終わりの始まり?
今日、僕は奥さんに殺された。
自分の奥さんに殺されたのだ。
まあ、こんなこと言ってるんだからまだ死んじゃあいないんだけど
こりゃもう時間の問題。
何せ、"人類が作った化学物質の中で最も毒性の強い物質"
を顔にぶちまけられたのだから・・・・・・・・
おい、ホントかよ!
信じられん!
何でこんなことになったんだ!!
世の中の殺人事件の半分近くは家族、親族が犯人だと言うけれど
そりゃ、金銭的な揉め事があったか、相当仲が悪い家族の犯行だろう?
言うちゃ悪いけどウチは町一番のオシドリ夫婦。
いや、世界一の仲良し夫婦だったのに!!
まあ、思い当たるフシは無いと言えばウソになる。
人間、死ぬ時にはホンの何秒かで走馬灯のように記憶が甦るというから、どうしてこんなことになったのか、最後に整理してみようか・・・・
スノーガール第1話
僕は使えないヤツだ。
人付き合いも下手だし、会社でも怒られてばかり。
他人の半分の仕事しかできないから無理もない。
僕は右手が上手く動かない。何かの事故か、病気の後遺症で力が入りにくく細かい作業が出来ないんだ。
左手で書く文字は遅くて下手くそ、パソコン打つのも片手しか使えない。
他人に迷惑を掛けないように、朝は1時間早く出勤して仕事に取りかかるんだけど、急に入った仕事やミスのフォローなんかはその場のことなので、ごまかせない。
今日もさんざん部長に叱られたもんなあ。
いやだなあ…落ち込むなぁ………いかん、いかん!気持ちを切り替えないと!!
我が家まであと三十メートル、最高の奥さんが待っているんだから
外での悩み、ゴタゴタを家の中まで持ち込んだらだめだ!!
"ピンポーン"
「ただいま!」
「お帰りなさーい!ああ、良かっ
た!ああ〜心配したぁ!!」
ウチの奥さん、泣きそうな顔して玄関まで飛び出してきた。
「どうしたの!?」
「どうしたの、じゃないわよ!
だってあなた、いつもより1
0分も帰りが遅いんですも
の!!」
「大袈裟だなぁ、10分位いいだろう」
「でもまた、この間みたいに
"いわれなき残業"をおしつ
けられて、身も心もボロボ
ロに……」
「いやいや、そんときの残業ってたったの30分だし、仕事内容も自分のミスだし……」
「これはもう、会社に乗り込
むしか無いかと……」
「ホント、やめてね」(^_^;)
「ほほほ、冗談はさておき晩御飯にしましょう!」
「冗談って、格好が外出用じゃねーか!?」
僕は山田防人28才
始めにも言ったけど本当にダメなヤツなんだ。右手の事もそうだけど、そもそも僕はまともじゃない。
13才から20才までの記憶が全く無い、すっぽりと抜け落ちているんだ。
何故そうなったのかは分からないし、親も教えてくれなかった。
ウチは親の都合で日本中、転々と引っ越しをしていたので周りの人たちも僕のことはあまり知らない。
13才までは四国の高知に住んでいて気がつくと東京の病院のベッドの上にいた。20才になっていたのだ。
なんぼなんでも、そりゃ無いだろう!!
13〜20才といえば、一番良い時じゃないか!!
恋をしていたのか、何かを目指して勉強していたのか、それともずっとベッドの上にいたのか………
今ではそれをしっていた両親も、もういない。
僕の奥さん、雪子は五つ年下の23才。
昔の僕のことを知っている数少ない女の子だ。
ちなみに僕は向こうのことは、全く覚えていなかった。
=3年前=
この世で唯一、僕の味方だった両親が何でもない車の事故で二人まとめて逝ってしまった。
もう死ぬ!絶対死ぬ!誰が止めても死ぬ!!
仕事も嫌だし、友達もいないし、彼女もいない。
あっ、そうか、止めてくれる人さえいないのか……
かえって清々するなぁ………
あとはもう、でっきるだけ目立たない、他人に迷惑を掛けない所でひっそりと……
僕は二日間街中をうろついたけど
なかなかそれらしい場所もないもんだ。
そして三日目の朝に、見知らぬ女の子に声をかけられたんだ。
「山田君でしょう?」
ええっ!僕のことを知っているのか!?こっちはあなたなんかしらないけれど。
「山田君……あなたは死ぬ気だ!!」
ひぃ!!突然なんちゅうことを!!
なんで知ってんだ!!
突然現れた、その少女は年の頃なら十九か二十歳
長くてサラサラの黒い髪、透き通るような白い肌。
まさに地上に降りた最後の天使!
コッチは会ったことも話した記憶も全くないのに、向こうは僕の名前も今、うろついている目的も知っている!!
超能力者か、はたまた、その人間離れした後光がさすかのような美しさ・・・・神か!神なのか!?
僕は思わず声に出していってしまった。
「神さまですか?」
「にんげんです」
「だったら、なぜ僕が死のうと思っていることを・・・・?」
「貴方はご両親のお葬式を終えたあと、2日間でビルの屋上に24回、線路の踏み切りに16回、そしてレンタルビデオショップのアダルトコーナーに1回、足を運びました。」
「よっく見てるなあ!!」Σ(゜Д゜)
「最後のは、良く分かりませんが、これは間違いなく自殺しようとしている人間の行動パターンですから」
「それだけ付け回して監視してたんなら、なんで最後のココで声をかけてくるんだよ!?」
「いや、少し落ち着いたのかと思いまして」
「むぅ…兎に角、僕が死のうが生きようが、貴女にはなんの関係もないでしょう!」
「それが、あるんですねぇ〜」
彼女は少し得意げにそう言った。
「あるの?!」
「大ありです」
「・・・・・・・・」
「あなたは昔、父に男手ひとつで育てられ、回りは父の仕事仲間の大人ばかり、友達の一人もいなかった小学生の私と毎日のように遊んでくれました」
「そうなの?」
「そうです。母や友達のいない寂しさで、何度も死のうと考えていた私でしたが、貴方が遊んでくれるようになってからは、それが楽しくて楽しくて、死にたいという気持ちも忘れてしまったのです。だから貴方は私の命の恩人!絶対死なすわけにはいきません!」
そう言うと彼女は凄く優しい、真剣な目で僕をみつめた。
僕はどうしていいか分からなくなったけど、自分の事を知っていてくれる人間が両親以外にもいてくれた事が何とも嬉しく、心強く思えたのだった。
「本当に死ぬ気なんですか?」
彼女が真っ直ぐな目で問いかけてきた。
「死にますよ」
「死ぬってことは、その命、要らないってコトですよね?」
「いらない、いらない。僕にとっては一円の値打ちも無いからね」
「じゃ、下さい」
「えっ?」
「貴方にとっては一円の値打ちも無くても私にとっては、え〜〜と・・・・だいたい、六億円くらいの価値があるんです!」
「キャリーオーバー!!」
(/ロ゜)/
「そう、宝くじ当たったくらいのもんなんです!逃がしませんよ!死なせませんよ!」
彼女は怖いくらい真剣な顔で、大演説をスタートさせた!
「捨てるくらいなら、役にたてる人にあげる。それが、エコロジー、リサイクルの理念でしょう?絶対後悔させない!貴方を
苦しめるモノ、いじめる人、騙そうとする人、全てから守ります!!どうせ死ぬ覚悟が有るのなら、どうなっても平気でしょう?もしも私のモノになって、最悪なことになったとしても、どうというコトは無い、大して状況は変わらない。その時、改めて死ねば良いだけの話・・・・
私と・・・・結婚して下さい!!!!!」
(僕)「・・・・・・・・」
(彼女)「・・・・・・・」
(僕)「今日、初めて話した人なんで、ムリです」(´∀`)
(彼女)
「ええーーーーー!!!」(゜ロ゜)
(続きます)