旧友と再結成
「それじゃあ、悠人の5万人記念に、乾杯ー!」
「「「乾杯!」」」
小さめの個室に通された私達は、それぞれ一杯目の酒を片手に、乾杯をした。私と龍生は生ビールを、彩奈は日本酒、静はカシスオレンジをそれぞれ手にしている。
「それにしても、一週間で5万人まで行くとはなぁ」
「私達もうかうかしてると直ぐに追い越されちゃいますね」
「私は最初から龍生達のお陰で知名度があったからな」
「またまた、悠人先輩は謙遜しすぎー。少しは自分の出した結果だって誇っても良いんだよ?」
龍生、静、彩奈が口々に言う。もう少し誇れ、か。初配信の日に降って沸いた偶然が、今の私の成果を作り出している。小春嬢が、昼女嬢が、一姫嬢と一二三嬢が居なければ、きっと私はここまで来ていないだろう。そう考えると、私にはこの結果が私の努力の成果だとはどうしても言えない。
「それにしても、龍生先輩が抜け駆けして悠人先輩を推薦するなんて、ずるいですよ」
「そうです。りゅうさん、私達にも相談してくれてよかったんですよ。そうしたら、私達もゆうさんを一緒に推薦したのに……」
「ごめんごめん。でも、そうしたら悠人が縁故採用だって叩かれそうだろ?」
「それはそうですけど……」
話は、私の2ndstreetへの所属の件に移った。私は、公募枠の小春嬢、昼女嬢とは違い、龍生の推薦によってバーチャルミーチューバーになった。
もともと公募で女性2人と男性1人を募集していた2ndstreetは、男性の公募の中に良い人が居なかったようで、2ndstreet一期生唯一の男性である龍生に伝を辿ってほしいと言っていたようだ。
私も面接などの審査は自力で通過したし、マネージャー曰く「フィリップさんに頼んだのは紹介だけで、審査自体には一切の忖度はありませんでした」との事だったので、実際縁故採用では無かったようだ。しかし、端から見れば縁故採用と断じられる可能性もある。この程度ではいけない。もっと結果を出さなければ、龍生は慧眼だったと言われるほどに、成果を出さなくてはいけない。
「ゆうさん……ゆうさん!聞いてますか?」
「ダメだよ、静。どうせ何時もの、考えすぎているだけ」
ふと、肩を叩かれる。横を見ると、龍生が私の肩を叩いていた。
「悠人。思慮深いのは美徳だが、過ぎればただの杞憂だぞ」
「ああ、ごめん。……この徳利は?」
「久しぶりに集まったんだ。呑み比べでもしないか?」
「いや、悠人先輩。私は止めたんですよ?」
「私も止めた。どうなっても知らないから」
目の前には、大量の徳利が置かれていた。龍生を見ると、既に自分のお猪口に日本酒を注いでいた。
「あのなぁ、龍生。お前、下戸なのにどんだけ頼んだんだよ」
「お前が考えすぎて止めなかったのが悪い。さあ、呑むぞ」
龍生は、飲み会が好きな割には酒に弱い。徳利一つも呑みきれば眠ってしまう。既にビールを呑んでいる以上、徳利一つも呑みきれないだろう。
「お前の事だから、俺への批判とか気にしてるんだろ?ずっと言ってるじゃないか」
顔を赤くしながら、龍生が続ける。
「俺が動いて、お前が対応する。そうすれば、大抵の事は何とかなるって」
学科も違う私と龍生が、親友とも言える関係になれたのは、龍生のこの言葉があったからだ。わたしが軽音サークルに所属したのも、バーチャルミーチューバーになったのも。
「……で、この大量の酒はどうするんだ?」
「それは悠人が何とかしてくれる」
「まったく、勘弁してくれよ」
私は、目の前のお猪口に日本酒を注ぐ。すると、彩奈と静もこちらにお猪口を付き出してきた。
「はいはい、先輩2人だけの世界を作るんじゃありません」
「私達も混ぜて。私達は、4人で1つ」
「ゆ、悠人、トイレ行ってくる……」
「全員呑みすぎだ。毎回酔いつぶれて、後処理をする俺の気持ちにもなれよ……」
良い雰囲気になった途端に龍生がリタイアする。飲み放題の時間はまだ1時間ほど残っているのに、勿体無い。しばらく待つと、龍生が戻ってきた。
「ただいま……うぷっ」
「呑みすぎだ、龍生。水を頼んどいたから飲め飲め」
「ゆうさん、次は何呑む?」
「まだ呑む気なのか……」
結局、二時間の飲み放題で、3人は完全に出来上がっていた。私が会計を済ませ、3人を引きずって飲み屋から出る。公園で、夜風で酔いを覚ました3人を駅まで送り届けたところで、やっと私は一息をついた。
「それにしても、今度オフコラボをしよう、か」
しかも、事務所のスタジオを借りてバンドをだ。龍生は酔っ払った翌日は腹の内容物と共に記憶を失うタイプだが、彩奈と静は覚えている可能性が高い。
しばらく真面目にギターを触っていなかった。オフコラボまでにやらなくてはいけないことが決まった。
1つは、私が縁故採用であると断じられなくなるほどの成果を出すこと。2つにギターの練習をする事。そして、3つにそれまでの間に表でも4人の仲が良いことをアピールすることだ。
「ん?」
ピコン、とスマホに通知が来る。そこには、[せっかくだから、俺達の関係はコラボまで隠しておこうぜ]と言う龍生からのメッセージが。さらに、彩奈の[良いですね!]の返答。
「思いつきで動く癖、マジでどうにかしてくれ……」
私はため息をついた。
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