――GAME OVER――
ありそうで無かった、いや、なさそうで無かったR18ゲームの大会がついに決着!
二人の最後の超絶攻略が冴えわたる!
とはいえこの小説はR18ではありません。(ギリギリを攻めています)
安心して、その決着をその目で目撃せよ!
戦況としては、圧倒的に紗魅ィがリードしていた。運も彼に味方していた。高難易度と言われる【双子姉妹との3Pイベント】を発生させることにも成功したのだ。これでこの日ここまでの攻略人数は7人。虹7の残り3人を攻略できれば、前人未到の二桁攻略となる。
一方のアルカリ三世はまだリィシャ・オレンジの一人だけ。このペースでは残り2人の虹7攻略だけでもギリギリだろう。
現在紗魅ィのキャラ【蒼月】はバイクを使用して次のイベント地点に迫っており、アルカリ三世のキャラ【魔夜】は徒歩で図書館に向かっていた。
効率を求め、一秒たりとも無駄にはしない紗魅ィのプレイスタイルとは真逆を行くように、アルカリ三世はじっくりとプレイを進めていた。
だが、運を味方につけているのは、やはり紗魅ィのようだった。
魔夜は足を止めた。公園のベンチに人影を見つけたのだ。周囲は暗くなり始めているが、人影の主が誰かは見て取れた。紅林結愛だ。ミス虹光学園でアイドルの卵である。
今夜、「相談したいことがある」と呼び出されていたが――。
アイドル活動の事で家族と諍いが生じていることは以前から聞いていた。その事で家を飛び出してきたのだろうか。
図書館での約束まではまだ余裕がある。だが、思いつめた様子だった結愛の相談をきちんと聞けば遅れてしまうのは確実だ。だとしても、一人でベンチに座っている結愛を放っておくわけにもいかない。
魔夜は意を決して、スマートフォンを取り出した。
「さぁアルカリ三世ピンチだ! なんとここで虹7ナンバー1の紅林結愛と遭遇! 公園イベントが始まってしまった! 図書館イベントに間に合うのか!?
一方、紗魅ィは快調そのものだ! 順調に虹7の攻略を進めているぞ!」
既に陽は落ちて、虹光町は夜の帳に覆われていた。蒼月はつい先ほどナンパしたカフェ店員、紗希を後ろに乗せ、河川敷をバイクでとばしていた。残る予定は紫乃森梨絵だけだ。今からなら十分二人とも落とせる。一日で11人斬り、それは彼にとっても記録的な事だった。
蒼月はわざとスピードを上げて紗希をしがみつかせると、川沿いのホテルへバイクを走らせた。
すっかり日が暮れた道を、魔夜は全速で走っていた。約束の時間を大幅に遅れている。結愛と会う前に電話を入れておいたのだが、予想外に遅れてしまった。
もう、帰ってしまっているだろうな――。
魔夜は焼けつくような焦りの中でそう思った。すでに図書館の閉館時間は過ぎている。
それでも魔夜は速度を緩めなかった。
図書館に着くと、案の定既に閉館した後だった。明かりの消えた図書館周辺は暗い。
人影は――見えない。
やはり、もう帰ってしまったのか――。
そう思った時、小さな声が聞こえた。
「……魔夜くん……?」
約束をしていた黄崎ゆずが、駐輪場の死角から、そっと顔を出した。
「少し、遅すぎるんじゃない?」
ゆずの声は冷たかった。
魔夜は、ただ詫びるしかなかった。
「アルカリ三世ピンチ! 虹7最後の一人を落とすことができるのか!? 現在好感度ポイントは【一線越え】ラインに達していないぞ!
運も味方につけた紗魅ィは最後のターゲット、紫乃森梨絵のイベントに向かって移動中! 不可能と言われた虹7のワンデイ攻略そして前人未到の一日11人攻略達成は目の前だ!」
ゆずの目に涙がにじんでいた。街灯の明かりが反射して輝く涙。
魔夜を糾弾するゆずの声が震えていた。もちろん怒りもある。が、黙って全てを受け止めている魔夜に感情をぶつけているうち、その怒りの内圧は次第にその力を減じてきていた。そして、爆発的な怒りに覆い隠されてしまっていた別の感情がゆずの意識に上り始めたのである。
一人で待っていた時の心細さ。そして魔夜が来たとわかった時の安堵。
もう来ないんじゃないかという不安。もう少しだけ待ってみようというあきらめきれない想い。そして、やっぱり来てくれたという嬉しさ。
約束が守られなかったという悲しみももちろんある。その全てがないまぜになって、ゆずは自分の感情が制御できなくなっていた。
魔夜を責める言葉が単調に、そして弱々しくなっていった。
「私もう……帰る……!」
魔夜に背を向けたゆずの涙声。
魔夜は何もいわず、ゆずの腕を引き寄せ、その身体を抱きしめた。
「ずるいよ……魔夜くん……」
ゆずは気づいていた。今まで、こんなに素直に、誰かに感情をぶつけた事はなかったのだ。こうして自分の感情を受け止めてくれた人は、魔夜が初めてだった。
魔夜は、自分の胸に顔をうずめて泣きじゃくるゆずの頭をそっと撫でた。
ゆずが魔夜の顔を見上げる。ゆずの涙を、魔夜の指がそっと拭った。
そして、二人の唇が重なった。
ゲームは終わった。
場内は先ほどまで映し出されていた【幻の駐輪場イベント】に、興奮冷めやらぬ状況だ。
「さぁ、ゲームは終了だ! 二人の勇者、ステージに出てきてくれ!」
ぽん・PEN吉の合図とともに、プレイブースの扉が開く。会場は大歓声にあふれた。
「とりあえず、二人ともお疲れ様! すっごいプレイを見せつけてくれたわけだけど、感想を聞かせてもらえるかな? まずは、紗魅ィ!」
紗魅ィ・蒼月は一歩前へ出て、大観衆の紗魅ィコールに手を上げて応える。
「今回は、運も味方してくれたと思う。昨日までにちゃんと種は撒いておいたんだけど、きっちり回収することが俺にとっての最低ラインだったからね。それ以上の結果を出すことができたのは、幸運をきっちり生かすことができたからだと思う」
紗魅ィ・蒼月はそう言って一歩下がった。勝利を確信しきった声音だった。
「いやぁ、ホントすごかった。移動効率とか、プレイの参考になるテクニック満載だったよなぁ! ありがとう!
さて、片やアルカリ三世。最後のイベントはヒヤヒヤさせられたぜ! しかしあの幻のイベントを最後で見せてくれるとは!
感想を聞いてもいいかな?」
アルカリ三世はその巨体の背後から一冊のスケッチブックを出して、マジックをさらさらとすべらせた。
「あぁ、アルカリ三世は喋るのが苦手なんだ。筆談で感想を書いてくれたから、読ませてもらうぜ!
ええと、『楽しんでプレイできた。見ている人も楽しんでくれていたらそれが一番』。
くぅ~! 良い事言うぜ!」
沸き返る観衆。その声のボリュームは紗魅ィ・蒼月の時よりも大きかった。
「さぁ、では結果発表だ! 二人とも! そして全世界の虹7ファンのみんなも、耳かっぽじってよく聞けよ!」
うおおーっ、という歓声が沸き、徐々に静まっていった。
みなぎる緊張感。
「総合攻略ポイント! 紗魅ィ・蒼月7,362! アルカリ三世3,921!
そしてプレイクオリティポイントを含めた最終結果!
【レインボー7アイドルストリートハンターG世界大会! 頂上決戦20XX】!
優勝は! アルカリ三世!!」
ドーム内が歓声で沸き返った。
「ちょっと待ってくれ!」
声が上がった。紗魅ィ・蒼月だ。
同時にアルカリ三世も「ちょっと待って!」と書いたスケッチブックを振った。
「何故だ!? 俺の方が攻略人数も多い。ポイントも高い。色んなテクニックだって見せた。何故こんな結果になるんだ!?」
必死にアピールする紗魅ィ・蒼月。その横で、アルカリ三世も「困る! 困る!」と書いたスケッチブックを振る。
「そうだな。審査結果の内容を端的に説明しようか」
ぽん・PEN吉が紗魅ィ・蒼月の肩を優しく叩いた。
「美少女ゲームが何故存在するのか、っていう事だよ。
君は効率を重視するあまり、全てのイベントで音声飛ばしてただろう? ただ効率よく上手にクリアするだけじゃ、他のジャンルのゲームと同じだって事さ。
その点、アルカリ三世のプレイは、見てる人をドキドキさせ、本当に恋愛している気持ちにさせてくれた。そこが根本的に違ったんだよ」
がっくりと肩を落とす紗魅ィ・蒼月。彼はアルカリ三世に向き直った。
「確かにそうだ。俺は何かを間違えてしまっていたようだ。今回は俺の負けだ。次は負けないからな」
潔い彼の言葉に、会場から拍手の渦が起こった。だが。
アルカリ三世は「困る! 困ります!」というスケッチブックを持ったままうろたえている。
「どうしたんだアルカリ三世! 優勝者は君だ!」
ぽん・PEN吉の声にさらに場内がヒートアップする。
「ん? なに? ええと……『優勝したら、顔出しするって約束しちゃったから、困る』?
いいじゃないか! 『ロマン派の巨匠』アルカリ三世がどんなやつなのか、見てみたいよなぁ、みんな!」
うおぉ~! と歓声が上がった。
「うぅ……」
くぐもった声が漏れた。そして、意を決したように、アルカリ三世がマスクとサングラスを取り、服に手をかけた。
着ぐるみのような肉体は、着ぐるみだった。
中から出てきたのは、ショートカットの女の子だった。しかも、かなりの美少女だ。Tシャツにショートパンツといういでたちだが、着ぐるみの中に長時間いたせいで少し汗ばんでいる。
一瞬静まり返った会場は、爆発しそうな熱気をはらんだ歓声で満たされた。
「だから、嫌だったのにぃ……」
そう言ってうつむくアルカリ三世。
「あ、アルカリ三世さん! 俺と一緒に、プレイ動画とかやりませんか!?」
すかさず言い寄る紗魅ィ・蒼月に、アルカリ三世は笑顔で答えた。
「私、あなたのプレイスタイルじゃ、一生落ちませんよ?」
14万人を収容する巨大ドームが、歓声で揺れた。
――GAME OVER――
最後までお楽しみ頂きありがとうございました。
評価やコメント等頂けると嬉しいです!
是非是非!