5万人記念配信③
私の5万人記念の配信は、予定通りに進んでいた。途中でコメント欄に[ダグザさんの名言言って]なんてコメントが挟まれたりと、予想外の事も起こったが。
私が『不器用な男』を歌い終えると、小休止が挟まれた。
「ここまで、お疲れ様です。5分程でまた動いて貰うことになりますが……」
「ありがとうございます、マネージャー。それにしても、まさかここまで人が来るとは」
「私たちも驚いています。1万5千程度を予想していましたが、それだけ諏訪さんは人気があったと言う事です」
現在の同接は3万人程。最初の予想であった1万5千人のダブルスコアを越えている。小休止を挟んだ時点でのブラウザバックもあるだろうと思われていたが、現在も減るどころか増え続けている。
「ここまで30分程ですが、このままで大丈夫ですか?」
私の心配は、少し早めに進めすぎてしまった事である。といっても、リハーサルの時点でもこの程度のペースで、祝電を含めて50分程で終了となった。
マネージャーからは、「絶対に大丈夫です」と言われていたが、私の配信の為に時間を開けてくれた人達に、「少し早めに終わってしまいました」と言うのも不誠実な気がする。
「大丈夫です。イレギュラーが起きるのが、記念配信と言うものですから。こちらでも対応はしますので、安心してください」
マネージャーが答える。リハーサルと同じように。
「それよりも、小休止ですから、諏訪さんも休んでください。あと2分程で再開しますから」
さて、マネージャーの言葉通り、少し休んだ私は、先程と同じように配信を再開した。
「お待たせしました。後半の部、始めます。どうやら、私の5万人を祝ってくれているのは皆さんだけでは無いようで、いくつか祝電が届いています。一つ一つ見ていきましょう」
今回の5万人記念では、凸や凸待ち-こちらから通話を繋いだり、相手から通話が来るのを待つ-ではなく、先にお祝いの言葉を動画にして送って貰う方式にした。
「私自身、まだ動画は拝見していないので、どのような事を言われるのかは知りません。では、一つ目」
画面に、一姫嬢と一二三嬢が映される。
『諏訪さん、5万人記念おめでとうございます。2ndstreet一期生の桜木一姫です』
『おめでと~、同じく楠一二三です!』
「お二人とも、ありがとうございます」
『さて、諏訪さんの事ですから、時間が足りなくなると言うことも無いと思いますが、せっかくなので少し長めに話しますね』
『まずは、第一印象から!先生の初配信は見てたよ~?』
『私も見ていました。新人に突然弄られるとは思いませんでしたよ』
「その節は、お世話になりました」
『私は最初、本当に先生だったって聞いてビックリしちゃった。でも、雰囲気とか結構似合ってたね』
『しかも、小春さんの配信の時、突然私達の事を弄り出すので、更に驚きました』
『私も、先生の配信の時は難を逃れたと思ったのに、思わぬところに伏兵が居たからね』
『まあ、小春さんに悪い印象を抱かせないように、先生の方が注目されるようにしたと言う思惑は解りますが……』
『ええ!?そんな事考えてたの?気づかなかった!』
『一二三、貴女気づいて無かったの?』
『全然!へー、でも先生、そんな事考えてたんだ?』
「ええ……まあ、はい」
『私達とのコラボでも、同期二人が大切って言ってましたしね』
『私達より、小春ちゃんと昼女ちゃんの方が大切なんだよね~?』
「あの、そろそろ切って貰っても良いですか?」
一姫嬢と一二三嬢の言葉がだんだん不穏になってくる。このままでは不味いと、スタッフに動画を止めて貰おうと、そちらを見る。
「……ダメですか……」
[草]
[珍しく先生が押されてる]
[良いぞもっとやれ]
2ndstreet公式[ダメです]
[いや草]
[公式が記念配信でコメントするなw]
[こんな美味しいこと、止めるわけないよなぁ]
[先生の弱点は年下の異性か]
[草]
[言い方よw]
『まあ、あまり詰めるのも良くないですね』
『そうだね。先生、貸し一つね』
「……謹んで、お受けします……」
2人は、言いたいことだけ言うと、動画を終えた。
頭を抱えたくなるのを抑え、一言ぼやく。
「5万人記念とは、一体……」
[草]
[5万人記念と言うなの胃への攻撃]
桜木一姫[コラボ、またしましょう?]
楠一二三[企画は私達で考えておくね!]
[草]
[2人もよう見とる]
[退路経たれたなぁw]
「あと、先程私が年下の女性に弱いとコメントした人、名前覚えましたから」
[ヒッ]
[草]
[良かったな、名前覚えて貰えて]
[あの、スパチャとメンバー登録で許して貰えませんかね……?]
[あ、こいつ死んだわ]
[コロッケパン さんがメンバーに参加しました]
[コロッケパンな、俺らも名前覚えたわ]
「コロッケパンはそのうち無茶振りしますので、覚悟しておくように。それでは、次の祝電です」
5万人記念は、少し前倒しで進んでいく。大丈夫かと、一抹の不安を抱えつつ次の動画を見る。
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