無い]?取り敢えずフリー素材から持ってきなさい」
[二期生てぇてぇなぁ(震え声)]
[先生の淡々とした声が怖い……]
[マネージャーも出るのか……]
[持ってきなさいは草]
[結構怒ってる?]
[笑えないよ……]
私達が配信を止めて話している間も、裏方はてんやわんやだったようだ。小春嬢と昼女嬢の立ち絵を用意し、マネージャー用の立ち絵は無いため途方にくれていたらしい。私が適当に持ってくるように言うと、すぐにフリー素材から選んできたようで、配信に表示された。
「音量は大丈夫ですか?……大丈夫そうですね。では、この状況について説明する前に、念のため言いますが、私はまだ引退する予定は有りません。ご安心ください」
音量調整も終え、この状況を説明する。
「今回の配信のオープニング、『重圧』は配信の前にデモ音源を事務所に送っていました。それが事の発端になったようです」
「はい……。内容が内容でしたので、諏訪さんが引退してしまうと思い、とにかく止めなくてはと、小春さん達に相談した次第です」
「私と昼女ちゃんでそれを聞いて、マネージャーとこれを企画しました」
「小春ちゃんなんて、悩みが有るなら相談して欲しいって泣いてたし」
「昼女ちゃん!」
「まず、何で私に確認を取らなかったんですか?」
「あまりの事に慌ててて、考え付きもしませんでした……」
「私は、もう先生に確認を取ったのかと思ってました……」
「先生、私達いつまで正座してれば良いの?」
「取り敢えず、マネ子さんと小春さんは椅子を持ってきて座って良いですよ。昼女さんはしばらくそうしていなさい」
「えー!?」
[なるほどなぁ]
[確かにあれ見たら誤解するのも解るわ]
[誰も確認取ってないって、誰も消防車を呼んでないあれじゃん]
[あーあ、昼女ちゃん余計なこと言ったわ]
[と言うか3人正座してたんだなw]
[雑に明かされる衝撃の事実]
[草]
私が椅子に座るように言うと、それぞれ部屋の隅から椅子を持ってくる。小春嬢が昼女嬢の分も持ってくるところに、優しさが出ている。
「小春さんが余分に椅子を持ってきましたから、仕方ないですが昼女さんも座って良いですよ」
「やったー」
「昼女さん、もう少ししおらしくとか出来ないんですか……」
「だって、先生怒ってないでしょ?」
「昼女ちゃん!」
「はぁ、昼女さん。こう言うのは、ナアナアにしておくと後で面倒になりますから、内心はさておき外身は取り繕ってください」
「はーい」
昼女嬢も椅子に座る。マネージャーのしおらしくしろと言う言葉にもどこ吹く風だ。私が怒っていないと言うのは事実だが、この界隈はこれだけでも火種になりかねない。
「そもそも、このような公の場で「辞めないで!」と言われてしまっては、辞めたくても辞めれないじゃないですか。次からはこんなことしないでくださいね」
「「「はい。ごめんなさい……」」」
「と言うことで、オチが無くて申し訳ありませんが、これで5万人記念の配信を終了し……」
私が取り敢えずとまとめに入った瞬間、またもスタジオの扉が開く。
「おう、美旗。楽しそうなことやってるな」
「美旗先輩、こんばんは」
「はたさん、おはー」
入ってきたのはフィリップといろは、瞳の3人だ。後ろに、見知らぬ女性が2人立っている。
「すいません。止めたんですが……」
「オフでは初めてだね!どもー、楠一二三です!」
申し訳無さそうに入ってきたのは、声からして一姫嬢だろう。となりには、おそらく一二三嬢が。
ため息をつき、フィリップに聞く。
「フィリップ、今配信中だって知ってたか?」
「おう、勿論。こっちの方が楽しそうだろ?」
「フィリップ先輩に連れてこられました……」
「同じく」
「よし、フィリップ。そこに正座しろ」
「なあ美旗。この辺、配線が散らばってて正座したら痛そうなんだが……」
「だからだ。さっさと正座しろ」
[草]
[追加で乱入ドン!]
[オールスターで来てて草]
[いや、これとんでもない放送事故だろ]
[先生の胃が偲ばれる……]
[配線多いところに正座は草]
[配信では初対面なのに扱いが草]
[どっちが先輩だかわかんないな、これw]
[番長とひふみんも結局入っては来るのかw]
[一気に騒がしくなった]
[2ndstreet全員コラボの会場はここですか?]
[はい、ここが先生の5万人記念配信です]
[陣内智則の英会話みたいなこと言ってて草]
さて、どうオチをつけたものか……。
「あー、もう!余計なことするなよフィリップ!幼稚園みたいなことになってるぞ!どうやって終わらせるんだよ、コレ!」
「いや、それを考えるのは美旗の仕事だから」
「ふざけるな!」
フィリップにどうにかさせようとしても、全く役にたたない。私は、オチをつけるのを諦めて瞳に言う。
「瞳、そこのキーボードを用意してくれ」
「りょ。はたさん、なに弾こう?」
「[蛍の光]で頼む。おい、幼稚園児共!歌え歌え!」
すぐに、瞳が[蛍の光]の演奏を始める。
[収拾つかなくなってて草]
[治安の悪い先生良いぞ]
[今日の先生本当に災難で草]
[あっ……]
[帰らなきゃ……]
[ほーたーるのーひーかーりー]
[先輩を幼稚園児扱いは草]
[まともなの番長ぐらいで草]
[コメント欄にも幼児退行したやつおって草]
こうして、私の5万人記念の配信は終わった。後で聞いた話では、最後の乱入の辺りから視聴者が一気に上がり、7万人を越えたようだ。スパチャの額も30万を越え、2ndstreetの配信ごとでのスパチャの最高額を突破したようだ。
『それでは、諏訪美旗でした。……全員、そこに正座しろ』
配信終了間際の私の一言が切り抜かれ、話題になったのは、ほんの翌日の事だった。
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